43-1:原子力というオカルトを感情論を無視して解説してみた!
未来の食糧問題を見据えつつ誰もが愛するカワイイペットタルカコと人類を出会わせ、エネルギー問題を一挙に解決するため原子力発電の技術に革新をもたらす。
星の人類すべてのためとも言えるこの2つの流れは、本当に傾国の九尾ナイノメが導いたものなのだろうか?
その仮説を検証するため、3人は過去のナイノメの悪行の検証を行うこととなった。
「地球では古代中国殷王朝の崩壊だけだが、こちらではいくつも国を滅ぼしているんだな」
「国と同時に零落した神も少なくない」
「う~ん、結果だけ見ればそうなんだけど~。
その滅びの過程でどこも急速な発展を遂げ、しかも滅びた後はその滅びを教材に、世界全体の発展レベルが上がってるのよね~。
この滅びってホントに彼女自身が手を下したのかしら~」
その指摘にヨッシーは真顔で思考に入る。
「ユウキ、放射能歯磨き粉って知ってるか?」
「は? なんだよそのどこぞの完璧に幸福な世界のゲームにしか出てこなそうなトンチキグッズは」
「放射性物質であるラジウムが配合された歯磨き粉だ。
使用から1年もしないうちに歯が抜け落ちついでにダイエットもできる」
「明らかに被ばくしてるんだよなぁ」
「この他にもラジウムチョコレートや子供用放射能実験キットもある」
「実に完璧で幸福なラインナップだ」
「これらすべて現実で販売されていたものだ」
「は?」
嘘だろ? とサダコ姉に目配せを送るが、真顔で頷かれてしまう。
「キュリー夫人によりラジウムが発見された頃。
人類は放射能の恐ろしさを知らなかったし、被ばくという概念自体が存在しなかった。
あの原子爆弾すら、物凄い破壊力の爆弾というだけで、その真の恐ろしさとも言うべき副次効果には誰も気付いていなかった。
有名なデーモンコア実験も、放射線防護服を身につけることなく平然と行われていたしな」
・デーモンコア実験
球状に濃縮加工したウランの塊をマイナスドライバーを挟んで別のウランの塊と近づけ、隙間のマイナスドライバーをぎこぎこ動かすことで発生する核反応の青いチェレンコフ光をきれいだなーとか言いながら観察するたのしい理科実験(1945)のこと。
当然実験を行なっていた科学者達のうち10人が死亡。
原因不明の怪死の原因となったウランの塊はデーモンコア、悪魔の核と言われ恐れられた。
「ヒロシマ・ナガサキも、後のチェルノブイリやスリーマイルや福島も、すべてが忌むべき放射能災害だ。
だが、もしもそんな事故が起きていなければ。
原子爆弾はもっと強力なものとなった上でどこかの戦争で一斉投下されていただろうし、原子力発電は世界の電力のほとんどを担い大都市の近郊にも建造されており、どこかで致命的な事故を起こしていた。
もちろんこれらの事故で被ばくした人々の冥福は祈りたい。
それでも、いつだって人類はこうして亡くなった人々の屍の上に歴史を作ってきたんだよ。
ところで僕はフグが好きだ。うまいからな。
しかし、このフグを食べるために、どれだけの人々が死んだか、僕は具体的な数を知らない。
そして今なおフグは世界中で人の命を奪い続けている。
ある意味でフグと原子力は等しいんだよ。
なのに何故フグは好まれ、原子力は嫌われる?
本当に人間の感情というものはわけがわからないと思わないか?」
それはヨッシーが稀に見せる、マッドサイエンティストの言葉のように聞こえた。
だが、よくよく考えてみると確かに感情論以外で否定する言葉がないことにも気付く。
おそらくフグだけに限った話ではない。
電気の開発でも大勢が感電死しているし、蒸気機関と内燃機関の開発でも大勢が爆死しているし、そもそも建材である木材や石材の切り出しでも大勢が死んでいるはずだ。
なのに、何故放射能だけがこうも恐れられているのか?
それはきっと……
「原子力がわからないから。
原子力が、オカルトだからだ」
「そうだ。
人はわからないものに恐怖し、祟りや呪いと言って遠ざけてオカルトにしてその恐怖に尾ひれをつける。
原子力などもはやほとんどが尾ひれで構築されていると言っていい。
例えば、今でも福島産の米や野菜からは放射性物質が検出される。
これは事実だ。
そして、この地球上で育った限り放射性物質が検出されない米や野菜は存在しない。
問題はどれだけの量が検出されるかなのだ。
しかし、誰もその安全域を知らない。
現在の福島産の米や野菜の放射性物質検出量は基準を大きく下回る。
誰も放射線がどういうものか知らんのだ」
「実際そうなんでしょうね~。愚かなことだわ~」
「僕は一昔前、真剣にガイガーカウンターを自作して儲けようと考えたくらいだよ。
まともなガイガーカウンターの値段は十万円前後。
しかし、大学などの研究機関で使うのでなければ、その十万円のガイガーカウンターが危険水準の放射線を検出することは未来永劫ありえない。
彼らが欲しかったのはガイガーカウンターじゃない。安心の根拠だ。
ならもう、一生安全値でメモリが上下するだけのおもちゃを作って3000円くらいで売ることは詐欺どころか世のためだと思わないか?」
「実際それが本当に求められている物のような気がしてきた」
「東北震災による原発事故で家を追われた人の暮らしには同情する。
しかし、その中で真に被ばくによる健康被害を被った人はごくわずかだ。
あれだけの規模の事故でこれだけの数しか出ていないというのは、僕としては当時の東京電力の方々に感謝する他ないと思うね。
もちろん、被ばくされ被害を被った方々は安全対策が完全ではなかった東京電力を批難する権利があるだろう。
だがそれもごくわずか。
当時批難をしていた人々のほとんどにはその権利がない。
それどころか、彼らはその身を被ばくに晒してなお被害を最小限に食い止めた作業員の尽力が何もわかっていない。
当時の東京電力や原発関係者達。
それらを批難し騒ぎ立てた人々。
福島から逃げ延びてきた家族を腫れ物扱いした人々。
復興に尽力する福島産の野菜の危険を叫んだ人々。
より悪辣な順番で並べるならどうだろうな」
「まぁ下から上にはなるな」
あまり気持ちの良い話題ではない。
感情論を無視した話であるとは言わざるをえない。
しかし、その感情論が他人に害をなすものなら話は別だ。
感情論は悪しきオカルトの源泉。
オカルトを暴くなら、それを糾弾することは必須なのだろう。
「そうよね~。どんな素晴らしい技術や手法でも、それが未知のうちは多くの問題が隠れているはずよ~。
人は失敗からしか学べないの~。
だから、うまく行き過ぎている時が一番注意するべき時で、失敗が起きた瞬間はほっと胸を撫で下ろさないといけないのよ~。
事故や失敗は、ある程度の規模まではむしろ助かることなのよ~」
「ではもしも、その失敗を意図的に最小の被害で発生させられるとしたら?」
「……おい、まさか!」
ヨッシーは頷いて。
「異世界最悪、傾国の妖狐ナイノメ。
その目的が人類は発展させるため。
意図的にパンドラの箱を開けて回っているだけだとしたら?」
誰からも嫌悪される最悪の癖。
ヨッシーはこの瞬間、ナイノメに強いシンパシーを覚えていた。
しかし、それはあくまで彼の希望的観測でしかない。
早すぎる技術、大きすぎる幸福は猛毒でもある。
それをいたずらに与えることが、最も簡単に人類を破滅に導く方法であることは間違いない。
傾国の妖狐は絶対悪なのか、それとも必要悪なのか。
そして、今世界で起きている2つの大きな革新は本当に傾国の妖狐の仕業なのか。
今はまだ、わからない。
「ん……?」
鼻先にあたったひんやりとした感覚に、ユウキは空を見上げる。
「雪だ」
鬼ヶ島原子力発電所は地球でいう岡山に近い。
この地域で雪が降ることは率直に言って異常気象である。
そもそも公転周期が4日であるオルコットンに四季は存在しない。
「あぁ、ボルジャーノ博士の予想通り。
4つの月の影響で一定周期で地軸の傾きが変わり、世界全体の気候が変わる。
前にも極夜に百物語会をやったしな。
そういうものとわかっていれば、別に異常気象でもなんでもない。
これもまた、科学がオカルトの恐怖を払える例だな」
「なら、帰って動画撮りましょう~。
異常気象の正体、すべてお話します、とかそんなタイトルで~」
「恐怖や不安を煽るタイトルは好きでないし、そもそも僕は今日オフなのだが……」
「まぁまぁ! 俺達遊びでやってんだしよ!」
再度ため息をつき、最後にヨッシーはもう一度空に向けてカメラのシャッターを切った。
白い雪の舞い落ちる幻想的な世界。
下には原子力発電所。上にはUAPの発光。
それは、この日最高の1枚となった。




