41-3:ペット問題を真剣に考えてみた!
さて。うれしいことは重なるとはよく言ったもの。
後日異世界オカルトチャンネルの3人は、動画配信者として一番うれしい出来事と出会う。
「広告案件いただきました~!」
「「うぉぉぉぉおおおお!!」」
3人はそれほどカネに困っているわけではない。
異世界オルコットンでは税金をはじめ生きるにあたってかかる維持経費がほぼゼロという特徴があると同時に、そこまで科学技術も市場経済も発展していないため、カネを使う先がそれほど多くない。
銀河ネットで購入できるスチームのゲームにしても宇宙技術検閲に基づき地球と同等のものしか購入できないし、ソーシャルゲームはつい最近銀河連邦法でガチャが禁止されたばかりである。
やはりガチャは悪い文明だったらしい。
それでも広告案件というだけで脊髄反射的に喜んでしまうのは、3人に未だ地球での動画配信者としての感覚が抜けきっていないからだろう。
この胡蝶の夢のような幸せな異世界を楽しみつつも、おそらく今このタイミングで地球への帰還を打診されれば3人は頷くことだろう。
それはきっと、どんなに都会で大成功を収めても最後には生まれ故郷の田舎に帰り老いた母親の味噌汁が飲みたくなってしまう人間の本能と同じ。
今この言葉を鼻で笑った視聴者は、それを伏線として30年後40年後まで寝かせておいて欲しい。
「それでどこからの広告案件なんだ!?」
「エジプトケンネルですって~。
ペットショップね~」
「めちゃくちゃ嫌な予感がする会社の名前だが、こっちに勘の良いゴールデンレトリバーのキリヤがいるし、案件主様の会社の名前を悪く言うのはよくないな!」
「そうね~。
でも向こうで出されたコーヒーは飲まないようにしましょうね~。
一応、一応ね~」
・埼玉愛犬家連続殺人事件
1993年に埼玉県で発生した連続殺人事件。
犯人はペットショップ「アフリカケンネル」を経営する男で死刑判決を受けたが2017年に獄中死している。
被害者は毒薬入りの缶コーヒーを飲まされた後で遺体を細かく解体されて処理されていた。
当初から計画的に完全犯罪を狙っていた犯人はこの処理方法を「遺体を透明にする」となどと言い捜査を難解なものにさせた。
またこの事件とあわせて、怪談師であり現役の住職でもある三木大雲の青年時代の実体験をまじえた実話怪談が有名。
こちらは三木大雲氏の動画チャンネルもしくは同氏の怪談ライブで聞いていただきたい。
そんな若干の恐怖心を抱きつつも久々の広告案件ということでハイになった3人と、ようやくネオ・カゴシマの崩壊から立ち直ったキリヤは広告主との会談に出向く。
「はじめまして。
いつも楽しく動画を拝見させていただいております。
株式会社エジプトケンネル社長で店主、ガンドールと申します」
笑顔で名刺を差し出したのは腰の低そうな黒い肌の男性だった。
「このたびは案件のお話ありがとうございます~。
異世界オカルトチャンネルの森越貞子です~。
私達の動画の視聴者層に広告効果が期待できる商品でしたら、是非お話お受けしたいと考えております~。
それで、どんな商品なんですか~?」
「はい。今回宣伝していただきたいのは、今までの常識を打ち破るまったく新しいペットです」
「ペットだって?」
そう言われてユウキの表情が歪む。
この時点で既にユウキはこの案件を断る腹積もりを決めている。
ペットとして真っ先に思い浮かぶのは犬と猫。
熱帯魚やカブトムシなどもペットとして人気が高いし、最近ではエキゾチックアニマルなどと呼びアルマジロや小型の猿などの珍しい生き物を飼育することも珍しくはなくなってきた。
だが、忘れてはいけないのは、ペットもまた命であるということである。
この時点でもうペットを展示販売するペットショップにはどこか歪なものを感じるし、それがワンクリックで購入できる通販ともなれば嫌悪感は加速する。
と、ここまでユウキが頭の中で考えている内容で、それはこの先にもう少し続くのだが。
「ペットを飼い始めてみたものの、しつけが想像よりも大変だったり、餌代がかかってしまったりという理由で捨ててしまう飼い主は残念ながら少なくありません。
特にエキゾチックアニマルともなれば、見てもらえる獣医さんが多くありませんからね。
そうした思慮の浅い行動は命を弄ぶ行為というだけでなく、外来種が解き放たれることで地域の生態系すらも破壊してしまいます」
そのユウキが考えていたことをほぼ一言一句そのままに語る店主ガンドール。
まるで思考を先回りされたようだが、ここに至ってはそれほど気持ち悪い話でもない。
何故なら、それはペットに対して誰もが感じている大きな問題であり、ペットショップの経営者ともなれば感じていて当然であるからだ。
「そうですね。
それ故に、ペットを迎え入れる際には慎重になるべきでしょう。
少なくとも、広告を出して購買意欲を煽り、ワンクリックで買えてしまう環境に加担するというのは、僕としては容認しにくい」
「そうですね~。
確かに、私もそう思います~」
と、これが普通のペットならばこの案件はなかったことになるのだろうが。
「その通りです。
いやはや、流石異世界オカルトチャンネルのみなさん。
高いリテラシーをお持ちです。
確かに、従来のペットであればその通り。
しかし、今回の商品はそんなペットの常識を覆すペットなのです。
こちらです」
そう言ってコンテナが開かれた瞬間、なんとなく興味なさげにアホ面をしていたキリヤの顔がパァッと明るく染まる。
「か……」
「カワイイー!!」
そこに収められていたのは小さい顔に大きな目に優しい口元、まさに「カワイイ」を具現化したような、ピンクのタコのような何かだった。
キリヤがそう口にしてしまったのも無理はない。
この時点でペット販売に嫌悪感を覚えていたはずの3人ですら、そのタコを見ての初見の印象は「カワイイ」であった。
そう、一同はまだ知らない。カワイイの真の意味に。
異世界オカルトチャンネル、第11章。
カワイイは、悪だ。




