第10章総集編+「夏休み特別企画! 作ってみよう! 人語を喋るホムンクルス!」
「やれやれ。トリスメギストスよ、ここまでの総集編をどう思う?」
「そうですね、オーディン様。
正直言って好きになれません。
これでは解説ではなくコントです。
解説と言うからには淡々と解説を行うべきです」
「うむ。尤もだ。
今回賢者たる私達2人が任されたからには淡々と解説のみ進めていこう」
「はい。導入コントも不要ですね」
「一切の受け狙いも行わない。
学術部分にも本気で解説を行う」
「ついてこれる方だけついてきてください」
~よいこのみなさんへ 50秒+90秒でバッチリ全部わかるこれまでのお話~
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「前半は冥王計画ゼオライマー(1988)の冒頭のナレーションだな」
「後半は仮面ライダーBLACK RX(1996)のOPですね。
一見関係のない2作ですが、川村栄二が音楽担当という点に繋がりがあります」
「後半に表示される立ち絵はゼオライマーの敵、八卦衆の八卦ロボをイメージしているな」
「本家は風火水月地山雷天の八卦ですが、こちらは戦国時代の九州の武家ですね」
種の起源砲はブラフマーストラの直撃で蒸発し、開発資料はすべてイェール・カーン地下図書館の禁書棚に封印された。
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「ブラフマーストラはインド神話における神々や英雄が放つ超必殺奥義だな」
「矢、もしくは投槍のような形で放たれますが、一度放たれると海が干上がったり、核兵器が使用された後のような描写がされることから古代核戦争説の証拠とされる場合もあります」
「イェール・カーン地下図書館は以前にも出た気がするが、ヴァチカン地下図書館だな」
「禁書の他に歴史上の偉人の手紙などの人類史の貴重な資料が保管されています」
他にも何種類か根絶した方がいいウィルスとか蚊とかもいたのに~
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「地球上で2番目に人の命を奪っているのは蚊だな」
「1番目は言うまでもなくホモサビエンスですね」
「ところで根絶した方がいいウィルスは無数に挙げられるが、1つ挙げるならトリスメギストスはどうする?」
「そうですね。
狂犬病ウィルスでしょうか。犬好きなので」
「感染者数2億3000万で地球最多のマラリアは蚊が撲滅できた時点でリスクが軽減されるからな。
時点は4000万のHIVだが、なるほど。
狂犬病ウィルスが撲滅されれば予防接種の負担がなくなるな」
「フェンリルちゃん今年もう打ちましたか?」
「当然だ。ほら、今年の犬シールは青だぞ」
「流石です。フェンリルちゃんには青が似合いますね」
死の淵から生還すると強化されるのは神話のお約束ですものね~
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「聖闘士星矢(1985)は実はかなりギリシャ神話が深堀りされている。
私も胸の小宇宙が燃えるのを感じたよ。
車田正美は語り部とカウントしても良いと思うのだが」
「リングにかけろ!(1977)も好きではあるのですが、流石にあれをボクシング漫画とは読めないですからね。
その反省が聖闘士星矢には活かされているのかもしれません」
そういえば、HUNTER×……
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「そういえばファイブスター物語(1986)の新刊が出るらしいな」
「取り寄せておりますので、後で楽しみましょう」
「ベルセルク(1989)はどうか?」
「まだ2年前に最新刊が出たばかりですよ」
あまりに強すぎる絶頂でどこぞの対魔忍並の快楽を受け廃人になってしまうだろう
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「感度3000倍は実際どうなのだ?」
「試してみたいですね。
知識として理解してもやはり実体験してこそでしょう。
後で用意しておきます」
絶対収束、絶対総和可能と呼ぶ。一見イメージしにくいが、図にするととてもわかりやすい
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「虚数が特に図にするとわかりやすい例だな」
「数式を図にするという概念の発明は数学の革新でしたね。
数を図で表すと聞いて投げ出したくなる学生が多いそうですが……」
「むしろ図で一気にわかりやすくなる。
私はそれをうまく伝えられん教師の側に問題があると思うよ」
有名な薩摩式無限級数収束法、ゼノン介錯である。(BC450. 明梅書房)
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「魁!!男塾(1985)の民明書房って紀元前からあったんですね」
「民明書房ならあってもおかしくないな。
世界最古の企業は日本の大阪にある金剛組で創業が西暦578年。
聖徳太子が集めた宮大工の集まりだな。
都市伝説界隈で世界を牛耳っているとされるフリーメイソンの起源は西暦1500年代後半だから文字通り歴史が桁違いなのだが、都市伝説を信じる人々が夢見るフリーメイソンなら紀元前からあってもおかしくないし、そこに書籍を書写する一団がいてもいいだろう。
彼等が明梅書房だ」
幻術か? 幻術なのか?
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「NARUTO(1999)の有名なコラだな」
「コラが有名になりすぎて本編だと勘違いしている人が多そうですね」
設定によると、都電荒川線の終点の三ノ輪橋あたりにあるらしい
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「これはあくまで作中設定だが、あの辺は生肉が食べられる店もあるぞ」
「あくまで作中設定ですが、足立区は未だに昭和ですね」
入れた時緑だったカエルは赤く発熱し、見た目にもかなりの熱を持っているように見えた。
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「アトリエシリーズの調合のようなことしておいて、触媒の意味が本当に科学してるんですね」
「うむ。触媒とは調合中に使用することで調合を助ける追加投入物だ。
例えば、AとBを調合しCを作ろうとしても、ただ混ぜただけではABになるだけでCにはならないというパターンは多い。
この時AとBにDという触媒を加えると、CとDが残ることがある」
「A+B+DがCになったわけではないんですよね?」
「あぁ。Dの質量は一切減っていない。
これはAとBが一時的にDと反応した後でCになる条件を満たしDから離れてCになるパターンだな」
「ここでのシュークリームもカエルの成分は何も加わっていないのですね。
ただ、熱エネルギーだけを吸収していると」
「錬金術はオカルトだが、現代化学の基礎を構築したものだからな。
真面目に考えると案外真面目な化学になるぞ」
映画「仁義なき戦い」で出てきたやつだ!
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「ヤクザだな」
「今のご時世で悪とされたものが、過去には必要悪どころか完全な善だったという者は枚挙にいとまがありません。
太平洋戦争でインドネシア一帯の解放した日本軍とか」
「それでも今は悪だということにしておかないと角が立つ。
そうして後ろ指を刺されながら、悪であることを公言して消えていく者たちの背中には哀愁を感じてしまうな」
ブラックホール情報パラドクスを破れるのか
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「最後に量子力学についてがっつり語るつもりなんだが、ブラックホールを語るだけでも長くなってしまうな」
「どうします?
がっつり語ってしまいますか?
このあたりの描写、さらっと流されましたがかなりブラックホールの知識がないと読み取れないやり取りなんですが」
「……今回はやめておこう。
今回は量子力学を語りたいんだ。各自で調べてくれ。
インターステラー(2014)を見るだけでもいいぞ」
ロリコンじゃないなら手を開いた時に「好きだ」とか書かれていることはないだろう
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「君の名は(2016)だな」
「どうします?
君の名はも語ると長くなってしまうんですが」
「ほしのこえの小説版(2016)をあわせて語らないといけなくなるからな……やめておこう」
国境の長いトンネルを抜けると戦場であった。
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「川端康成も語りますか?」
「少しだけ語るか。国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
もうこの一文だけで雪国(1937)は傑作なんだよ。
これは日本語でしか伝わらないからな。主語がないんだ」
「主語は『私』なのか『汽車』なのか」
「『人生』だろう」
蓬莱山に生まれた桃色の龍の子、サクラ
ワラキアの悪夢にして串刺しの姫、カミヤ
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「本編に戻れたというのにすっかりアホになっていた2人だが、元ネタは木花咲耶姫と吸血鬼カーミラだな」
「インテリを気取りたいならメタ時空でも真面目に解説すべきでしたね」
割り箸からガレオン戦艦までをキャッチコピーに
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「スプーンから宇宙戦艦までをキャッチコピーにしたガンダム世界の軍需産業、アナハイム・エレクトロニクス社だな」
「宇宙世紀の黒幕などと呼ばれたものの、F91の頃の末期はなんとも虚しいものでしたね」
「閃光のハサウェイの続きが楽しみだな。
ネタバレだが、ハサウェイは処刑されるぞ」
「あれもある意味で悪の名を背負って消える滅びの美学ですね」
本当に戦争は地獄だな!!
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「フルメタル・ジャケット(1987)の名台詞ですね」
「あのやたらとハイテンションにヒロイックでかっこよく見えてしまう海兵隊の姿こそ、一周回ってベトナム戦争のリアルなんでしょうね」
「ああやって自分を騙しきれなかったやつは全員死んだ。
故に海兵隊は全員キラーエリートなんだ」
やっぱり、あの修行方法より効く。
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「1995年あたりの赤ペン先生進研ゼミのCMですね」
「あの修行方法ってなんでしょうか?」
「それは私にもわからない」
第二次異世界対戦γ!
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「第二次スーパーロボット大戦α(2003)のCMですね」
「スパロボは30からだいぶ間が空いてしまったな。
ソシャゲでは満足できん。据え置き新作が欲しいよ。
スパロボはもはやただのゲームではなくロボットアニメ界隈におけるインフラだからな。
スパロボがなければDVDが出ていない作品も多かろう」
「ダンクーガ(1985)なんてその筆頭かもしれませんね」
「そう言った意味では権利云々以前にむしろ出してくれと版権側から押し付けていくべきじゃないですかね」
「ブレイバーン(2024)とかそんな気配がするな」
サンクトペテルブルクの賭け
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「これはそのままポケモンカードポケット(2024)におけるカスミの効果と同じだな。
コインを投げ続け、当たりの数だけ賞金額が倍になる。
その上で、この賭けに挑戦するにあたっていくら賭けるべきか?
というのが元の問題だ」
「答えは全財産ですね。
期待値は無限大なのですから」
「しかし実際はそんなわけがない。
このパラドックスを破る方法はいろいろ考察されたが、どれも今ひとつ納得できないな。
まぁ、支払上限があるのが当たり前だろうという解釈が一番面白くはあるかな」
「上限を設定した瞬間に一気に期待値が下がるのは面白いですね」
ポアンカレ予想
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「解説します?」
「フェルマーの最終定理はまだ問題文がわかりやすいんだよ。
だがポアンカレ予想は問題文の時点で意味不明だ。
やめておこう」
コラッツ予想
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「こちらも?」
「いや、これは問題文がわかりやすいのもそうだが、賞金がかかったエピソードが面白いから紹介しよう。問題文はこうだ」
■特定の整数に対して、それが偶数なら2で割る。奇数なら3倍して1を足す。このルールで計算を続けた場合、すべての数が1になることを証明せよ。
例:22⇒11⇒34⇒17⇒52⇒26⇒13⇒40⇒20⇒10⇒5⇒16⇒8⇒4⇒2⇒1
「計算だけなら小学3年生でもできますね」
「これがすべての数で満たせるかと言われると難しい。
数学ではこういった問題に高額な賞金がかけられる例は珍しくなく、ポアンカレ予想もミレニアム懸賞問題として100万ドルの賞金がかけられていたケースだが、このコラッツ予想は株式会社音圧爆上げくんというワンタッチで音源の音圧を上げるサービスで商売をしている東京の企業が何故か1億2000万円の懸賞金をかけているのが面白いんだ。
この社長が数学が好きだったことが由来らしいが、既に1億2000万円分以上の広告効果が出ていそうで、案外この社長、なかなかに食わせ物に感じるね」
私はね~!! 魔女狩りが大好きなのよ~!!
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「ここまでずっと量子力学の話で間があいたな」
「もはや解説不要のHELLSING(1997)の少佐の演説ですね」
ここがあの異端者のハウスですね~!
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「さる山はげの助アワー(1999)から知ったのか、FLASHから知ったのか、WHITE ALBUM2(2010)から知ったのかで世代が分かれるが、やはりFLASHから知った人が多そうですね」
「宮崎吐夢とラーメンズはFLASHの王でしたね」
拷問か。幼稚園の頃から受けてたよ。幼馴染の事情でな
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「HUNTER×HUNTER(1998)のキルアですね」
「言ってることはほとんど元ネタと同じなのに……」
De Natura Rerum『物の本性について』
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「ホムンクルスについてだが」
「この後のオカルト講座で解説するそうなのでそちらに任せます」
休暇取ってベガスに行ってるのか!?
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「BLACK LAGOON(2001)の暴力シスターのセリフですね」
「知り合いを想像すると、半分くらいのやつらは行っていても何も不思議じゃないのが末法だな」
我らが神、イルルヤンカシュが粛清しようと言うのだ!
革命ですわ! わたくしこそがインテリなのですわ!
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「このあたりから逆襲のシャア(1988)だな」
「この2人はもうダメですね。私達はこうならないように心がけましょう」
お前に明日なんかねぇよ!
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「アメリカの世界恐慌時代の銀行強盗を描いた映画,俺たちに明日はない(1967)ですね」
「弾が当たるかと言っておいて最後は、とな」
「「母の愛は伊達ではないのじゃ!」ですわ!」
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「実際ギャグシーンのような何かに見えて実はシリアスなギャグシーンですね」
「逆襲のシャア(1988)は最後ギリギリまでわくわくさせておいて、最後に謎のT型トンファーが宇宙をくるくる回って奇跡が起きるという、当時劇場で見た人のほぼ100%が唖然とした映画だからな。
そこに至るまでのシャアとアムロの掛け合いや、MS同士の殺陣が最高なだけに画竜点睛を欠くよ」
「小説版ではアムロとベルトーチカの間に赤ん坊が出来ていて、その赤ん坊の奇跡がアクシズを押し返すのでまだ納得できるんですよね」
「できるのか?」
「イデオン(1980)で慣れています」
「それもそうか」
「ただ劇場アニメ化にあたり、アムロが結婚して子供がいるのはダメだというスポンサーの鶴の一声で致し方なくT型トンファーになったのですね」
「Vガンダム(1993)のバイク型戦艦といい、富野監督も大変だな」
「それでこのシーンは、小説版の方のオマージュなのですね」
「だな。産んでいないのに赤ん坊がいるというギャグシーンに見せかけて、それでも自分の赤ん坊だと直感して守ってしまう母の愛を示す感動のシーンなのだ」
「本当ですか?」
「すまない。嘘だ」
「気楽に殺ろうよ」「あいつのタイムマシン」
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「藤子不二雄の短編で何が好きだ?」
「『宇宙船製造方法』と『ニューイヤー星調査行』ですね。オーディン様は?」
「『老年期の終わり』と『征地球論』かな」
量子力学
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「さて。やるか」
「ついてきてくださいね」
「どこから語るか。波動関数からはじめるか?」
「そうですね……もう少し前からの方がわかりやすくありませんか?」
「ふむ。二重スリット実験からか?」
「いえ、後にアインシュタインの光子箱の話が出ますし、それに繋げる目的で不確定性原理を今回は語るとしませんか? ここならほとんど数式も出ません」
「なるほど。そうだな。ハイゼンベルクの原理とも呼ばれる」
「量子の世界ではいくつかの情報がペアになっています。特に有名なのが位置と運動量です。このペアは、片方を選ぶともう片方を諦めなければいけない、恋愛のような形です」
「恋愛はまだその気になった上で後に刺されるリスクを犯せば両方選べると思うが」
「メモリーズオフの双子は無理ですね」
「あぁ、確かに。選ばなかった方が死ぬからな。あれは不確定性原理だ」
「ともあれ、このペアのことを不確定関係と言い、片方を正確に測るともう片方を正確に測ることができなくなるのですね」
「位置と運動量、時間とエネルギーなど様々な要素がペアになっている。スピンも同じようなものか」
「スピンもペアということで言えばそうなのですが、こちらは逆に片方を観測した瞬間にもう片方が確定するという今回とは逆のケースですね」
「しかし、わからないことはわかってしまうことと同じでもある」
「そうですね。この辺を厳密に進めていくと本当にわけがわからなくなります」
「量子力学を真に理解している者など誰もいない。名言だな」
「正直、量子力学警察のみなさんが何故あそこまで断言できるのか不思議でなりません」
「そこはほら、スピリチュアルに利用されることが多いから」
「あぁ、まぁ、そうですね。ああいうスピリチュアル量子力学は見ていて私も気分が良くなりません」
「ただ、結局は鰯の頭も信心からだ。鰯やイモムシを信じにくい現代人が信じやすい対象として、誰も理解できない量子力学はちょうどいい現代宗教の神なのかもしれん」
「確かに。元々神という存在は、理解できない存在を説明することで人々の安心を得るためのものですからね。大昔は火には神が宿ると多くの国で信じられていましたが……」
「そんなものはない。ただの燃焼。物理現象だ」
「はい。そうなってしまい、もはや火に神を見ることはできません。しかし、量子にはまだ神を見ることができる、と」
「そうだな。現代宗教や民俗学と量子力学は実は興味深い研究対象となるのかもしれん。スピリチュアル量子力学の方面の発展をまとめることで、現代における神の作り方が見えてくるかもしれん」
「その切り口はとても興味深いですね。もしも現在民俗学を専攻している大学生の方が居ましたら、卒論の題材にいかがでしょうか?」
「そもそも宗教などすべて詐欺だ。大事なのは、それでどれだけの人間の幸せが効率的に確保できるかの一点のみ。詐欺である点で言えばC教も新興宗教も同じなのだから、もっと合理的にどれだけ社会にとっての利益となるかのみを考えればよい。スピリチュアル量子力学系は、その点で言えばわりと利益が大きく被害が少ないのかもしれん」
「量子のツボとか売れませんもんね」
「いや、URLは貼らんが調べたら売っていたぞ」
「滅んでほしいですね」
「私も久々にグングニルを投げたくなった。さて。話を戻すか」
「どこまで戻しますか? どこに戻してもそこから無限に話ができそうですが」
「メモリーズオフの双子に戻すか?」
「最初から好きじゃなかったのでやめておきましょう」
「ふむ。では後にアインシュタインの光子箱の話が出ることだし、その解説も含めてディラック定数の式の話をしておくか」
「これはようするに、Xの値が0、つまり、完全にわかればPの値が無限、つまり、全くわからなくなるということを意味する関係式ですね。同じように、Xの値がかなり曖昧だと、Pの値がそこそこわかるといった感じでしょうか」
「うむ。その程度の理解で十分だろう。だがそもそも量子の世界はあまりに小さいため、対象に影響を与えずに観測するのが難しいという事情がある」
「そうですね。『見える』とはつまり、対象と人間の目の間に光子が移動していることを示しています。量子は光子1つですら影響を受けてしまう可能性があります」
「年々観測機器も進歩しているのだがな。量子力学とスピリチュアルを結んでしまった量子消しゴム実験など、明確に観測者効果の影響が出ている」
「またスピリチュアル量子力学否定論になりそうなので話を戻しましょう」
「おっとすまない。それで、この概念自体はハイゼンベルクが発見したのだが、当時はハイゼンベルクもこれがただの観測者効果だと考えていたのだな。自分にとって都合の良いロマン解釈をせず、自分の実験が完全でないことを疑うスタイル。実に謙虚である」
「オーディン様のお言葉を借りるなら、そこで自分にとって都合の良い解釈をしてしまったのがニールス・ボーアですね。つまり、それは観測機の誤差ではなく、量子が持っている性質である、と」
「よくも当時そこまできっぱりと言い切れたものだ。ボーアは量子力学警察の才能がある」
「そして本当にボーアが正しいのですからもう何も言えなくなりますね」
「まったくだ。夢を追いかけると量子の世界を理解でき、現実に固執すると研究が進まず、夢に溺れるとスピリチュアルになる。だから量子力学は難しいのだ」
「そういった意味でボーアの立ち位置はほぼ完璧でした。まさに量子力学の申し子と呼べるでしょう」
「それで現実主義のアインシュタインと対立するわけだが、そこは流石のアインシュタイン。他の研究者とは格が違う。シュレーディンガーは猫虐待でしか量子力学の異常性を語れなかったのに、アインシュタインはわかりやすく、かつ、極めて科学的に量子力学の異常性を突きつけてしまった」
「それがアインシュタインの光子箱ですね。図を書いてみました」
「うむ。見ての通り、箱が吊るされている。吊るされている部分はバネになっており、重さによって箱が下がり、左のメモリで重さを測ることができるという仕掛けだ。そしてこの箱には小さな穴があいており、そこにほんの一瞬だけ開閉する蓋をつければ完成だな」
「まず前提として先程の不確定性関係に測定時間とエネルギーのペアが存在するのですね。おさらいですが、測定時間が正確にわかれば、エネルギーは全然わからなくなるという関係です」
「それでこの箱の中に光子を詰め込んでおく。光子は重さを持ち、重さはアインシュタイン自身の相対性理論の基本E=mc2の式でエネルギーに変換できるため、この箱を使えばエネルギー量を正確に測定できるということになるわけだな」
「そして箱の蓋をほんの一瞬だけ開閉し、わずかな光子のみが箱から出てしまう状況を用意します。この時、蓋の開閉時間が短いということは、測定時間を非常に正確に特定できるということです。そうなると、先程の関係性でいえばエネルギー量は全然わからなくなるはずなのですが……」
「この箱はそれを測ることができてしまう、と。つまりアインシュタインは、実験環境を考え理想的な実験器具さえ作れば不確定性関係を崩すことができる。それを量子の世界の基本法則だとしてしまうのは、ロマンではなく怠惰だと言い放ったわけだな」
「これにボーアは膝から崩れ落ちたと言いますね。実際この光子箱の理論を破ることは難解で、現代でもこの箱のことを考える物理学者がいるほど。ボーアが亡くなった時にも、ベッドの枕元にこの箱のスケッチがあったそうです」
「恐ろしいよ、アインシュタインは。結果的に言えばこの光子箱には欠点があり、これは不正確なハッタリに過ぎなかったのだが、見破れない嘘はもはや嘘ではない。嘘で大勢を騙して科学に待ったをかける。何か思い当たらないか?」
「宗教ですね」
「その通り。そもそもゾロアスター教の宗教家だって、火を神にするにあたって適当な嘘をついたわけじゃない。火はどんな原理なんだろうかと真剣に考えて『らしい』考察をつけた結果教義になった。宗教とは科学と正反対の存在ではない。実験的手法によって事実を確認する前、仮定の段階で大勢が信じてしまったからもうこれが真実でいいと大勢が認めたものが宗教になる。むしろ、まだ科学はすべてを解明したわけではないのだから、今事実として信じられている科学ですら大きな目で見れば大勢が信じられている仮説でしかない。宗教はいずれ科学になり、宗教は科学のなり損ないだ。ならばこそ、量子力学がスピリチュアルな方面に進むのはむしろ自然であり、それに対抗して量子コンピューターだとかいう高価なサイコロを作ってる技術者も宗教の別派閥にすぎない。だから私は量子力学が好きなんだよ。ここに神に弄ばされる人間たちが揃っている。量子力学を『わかる』必要なんかない。おそらくこの秘密はわからないように出来ている。だからこそ『わかった』と宣言して好き放題を言っている人間全員を斜めから見て楽しめばいい。改めて宣言しよう」
――私は量子力学が何もわからない。ちょっとだけわかるのでもない。何もわからないんだ。
「オーディン様は全知なのでしょう? 本当に、わからないんですか?」
「どうかな。私にも嘘をつくことくらいできる。君はどう見る?」
「嘘ではないのでしょうね。そして、わからないのでもない。おそらくオーディン様は『わからないことがわかっている』違いますか?」
「ふふふ。流石だね、トリスメギストス」
「オーディン様は普段とてもつまらなそうにされていますから。全知がどれだけつまらないか、いつも語っていますから。そんなオーディン様がこんなに楽しそうに語るのです。それは、量子力学がわからないとわかっているからでしょう」
「そうだな。その通りだ。覚えておけ、トリスメギストス。量子力学について、どんな主張であれ『わかる』というやつを信じるな。複雑な数式を並べて『らしい』ことを言うやつも、大方実験環境の不整備故に起きてしまった量子消しゴム実験の結果を好きに解釈してスピリチュアルなことを言うやつも、そんなやつらに噛みついて警察をやるやつも、誰も信じるな。彼等は間違っているから信じてはいけないし、正しいから噛みついてはいけない。何もわからないんだよ。それこそが量子力学だ。わからないものをわからないまま楽しもう」
「しかし、量子ツボを売りつけて高額を騙し取られた人はいるんですよね」
「人を不幸にして自分だけ幸せになろうとするやつらは量子力学とか関係なく殺せ。私はほぼすべての科学者を尊敬しているが、恐竜戦争の2人をはじめ己の地位に囚われたやつらには唾を吐ける」
「そうですね。しかし、そう考えると改めて量子力学が楽しいものに見えてきました」
「だろう? では改めて最初から語ろうか」
「どこまで話を戻しますか?」
「マックス・プランクの黒体放射からはじめよう。1895年にプランクが……」




