40-1:異端者と友達になってみた!
中世ヨーロッパ最大の黒歴史、魔女狩り。
魔女というレッテルを貼られた女性が厳しい拷問を受け、無実のままに処刑されていく狂気の暴走。
被害にあったのは女性だけでなく、一部では男性も狼男や異端者として被害にあっていたという。
何故このようなことになってしまったのだろうか?
それは、当時の記録を見るとわかる。
魔女狩りの被害にあった人物は皆裕福な商家の者で、かつ、名門貴族の庇護下になかった者が多い。
そして意外にも、魔女狩りからの厳しい拷問で自らが魔女であると認めた女性の内、実際に処刑された者はごくわずか。
ほとんどは、多額の賠償金を支払うことで罪が赦されている。
教会はその賠償金の一部を魔女狩りにかかった費用として懐に入れ、残りは告発を行なった勇気ある市民に分配した。
もうおわかりだろう。
単純明快! 原因は妬みとカネである!
当時を知らない我々は、当時の人々が本当に魔女とかそういうファンタジーな存在を信じていて、かつ、最近アニメでも話題のC教が悪役として神の名の元の裁きを下して回っていたように思うが、それらの印象はこの機会に捨てて貰いたい。
真面目に民俗学的に解釈するのであれば、魔女狩りはただの民衆の妬みの暴走でしかないのだ。
そして魔女狩りは今も起きている。
SNSの中で。
ちょっとバズったインフルエンサーや動画配信者が何か「やらかし」をしてしまった時、どこからともなく人が湧いてきて一斉に謝罪を求める声が反響する現象。
所謂「炎上」、あれこそが現代の魔女狩りの火炙りの刑。
もちろんそれは、企業や芸能人や政治家なども同じこと。
魔女狩りは今も脈々と続く人類固有の文化であり、中世ヨーロッパのC教の暴走ではないのだ。
ただ当時はC教がそれを公的に認め、告発者に私財が分配されるルールを作ってしまっただけである。
いや、やっぱりC教は邪悪なような気がしてきたぞ。
ところで、魔女狩りでは何故女性に拷問が行われたのだろうか?
拷問を聞いてどんなイメージを持つだろうか?
おそらくだが、方向性は2つに分かれる。
1つはマフィアやテロ組織、非道な軍隊やスパイ組織などに囚われた者が、顔に布を置かれた上で水をかけられ続けたり、殴打や電気ショックなどの酷い苦痛を伴う暴行により情報を引き出そうとする行為。
そしてもう1つは、えっちなやつである。
詳細は語らない。
こちらはそもそも引き出したい情報がなく、嘘の自白をしたとしても無視され拷問が続く。
つまり、前者は情報回収が目的で後者は拷問自体が目的だ。
この2つのうち魔女狩りでイメージされる拷問はそのほとんどがえっちなやつになるはずだ。
これは何故だろうか?
そんなの単純明快だ! えっちなことがしたかったのだ!
世界には性に関する戒律が厳しい宗教などいくらでもあるし、C教は特にその代表のようなものだ。
そして、魔女狩りは本当に魔女を信じていたわけではなく、民衆の妬みの発散と財産回収といったストレスのはけ口として行われていたことは既に説明した通り。
となると女性への拷問はどうなるのか?
そんなのえっちなやつになるに決まってるじゃないか!
故に魔女狩りは黒歴史でありながら実のところ完全にエンターテイメントに振り切ったイベントなのだ。
宗教的配慮や被害者への配慮などで語りにくいネタとして遠ざけてしまうのは、むしろ当時の奴等に楽しみを独占させ、自分達の性癖を隠そうとする行為への助力となる! 故に! 故に故に故に!
「みんな~、私はね~、魔女狩りが好きなのよ~!」
そうだ! だからこそ!
「私はね~!! 魔女狩りが大好きなのよ~!!」
以下いつもの演説改変なのだが、あまりにあんまりな内容になってしまったため全カットとさせてもらいたい。
「逃げろヨッシー! あの女はヤバい!」
「ユウキ?」
工房に戻ってくれたユウキにほっと胸を撫で下ろすのだが。
「ぴぃっ!?」
何かどこからか電波を受信したようにピンとウサミミを立てるキリヤ。
そのまま奥の物置に引きこもり、ガチャりと中から鍵をかけた。
「ここがあの異端者のハウスですね~!」
「うわぁ! 出たぁ!」
どこからか聞こえてくる陽気なハウスミュージック風のBGM。
どうなってるんだ! 前回とまるで話のノリが違う!
あの苦しいほどにシリアスで重苦しいアカデミックな展開はどこに消えた!?
♪異端者を出して~異端者を出して~ふふふん~♪
「まさか……! いや、正直……予想はできていた!」
ドンドンとドアから音が響く。
それは嵐の夜に魔王が子供を攫う音。
♪異端者を出して~異端者を出して~あと拷問させて~♪
「正直予想してたがその役にだけは絶対居て欲しくなかった!!
もしくは単純にフレイルをフルスイングして扉を破壊する音である!
――ドゴギャァァァン!!
工房の扉、完・全・粉・砕! ラスボスの降臨である! なんかAIにイラストを書かせてみたら空気を読んだのかそんなプロンプト1つも入れてないのに背後に鬼みたいなクリーチャーを書きやがった! 完璧だよ! もうPixAI君はズッ友だ!
「ねぇ異端者~。
あなたはどうして異端者なの~? そんなの私が異端者だと決めたからです~!! では異端者はどうして拷問されちゃうの~? そんなの私が拷問したいからでしょ~!! これこそが超★正統派、魔女狩りの姿なのよ~!!」
「あながち嘘だとも言い切れない!!」
嘘であって欲しいことだけは確かである。
「ご、拷問!? 待てよおい!
なんでヨッシーが異端扱いされて拷問なんてされなきゃなんねーんだよ!
おいヨッシー!
お前もこのキ◯ガイになんとか言ってやれ!」
しかしここでヨッシーは不敵に笑って見せる。
彼は知っているのだ。
格上の熊と対峙した場合、目を逸らしたら負け! 弱気を見せたら負けであることを!
「拷問か。幼稚園の頃から受けてたよ。幼馴染の事情でな」
「どんな特殊な幼馴染!?」
多分、目の前に居る女をそのまま幼稚園児にしたようなやつ。
「へ~? じゃぁ、裸にして鎖で吊るして鞭で打ったり~?」
「経験済みだ」
「そのまま先っぽが尖った木製の作り物の上にお尻から落としたり~?」
「経験済みだ」
「お馬さんに乗せて揺らしたり~?」
「経験済みだ」
「とげとげの上に正座させて石の板を置いていったり~?」
「経験済みだ」
「水車に縛り付けてぐるぐる回したり~?」
「経験済みだ」
「ロウソクのぽたぽた焼きしたり~?」
「経験済みだ」
「うわーーーーっ!! こいつら変態だーーーーっ!!」
あまりのカルチャーショックに絶叫するユウキ。わかる。
しかし元の世界ではおそらく君も経験済みだ。哀れ。
「むぅ~、そこまでの上級者さんだと面白くないかも~」
「だろうな。しかも僕の想像が正しければ、お前は僕のような男よりも犯罪すれすれの見た目の女の子を拷問する方が好きなはずだ」
「わかってんじゃ~ん」
獣の嗅覚で奥の物置を見るサダコ姉。
獣の嗅覚でそれを感じて恐怖の叫び声(広島弁)を上げるキリヤ。
扉の奥から聞こえるバリケードを作る物音。
もう無茶苦茶だよ。
「う~ん、でもちゃんと異端審問の許可証は大天使様に発付してもらってるし~」
「あ、その辺の手続きはちゃんとやってるんだな。
というかどうせその大天使ってミカエルだろ」
「どうしてわかったのかしら~?」
「あいつ、完全にギャグキャラに成り下がってしまって……」
エルフの扱いが酷いファンタジーもなかなかないが、ここまで大天使ミカエルの扱いが悪いファンタジーもなかなかにない。
「……わかった。取引をしよう」
「え~? でも私、偉大なる主への信仰で神官やってるので、お金とかはいりませんけど~?」
「どぎつい拷問をしても問題ない少女を引き渡そう」
「私達今から友達ね」
「犯罪者だーーーー!! 教会の人早く来てくれーーーー!」
残念ながら目の前にいるんだよなぁ。
「でも一応私教会の所属だし、犯罪はできないんですけど~」
「ここまでの器物破損からの一連の流れは犯罪ではないと!?」
「なるほど。まず未成年はダメだな」
「そうね~」
「家族や身内がいてもダメだな」
「面倒になるしね~」
「本人が嫌がってもダメだな」
「嫌がるのは演技にして欲しいわね~」
「ということは痛みを感じてもらってはダメだな」
「そうね~。こっちもその辺はうまくやるけど~」
「それでもある程度は激しくしたいよな」
「当然よね~」
「もう嫌だよこの変態サイコパス犯罪者共! 頭がおかしくなりそうだ!」
残念ながらこの世界は民主主義。
多数派が支配する世界だ。
今この場における選挙は、変態2、常人1、投票放棄1で変態の勝利なのだ。
いかに投票権放棄が愚かであるかよくわかる。
選挙に行こう。
「でもそんな便利な子いないでしょ~?」
「かつてこう言った少女がいた。
無いんだったら、作ればいいと」
「……あ、そういえば、異端者さんのお仕事は~」
「そうだ。僕は……錬金術師だ」
そういってヨッシーは本棚から一冊の本を取り出した。
ここまでうまく行かない天体観測や親友との対立のストレスを紛らわせるために読んでいたこの世界の魔法錬金術の教本。
その中でも、この本のタイトルはDe Natura Rerum『物の本性について』、著者の名は、錬金術師パラケルスス。
そこに書かれているのは……
「ホムンクルスを作ろう」
この世界で一番恐ろしいもの。
それはおそらく、狂いかけの人間である。




