5-3:言い逃れできない因習の証拠、座敷牢を発見してみた!
一方その頃。
エルフたちの案内でユウキとヨッシーの2人は森の中の開かれた場所へと案内されていた。
半径20mの区画のエリアには背の低い草が特に手入れをされているわけでもない状態で生い茂っている。
その中央には建物がある、わけではない。
ただ地下に向かう階段がぽつんとあるだけ。
「こちらへ」
言われるままに階段を降りる2人。
鍵のかかった重い扉が開かれると、そこには土を掘られた地下を木の壁で覆った4畳半程度の部屋が広がっていた。
上を向けば日の差し込む格子状の1辺60cmほどの正方形のガラスがはめ込まれている。
隣の小部屋はトイレらしい。
床には絨毯が引かれ、床に直置きの机が1つ。
椅子はない。
一応掃除はされているらしく、そこまでカビ臭い匂いは感じない。
そこにエルフ達が2人分の布団を運んでくる。
「鍵はあけておきますが、人間が歩き回るには迷いやすい森の中故ご注意を。
食事は毎食運ばせていただきます」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてエルフたちを見送るヨッシーの後ろで、ユウキは四つん這いになって絨毯をめくったり壁を叩いたりと部屋の中を調べていた。
「何してんだお前。
またホテルで御札を探す悪い癖が出たか?」
「ちげぇよ! こんなとこに案内されて興奮せざるにいられるかって!
俺も本物は初めて見たよ!」
「この部屋が?」
「お前にはわっかんねぇだろうなぁ。
俺でこんなんだから、サダコ姉ならもっと興奮してること間違いなしだぞ。
木の中がどうなってんのかは想像もできないが、おそらく後でここ見たら私もここで寝泊まりしたいとかいい出すこと確実だぜ。
ここは、この部屋はな、昭和後期までは地方の村にごくわずか残されていただろう場所……座敷牢だ」
・座敷牢
身内の中で精神や肉体に障害を持って生まれてしまった者を外に出さずに監禁するため、私宅監置を目的に作られた部屋。
現代で精神病とわかったものが当時では狐憑き天狗憑きなどと考えられていたため生まれてしまった考え方。
1883年から法廷で争われた相馬藩主相馬誠胤が精神病として座敷牢に監禁されたことに端を発した騒動、通称相馬事件で世間に広まった。
柳田國男の記した遠野物語に登場する座敷わらしとの関連性も考察されている。
「あ~! もう、腹立つ~!
そりゃ向こうも人間だしぃ~?
自分と違う考えや違う見た目の人をすんなり受け入れることができないってのは私もわかるわ~。
でもさ~、その時に『自分達の方が絶対的に上』って考え方を疑いもせずに目で語るのってどうかしてるって~!
今すぐ焼きましょうこの森~!
エルフの森は焼かれる運命にあるのよ~!」
「まぁ落ち着けよ」
「落ち着いてなんてられないでしょ~!
それに私だけ、木の中なんていうわけわかんないとこで寝るんだよ~!?
安全性大丈夫なの~!? あー、2人がうらやましいよぉ~!
座敷牢で寝泊まりなんて今じゃいくらお金つんでもできない体験じゃないの~!
ラブホのSМルームよりレアよこんなん~!
言うならパラシオ・デ・サルみたいなもんでしょ~!」
・パラシオ・デ・サル
南米ボリビアのウユニ塩湖に周囲に建てられた塩で作られたホテルのこと。
壁、天井、テーブル、椅子、すべてが岩塩で作られている。
ウユニ塩湖の周りの3つのホテルのうちでこのパラシオ・デ・サルが最も古い老舗。
今は改良を加えられ設備サービス共に3つ星ホテルに名に恥じない。
Wifi無料。
リャマ肉の塩漬けにした地元ボリビア料理のビュッフェ式朝食が売り。
「いや、どっちかっていうとウィンチェスター・ミステリー・ハウスとか、ラ・ポサダ・デ・サンタ・フェとか、カタヤノッカホテルとかじゃないの?」
「ちょっと待て。
僕を観光宣伝字幕BOTにするな」
詳細は各自自由に検索するように。
「しかし気になるな。木の中の空間。
ホロゥというのか。
広いってことは、それは絶対に多次元空間だぞ。
あぁ、こんなにたくさん観測機器があるのに、僕は男だという理由だけで入れないのか……!
今僕は生まれて初めて宦官にあこがれている……!」
「冷静になれ。
字幕は俺が入れとくから」
・宦官
中国皇帝に仕える去勢された男性官僚のことだな。
皇帝の妻たちに手をつけることが物理的に不可能なようにするという権力維持のための合理的なやり方だったんだが、やっぱり人間の男って下半身で物を考える動物的なとこあるし、その大本がなくなっちゃうと欲が現世欲に振り切れちゃって、結果的に国内での権力闘争が熱くなって中国崩壊の要因となった1つだって説もあるな。
ちなみに、宦官になるための古代の去勢方法については俺もサダコ姉みたいなドSじゃないし、なにより自分の息子がキュッとしちゅうから省略するぜ。
「いや、多次元空間に入れるくらいなら惜しくないのか……? もう自分の手で……」
「落ち着け落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!
超ひも理論の答えが目の前にあるんだぞ!?
4次元から上の空間はコンパクトにたたまって織り込まれているだけとかいうふわっとした説明じゃわからないこともあるだろう!?
カラビ・ヤウ空間とか見せられてもピンと来ないし!
これから超ひも理論について2時間くらいかけて解説してやろうか!?」
「絶対再生数伸びないからやめろ!」
科学キチと化したヨッシーは放置して。
「でも、その長の考えに加えてこの座敷牢。やっぱり……」
「そうだね~、もうこれは本物の因習村だわ~」
「だが話を聞こうにも俺達に話してくれるわけもなし、と」
「血統書付きだと認めてはもらえたけど、流石に自分のワンちゃんに秘匿された歴史を語るのは狂人だよね~。
キリヤちゃんにも聞きにくいし~」
「地元民の話が聞けないとなると一気にフィールドワークの難易度が上がるな。
だが、それでも」
「うん! キリヤちゃんのためにも、エルフの村の因習に燃やし尽くすぞ~! お~!」
ということで、異世界オカルトチャンネルの第2回活動が。
「あ、ユウキ君的にはエルフの女の子同士のおち◯ちんフェンシングの方が~」
「やめろ!」
今、はじまる!




