5-1:女性しか生まれないエルフの生殖の秘密を聞いてみた!
エルフの騎士キリヤに導かれ、ヤツマの森にあるというエルフの隠れ里、サイドグルーヴを目指す一行。
道中で一同はキリヤから事情を聞き出していく。
「キリヤってちょっと不思議なとこあるよな。
エルフといえば魔法使いだろ」
「ん? 俺のイメージはエルフといえば弓の名手なんだが。
ほら、トールキンの」
「指輪物語のエルフのイメージだよね~。
元はといえばスラヴ系の北欧神話が大元なのかな~。
祖たるアールヴって言ってたし、多分その辺はこっちも同じでしょ~」
・J・R・R・トールキン
指輪物語やホビットの冒険で作家として知られているが、その実態はイギリス陸軍軍人であり言語学者というマルチな才能の持ち主。
軍人としてはエリザベス女王2世から勲章を授与されている。
後に彼の代名詞となる指輪物語執筆に至る経緯は、当時流行していたエスペラント語などの人工言語を独自に作ろうと考えたことから。
熱心なクリスチャンでもあったトールキンは言語の生成には母体となる民族の文化や宗教を設定することが必須と考え、そのために架空の種族としてのエルフやドワーフの文化を生み出した。
そんな彼らの文化を説明するための資料をまとめられたものがホビットの冒険。
これが本人の意図とは裏腹に大ヒットし、後の指輪物語に続く。
結果的に人工言語を作り広めようという彼の野心は達成できなかったが、そのなごりは指輪物語内に登場するエルフの言語シンダール語が劇中のフレーバーとは考えられないほどのクオリティを持つ理由となっている。
・アールヴ
ゲルマン地方の北部で8世紀から14世紀にかけて細々と使用されていた古ノルド語でエルフを意味する言葉。
当時のエルフは人と同じ大きさや姿形をしていながら神を思わせるような超人的強さと持つ存在として語られ、文化人類学の範疇では先祖崇拝として扱われる。
今によく知られるエルフのイメージとはまるで異なり、長耳で容姿端麗というエルフ設定の基礎はすべてトールキンによるもの。
ただし、自然崇拝、精霊崇拝、死者の魂との対話というアニミズム的な考えは今に通ずるものがある。
「ん? エルフって男もいるんか?」
「そりゃいるだろ。
いなければどう子孫を作るんだ」
「……不老不死だから必要がないとか?」
「卵が先か鶏が先かの論争はずっと続いてるけど、そもそも卵を産めないんじゃ全部神様が作りましたってなっちゃうでしょ~」
「それもそうか。
で、実際どうなんだ、キリヤ」
一通り3人で盛り上がってからキリヤに話題を振るが、どうにもキリヤの表情が重い。
因習、差別。
やはりエルフの里にはどうにもネガティブな文化があるようだ。
そもそもわざわざウサ耳をつけてエルフであることを隠していたことからも想像できる。
「ご、ごめんなさいね。
その……深い事情は聞かないし、キリヤちゃんの言うことにはなんでも従うから、話せることだけ……」
「今なんでも言うこと聞くって言いましたね!?」
まずい、と顔を固まらせるサダコ姉。
ユウキもやれやれとため息をつく。
「ではサダコお姉様! 私のお嫁さんになってください!」
「う、うん。そのくらいなら~……って、え?」
この世界の太陽にあたる恒星、茶庭の光が暖かく差し込む中。
緑の草原には、白い百合の花が群生していた。
「なるほど……婚約偽装……」
「はい。そうすればみなさんも里に入れてもらえると思います。
サダコお姉様は東方の島国のお姫様で、ユウキさんとヨッシーさんは姫様お付きの騎士。
サダコお姉様がお忍びの旅をしていたところで私と出会い……という設定でお願いします!」
「それなら大歓迎~! わぁいお姫様~! サダコお姫様大好き~!」
「ツッコミどころしかない!
千歩譲って里に入るために婚約偽装という手段を使うにしても、キリヤは女だし相手は俺かヨッシーだろ!?
なぁヨッシー!」
「お前に譲る」
「あ、なら俺が王子で……って、そうじゃなくてぇ!」
ヨッシー以外のふたりはこんらんしている!
「キリヤさん。
改めてエルフの文化を聞かせてもらえるか?
特にその、婚約と……生殖行動のあたりについて」
「セクハラだよ~」
「茶々を入れてくれるな」
「わかりました。
その点はお話しなければ話をあわせてもらうこともできませんから。
まず、エルフは女性しか生まれません」
「キマシタワーってことか!?
エルフは百合の園だった!?」
「ならどうやって子孫を作る?」
「里に伝わる魔法で女性の卵子を精子に変転します」
「お前がオスになるんだよってことね~。
よくあることだわ~。
おち◯ちんフェンシングみたいなこともするのかな~」
「サダコ姉、そういう薄い本の知識も豊富だよな」
「なんのことかな~。
私はヒラムシの話をしてるんだけど~」
・ヒラムシ
磯の石の下に住む扇形動物渦虫網ヒラムシ目の動物の総称。
ウミウシによく似ているが、異なる種族でプラナリアやサナダムシの仲間。
雌雄同体でオスメス両方の生殖器を持っているという点はカタツムリなどのよくある雌雄同体種と同じだが、その最大の特徴は繁殖時に行われる戦いにある。
彼らはこの際、生殖器でフェンシングを行い、これに勝利した方がオスの権利を獲得する。
昨今ふた◯りなどの一部の同人誌界隈で見られるおち◯ちんフェンシングはこれが元ネタであり、って待ってくれサダコ姉。
これ以上の解説は不要だ。
そもそも台本が差し替えられているんだが、これは立派なセクハラだと思うぞ。
最近そのあたりのAIのチェックも厳しいんだぞ。
収益剥奪されたらどうするんだ。
「はい。婚約の儀として魔法で決闘します」
「するんだ……」
「この際使用される魔法は特殊なもので、棒状の独特な形状のオーラを生成し……」
「金精様ね~」
「まじでやめてくれ!」
・金精様
東北地方から関東地方にかけて見られる神社の御神体。
金精神、金精大明神とも言われる。
以後の解説を放棄する。
解説写真もモザイクを入れ……いや、なんだかモザイク処理したら逆に卑猥になるな。
そのまま映す。
AIチェック大丈夫だろうか?
「そのためエルフの里は基本的に男子禁制です。
唯一の例外となるのが結婚の儀の前後2週間の間で、この間はエルフに嫁ぐ側の女性の従者及び親族が2人まで里に立ち入ることが認められます」
「なるほどね~。
別に高貴な身柄に限らないのね~」
「当然です。
個人の愛を阻む古い風習は今のご時世真っ先に否定されるべきものでしょう」
「でも私は王女様なのね~」
「騎士は王族に仕えるものですので」
「うんうんわかるよ~。
でもそれなら私、キリヤちゃんのお嫁さんよりお婿さんになりたいな~」
「お、お姉様……そ、そんな、私……」
「やめろやめろ!」
「あれあれ~? ユウキ君嫉妬かな~?」
「小学校まで平然と同じ風呂に入ってたような間柄で今更何言ってんだ!
下手な兄妹、姉弟より恋愛感情抱けねぇぞ!」
「遺伝子の相性がいい相手はいい匂いがするらしいな」
「お前が言うと科学的真実なのか冗談なのかわからなくなるからやめろ!」
「しかし、精子変転の魔法はエルフのみが操れるものなので……その……」
「あ、なら私はお嫁さんになるしかないのね~。残念だわ~」
「ふーん。やっぱキリヤもエルフだし魔法が使えるんだな。
エルフなのに騎士なんて名乗ってるし魔法が使えない落ちこぼれかと思ってたよ!
ははは! すまんすまん!」
「あ……」
そこで突然キリヤの表情は再び曇る。
そのまま下をうつむき、口を閉ざしてしまう。
3人はそっとキリヤから離れ、小声で話を続ける。
「どうやらそのあたりに根深い問題があるみたいね~」
「あまり言いたくないが、集団の中で生まれつき劣って生まれた者が差別されるのはどの世界でも同じということだな。
胸糞の悪い話だ」
「それもそうだが、エルフといえばだいたいの創作で排他的な種族として描かれることが多い。
それこそ本当に因習村めいたとこでもおかしくないぞ」
「あんまり好きじゃないわ~、そういう村系ホラーって~。
どうしても差別問題とか関わってきちゃうし~」
「サダコ姉、逆に考えるんだ。
それこそ僕達の出番じゃないか?
この手の因習は科学的無知や偏見が根幹にあるケースが多い」
「因習村の謎を俺達で解き明かすってことか!
なんだかわくわくするな!」
「う~ん……地域の文化習俗を調べるのはまさに民俗学だし、私も大好きなんだけど~……その謎を解明して押し付けるように科学だ科学だって押し通すやり方は、なんか帝国主義的っていうか、人間の悪いとこでてるなぁっていうか~……」
「オーストラリアのアボリジニ文化根絶がまさにそれだな。
それは僕も同様だ。
多様性は認められるべきだろう」
・アボリジニ文化根絶
オーストラリアに植民した19世紀のイギリス帝国による白豪主義思想と原住民排除政策。
非合理的なアニミズム思想に縛られ科学的に極めて遅れた暮らしを行っていたオーストラリア原住民アボリジニを進化論におけるサルと人間の間をつなぐミッシングリンクだとして人間扱いすることなくスポーツハンティングなどの非道な行為を行ってしまった負の歴史。
一方で「貧しい生活を豊かにする」という名目で半ば強制的な先進化が進められ、今のオーストラリアの豊かな生活を構築したと一部肯定的に扱われることも最近では多くなっている。
しかし、これによりオーストラリアのアボリジニ文化が失われたことは事実として受け入れなければならない。
日本で一時代を築いた恋愛映画のラストシーンの舞台となった有名なエアーズロックも西洋人による名称でアボリジニの名称はウルルであり、今ではエアーズロックと呼ばれること自体が忌避されていることを日本人としては学ぶ必要があるだろう。
なお、ウルルはアボリジニ文化の聖地であると同時に登頂には命の危険が伴うクライミングが必要となるため、現在ではウルル登頂は禁止されている。
「だがキリヤさんの表情を見てくれ。
あれをどう思う?」
3人から離れたキリヤは道端に腰を下ろし、百合の花を見つめている。
緑の草原に吹きすさぶ蒼い風が彼女の金色の長髪をたなびかせる。
自然に伸びた片手がこめかみに触れる、その憂いの表情は。
「エッ……」
「悲しそうよね~」
「あ、うん」
「そうだ。誰が見てもそう見えるだろう。
そもそも今回は、ゾンビの奇祭の謎を解き明かしたことが発端。
因習と差別を嫌うというサダコ姉の言葉でキリヤさんが動いたんだぞ。
それがどういうことかわかるだろう?」
「助けを、求められているってことね~」
「そうだ。
もちろん種族の文化を守ることは重要だ。
たとえ一見僕達にとっては非合理的で非科学的なものに見えたとしても、文化は伝えていくべきだ。
エルフの文化を認め、その上で個人を苦しめる差別や因習は可能な限り取り除く。
それは単純な文化弾圧なんかよりも遥かに難しいことかもしれないが……」
「出来る、とは言わない、けど~……」
サダコ姉は決意を瞳に宿し、そっとキリヤの前に片手を差し出して決め顔を取り。
「忠誠の証を、お願いしますわ、姫騎士様。
私の愛したあなたにそんな顔をさせてしまう要因……王女サダコの名の下にあの茶庭の光にさらしましょう」
「あ……は、はいっ!」
恒星茶庭の光の下、キリヤはサダコ姉の手の甲にそっと口づけをかわした。
それを見てユウキは思う。
(黙っててくれたら美人さんなんだよなぁ。
まぁ、黙ったら俺達のサダコ姉じゃないんだが)
複雑な思いで2人を見守っていた中、ふとサダコ姉がキリヤに問いかける。
「ところで私、今年で27歳なんだけど~、キリヤちゃんって何歳なの~?」
「1562歳」
「え?」
「1562歳です。
若輩者ではありますが、よろしくお願いします。
サダコお姉様」
口をぽかんと開けショックを隠せないユウキの隣でヨッシーは空を見上げた。
(この世界の太陽にあたる恒星、茶庭……それが俺の知るティーガーデン星と同じなら、その公転周期は4.91日。
仮にこの異世界オルコットンがそれを1年としているなら、この星の1562歳は地球でいう21歳か。
まぁ、ここがティーガーデン星bであるという確証はないし、何よりおもしろそうなので黙っておくか。
ん? いやしかし、鎧ゾンビ達は100年前と……そうだとくる病が風土病化するまでわずか1年4ヶ月……?
やはり本当にエルフは長命種なのか?
そもそもこの異世界オルコットンとは一体……
こちらに転移するきっかけとなった霧屋トンネルとエルフの少女キリヤの繋がりはなんだ?
俺達は、元の世界に帰れるのか?)




