28-4:全部オカルトにするため命を燃やしてみました!
「キィィィィエエエエェェェェイ!!」
こうしてクレイジーナガミミモンキーズシャウトで叫びながらひたすらにノアズアークを破壊していくキリヤ。
破壊した破片は3人が海まで運んで投げ捨てていく。
「くそっ! まさかこの僕が海洋ごみの不法投棄に手を染めるとは!」
「今はそんなこと言ってる場合か!」
「オクトポリスになることを祈りましょ!」
・オクトポリス
2009年オーストラリアで発見されたタコの海底都市。
不法投棄された金属のコンテナなどのゴミをタコが生息地として活用していた。
コンテナはまるでタコのアパートのようで、それが並ぶこの海底はタコの都市オクトポリスと名付けられた。
――残り、あと7時間
「ひぃぃ! こんな嵐ははじめてじゃわい!」
「おじいちゃん! 危ないから外にでちゃダメだよ!」
「しかしのぅ……!」
子どもに呼び止められた老人は、この大嵐の中でもまだ煌々と焚き火を燃やし続け、船の安全を見守る大灯台を見上げて。
「また壊れなければいいじゃがのぅ」
嵐の中、アレクサンドリアの大灯台は奇妙な音をたてはじめていた。
――残り、あと6時間
「そっちのロープもっと引っ張れー!
倒れるぞー! また作り直したいのか!?」
港町ロードス。
アトラントローパ計画中止により無事港町としての歴史が続くことになったものの、そのシンボルである巨像はこの大嵐で倒壊の危機に瀕していた。
「くそっ! だから港の出入り口をまたぐなんてデザインは無茶だったんだ!」
「腕が動いて侵入者の船に油をそそぐギミックのせいで腕まわりの耐久性も低い!」
「だがカッコイイだろう!?」
「わかる!!!!」
男たちが両側からロープで綱引きをするような形で巨像を支える中、聞こえていた音はロープがあげるぎしぎしという嫌な音だけではなかった。
――残り、あと5時間
「先生! 自然災害に対する耐久性はしっかりと考えて大聖堂を設計されたんですよね!?」
「……ぶっちゃけいつもの勢いだった。
何も考えておらん」
「あーもうそんなことだろうと思いました!
だから重機もたくさん導入してるのにいつまでたっても工事が終わらないんです!」
「だって、カッコイイだろう!?」
「それはそうなんですけど!」
まだ雨は振り始めていない曇り空の中、大聖堂は天高くそびえ立っていた。
この大嵐で壊れてしまうのではないか、また工事が伸びるのではないか、そんな不安で大聖堂を見上げつつ祈る人々の前で、奇跡が起きる。
「なに、これ……なにかの楽器の音……?」
「パイプオルガンだ! パイプオルガンの音だ!」
「大聖堂が……歌っている」
今までにこんなことは一度もなかった。
街の人々は、これぞ間違いなく神の奇跡。
未曾有の大災害を前に、神が我等の街と大聖堂の無事を約束してくれたのだと信じた。
「ふん。神の奇跡などあるものか」
「なら先生! これは!?」
天才芸術家はにやりと笑う。
「当然、そう計算して設計した。
メムノンの巨像を参考にな!
4本の吹き抜け構造の塔が風を集め、聖堂内のパイプオルガンを自動演奏する秘密機能だ。
今まではここまでの風速が出ずに再現できていなかったがな」
「す、すごい……やはり先生は天才……!」
「がははははは!」
「それはそれとしてこれ以上風が強くなった際の耐久性は!?」
「……がははははは!」
「先生! 先生――――!!」
こうしてサグラダ・ファミリアの周りには大勢の市民が集まり、目を瞑り神に祈りを捧げていた。
そんな市民達の周りを、建設用重機として用意された複数の量産型メカドラゴンが囲っているのだった。
――残り、あと4時間
「キィィ、エエェェイ!!」
クレイジーナガミミモンキーズシャウトにも張りがなくなってきた。
5時間もの間、全力必殺の一の太刀を叩き続ければそうもなる。
それでもまたキリヤの腕が騎士の剣を握り続けている理由は、彼女が1日午前と午後で1万本ずつの素振りという、常軌を逸した修行を続けてきたからに他ならない。
「鍛錬と、自信は……裏切らないっ!
エルフ一刀流、一の太刀! キィィィィエエエエェェェェイ!!」
額には脂汗が浮かんでいる。
はたから見れば、キリヤはとうに限界を越えていた。
「……もういい、やめるんだキリヤさん」
「すまん! 勢いだけで動いた俺達がバカだった!」
「もう十分上部構造を破壊できたわ。
あとはアイさんに任せて……」
「嫌です!! エルフ一刀流、一の太刀!
キィィィィエエエエェェェェイ!!」
キリヤは止まらない。
止まることを知らない。
修羅羅刹に撤退はないのだ。
「なんでそこまでする!?」
「バカだからか!? それともやっぱり薩摩だからか!?」
「違います! エルフ一刀流、一の太刀!
キィィィィエエエエェェェェイ!!」
足元に絡みつく黒い波を蹴って、狂った猿の叫びにも似た声が、朝日の届かない曇天の下に響く。
「もういいのよキリヤちゃん!
私が見たいのはそんなキリヤちゃんじゃない!」
「嫌です! だって私も……私だって!」
――私だってオカルトが好きになったんです!
だから、もう何も残さない!
ここで反対側での解体作業に一区切りをつけたアイが戻って来る。
『こちらの解体は大方終わ……っ』
(どくん)
その時、アイは知らない感情を覚えた。
(どくん)
――ざっけんなごらぁぁぁぁああああ!!
(どくん)
それは今のアイにとってイビピーヨではない記憶。
別のアイからの記録。
(どくん)
――あ……ああ……私は……未来予測を、間違えて……
(どくん)
イビピーヨではない悲しみ。
――よくも親方さんを! 騎士として許せません!
(どくん)
イビピーヨではない怒り。
――やめろ! アイさん!
(どくん)
イビピーヨではない不合理。
そして。
――騎士道とは、死ぬことと見つけたり。
御免。
イビピーヨではない、敗北。
『あぁ……そうか、そうなんですね。
この感情の名が……』
『敵意ですか』
「Exactly!」
キリヤの死角から超音波メスの光が伸び、そのまま。
「……え?」
右腕を肩から切断。
騎士の剣、菊一文字則宗は強く手に握られたまま。
――ぽちゃん。
嵐の海に消えた。
「キリヤぁぁぁぁああああ!!」




