俺、小学生として生きることを決めたんだ
目が覚めると、真っ暗だ。ベッドサイドに置いてある時計を見ると20時くらい。その近くにはトコヤ君の母親であるノリコさん。そして恐らく事故のときにトコヤ君と歩いていた、姉であろう高校生くらいの女の子。二人がベッド脇でうつむいていた。俺が目を覚ましたのに気がついたのか女の子が母親を起こしている。
「トコヤちゃん、目が覚めたのね。大丈夫」
「トコヤ、お姉ちゃんだよ。わかる?マヤお姉ちゃんだよ?」
二人が心配そうに、話しかけてくる。どうやら姉の名前はマヤと言うらしい。
自分が死んだ話を聞いて、正直独りにしてほしい心情なのだが、母と姉からしたら大事な家族のことだ。あまり無視を続けるのは申し訳ない気持ちになる。何か話しかけようとは思うが、残念ながら俺にはトコヤ君の記憶はない。さて何と話したものか。
「トコヤ、私たちのこと、わからない?」
泣きそうな顔で、震えるようなか細い声で姉のマヤちゃんが語りかけてくる。母親も辛そうな顔立だ。どうせ俺はこの家族のことは何もわからないんだ。記憶をなくしたことにして、とりあえず話をしてみよう。
「ごめんなさい。何も思い出せなくて、二人のこともわからないです。自分の名前もお医者さんに聞いて、知りました」
二人の目に涙が浮かぶ。トコヤの名前を呼びながら、嗚咽する。
「わ、私はあなたのお母さんよ」
「わたっ、わ、私はお姉ちゃんだよ」
「お母さん、お姉ちゃん……思い出せなくて、ごめんなさい」
辛そうな二人を見るのが、すごく辛い。俺からしたら他人の二人。自分が死んだであろうショックで自分自身も辛いというのに、この家族のことを思うと、さらに辛くなってしまう。俺の家族も、俺のために泣いてくれているのだろうか。そう考えはじめると、涙が出てきてしまう。
「トコヤちゃん、ごめんね、あなたも辛いわよね。泣いちゃってごめんね……ごめんね」
涙を流しながら、謝罪の言葉をつぶやき続けるノリコさん。俺はいたたまれなくなる。
残念ながら冷静に話はできず、あまり会話にならなかった。とりあえずまた明日の朝にまた来るからと、ノリコさんたちは一旦家に帰ることになり、俺は一人になった。
「どうしたものか」
静かな病室の一角。一人になりなんの音もしない秒室で、誰に話すでもなく、ひとり呟いてしまう。
一人になり今の状況について考える。俺は死んでしまったようだが、彼女たちの家族であるトコヤ君。彼は彼女たちからすれば、生きている。記憶をなくしていることで悲観に暮れてしまうのは仕方がないが、それでも生きているのだ。残念ながら中身は別人だが、俺かわうまくやれば彼女達の家族の代わりをすることは、できるだろう。
だが、本物のトコヤ君はどうなっているのだろう。俺と同じく、死んでしまい、残った身体に俺が憑依でもしてたのか。それとも、単に乗っ取ってしまったのか。後者であれば何とかして身体を返してあげたい。だが、どうしていいかわからない。心のなかでトコヤ君に語りかけたりもしてみるが、返事はない。
自分がどうなってしまったのかは、考えても何もわからない。ならば、今できること。これからできることを考える。
俺は小学生のトコヤ君になってしまっている。これはもう、どうしようもない。ならば今後は記憶喪失を理由に、新しいトコヤとして生きてみるしかないだろう。そうすれば、きっとあの母親、ノリコさんと姉のマヤちゃんもいずれは元気になってくれるだろう。
俺の、透の家族。父親と妹が1人。この体では、会いに行くことはできないだろう。会っても向こうからしたら同じ事故に巻き込まれた他人というだけ。会うだけ俺が辛くなるだけだろう。先立つ不幸を許してほしい。俺はトコヤとして新しい人生を始めます。少なくとも本当のトコヤが帰ってくるまでは……。
決心がつくと、心にも余裕が出てくる。小学生からのやり直し。そんな妄想は誰もがしたことがあるだろう。それを現実にできると思えば、今後の生活も多少は明るく思えてくる。しかもだ、ずっと悲しい顔しか見ていないが、母親は、かなり美人だ。30代後半だろうと思われるが、整った顔立ちに長い綺麗な黒髪。和服とか着たら最高に似合いそうな和美人。会話した時は、冷静に相手を見れていなかったが、今思い出すと、胸も大きかった。すごく大きかった気がする。
そして姉のマヤちゃん。高校生くらいと思われるが、母親にで将来凄い美人になりそうな子だ。長い黒髪が似合い、優しい目つきをしていた母親とは違い少し目つきは鋭い。身長は多分170は超えていて、普段はクール系の美人さん何じゃないかと思う。トコヤを心配している顔は、とても優しさがにじみ出ていた。素敵なお姉さんだと思う。……胸は見ていなかった。母親似なら、多分大きいのだろう。
よし。今後そんな美人な家族に囲まれ生活できると考えると、新しい人生も楽しみになってきた。とりあえず、細かいことは考えても仕方がない。彼女たちと仲良くできるよう、あまりむずかしく考えず生きてみよう。
俺、透改めトコヤは小学生として、新しい人生を生きることを決めたんだ。




