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俺、事故に巻き込まれたんだ

「トコヤちゃん!目が覚めたの?!」

 ひどい頭痛と共に目が覚める。知らない部屋。目の前には知らない女性。今にも泣き出しそうな、とても辛そうな表情で俺に必死に話しかけている。しかし状況のわからない俺は、返事をすることができなかった。

そもそも、俺はトコヤちゃんなんて名前じゃない。

 

 白﨑透。20歳の文系の大学に通う、ごく普通の大学生だ。寝起のせいか、頭痛のせいか、はっきりとしない意識を集中させ記憶をたどる。ひどい頭痛がするが、だんだんと思い出してくる。気を失う前の最後の記憶。

 

俺は、事故にあったのだ。

 

 だんだんと思い出していく。その日、俺は買い物をしようと街をブラブラと歩いていた。俺のすぐ目の前、工事中の建物の前を姉弟っぽい二人が歩いていたんだ。そして建物の上から落ちてくる大きな看板のようなもの。

 俺は無意識で動いていたんだと思う。勢いよく体当りし、目の前の二人を突き飛ばした。看板の当たらない範囲に姉弟を出すために。助けられたはずだった。二人は看板に当たらない場所に転ぶようにちゃんと飛ばされていた。落ちてきた看板は2人の代わりに俺に当たった。頭への大きな音と、痛み。そして全身への強い衝撃も思い出してしまう。

 俺はその時、死んだかと思った。だけど、少しの間だがまだ意識があったんだ。近くを歩いていた人たちの悲鳴を聞きながら薄れゆく意識の目の前で、助けられたはずの二人の上に、さらに大きな何かが落ちてきたのが見えた。それが……俺が気を失う前に最後に見た光景だった。


 俺は周りを見渡す。涙を流し何か叫んでいる知らない女性と白い部屋。多分、ここは病院だ。俺は助かったのだろう。頭の痛みは事故の怪我の影響だろうか。ズキズキと痛む。記憶ははっきりしてきた。記憶喪失なんかでもないと思う。だが、目の前の女性はやはりわからない。

  

「トコヤちゃん、お願い、返事をして、お母さんがわかる?トコヤ…」

 お、かあさん?そんなはずはない。俺の母は数年前に病気で亡くなっている。目の前の女性が母なわけが無い。だが、目の前の女性の必死な声に、俺はわけかわからなくなる。とにかく、話をしないと。俺は声を出そうとするが、怪我のせいだろうか。うまく声が出せない。

「あ、あな…たは誰ですか」

 俺は必死に声を出す。ようやく口から出たその声は聞き慣れた自分の声ではない。高めの少年のような声がした。喉もおかしくなってしまったのだろうか。俺が話しかけると同時に、目の前の女性は泣き崩れてしまう。看護師と思われる人が女性を支えながら部屋の外に連れ出していく。

 俺は何が起きているのか、さっぱりわからなかった。状況に対応できずに混乱し周りを見渡していると、ふとベッドの横、窓ガラスに映る自分の姿に気づく。

 俺は知らない子供の姿をしていた。


……


 あれから医者の質問に答えるように、いくつか話をしてわかったことがある。

 俺は栗村トコヤという小学五年生の少年になっていた。しかもトコヤ少年は俺が受けた事故の時に前を歩いていた少年だった。あの時、俺が意識を失う直前。トコヤ少年とその姉は、俺に突き飛ばされ落ちてきた看板を避けられたのも束の間。看板の固定されていた鉄骨が時間差で落ちてきたらしい。

そして、トコヤ少年はそれに気づいたのか、たまたまなのかはわからないが、俺に突き飛ばされ体勢を崩していた姉を、庇うように覆い被さったらしい。

そのおかげで姉の方は、鉄骨の直撃を避け軽い擦り傷と打撲で済んだらしい。立派な弟君だ。

 ただ、その代償にトコヤ少年は鉄骨が頭、体に当たり、意識不明の重体に。1週間も眠っていたそうだ。

目が覚めたときにいた女性は姉弟の母親。名を紀子さん、と言うらしい。事故から目覚めた子供の親ならば、やっと目覚めた息子に、あなたは誰、なんて言われたら泣き崩れるのも仕方がないだろう。俺自身が状況がよくわかっていないとはいえ、申し訳ないことをしたと思う。俺は白﨑透だ、と医者に話したところでどうにもならないだろうと考えた俺は、何も思い出せない、わからないと伝えることにした。実際、トコヤ少年のことも家族のことも、何も知らないんだ。そんなことを考えていた俺に、医者は事故の後遺症で記憶が混濁しているのだろう、きっと時間がたてば思い出せるだろうと、励ましてくれた。

 

 同じ場所で事故にあった俺とトコヤ少年。ここまでの話を聞いたとき、俺は小説や漫画のように入れ替わりでもしたのか、なんて思っていた。しかし、話が終わり医者が部屋の外に出た後。恐らく気を取り戻したノリコさんと医者の会話が外から聞こえてくきた。


その話を聞き、先程までしていたとひどい頭痛よりもさらに激しい衝撃を受け、俺は意識を失ってしまう。


「ご姉弟を助けに入った青年なのですが、その方は残念ながら目を覚まさずお亡くなりに……トコヤ君も危ないところでしたが、一命を取り留めたようで、本当に運が良かったと思います」


 俺は、白﨑透は死んでしまったらしい。 




 

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