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やりすぎ強すぎ魔女【サーカディアン・リズム】

 コチの世界の中央地域近くの数週間前に空からナニかが落ちてきた小さな村から、山二つ越えた町の入り口──大きなリュックを背負った、三角帽子の魔女が顔の汗を手の甲で拭いながら歩いてやって来た。


「ふぅ……やっと、乗り物を乗り継いでここまで来た。夜になる前の宿探し間に合った」

 どことなく顔色が悪い魔女の顔の片側、片目と頬の一部にかけて湾曲した縫合痕がある魔女【サーカディアン・リズム】こと、リズムは水筒の水を飲むと、目的の村へ向かう道の前方にある山を眺める。


 特徴的な山だった。山の中腹くらいまで樹木が生い茂り、山頂は岩山の禿山だった。

 取り出した地図を確認しながら、リズムが呟く。

「さすが、地図作りの天才マスターが作成してくれた地図は正確……ここまで、迷わずに来れた」

 地図を丸めて仕舞うと、リズムは宿屋の看板に目を向ける。

「今夜はここに泊まって、明日の朝に禿山に向おう」


  ◇◇◇◇◇◇


 宿の部屋に入って、ベットの端に座ったリズムが革靴を脱いでくつろいでいると。

 宿の若い女性主人がサービスの紅茶とお菓子を乗せた、ワゴンを押して現れた。

 テーブルの上に焼き菓子の皿を置いて、女性主人がリズムに言った。

「食事は一階の食堂でお願いしますね、今は南方地域から来た蛮族料理人の方が厨房にいて、注文すれば南方料理を作ってくれますから」


「お心遣いありがとうございます、食べ物は持参したモノがあるので大丈夫です……それに、あたしはマスターに作られた人造人間なので。食事はそれほど必要としませんから」

「人造人間? もしかして、お客さんを作ったマスターと言うのは、西方地域に住むあの有名な魔女ですか? 地図作り天才の」


「はい、その魔女があたしのマスターです。あたしは人工タンパク質をマスターがこねて作られました。その時に体の中にいろいろな魔法の種を入れてもらったので……たいがいの魔法は使えます」

「その顔の縫合した痕は?」

「マスターがつけてくれたんです。人造人間だと信じてもらえるようにって……あたしが人造人間だと知っても、そんなに驚いていませんね?」


 女性主人は、紅茶をリズムのカップに注ぎながら言った。

「この宿屋には、さまざまな輩が来ますからね……この間も、中央湖地域から来たっていう。白と黒のツートーンカラーのワイバーンに乗った、男の魂が入った娘が泊まっていきましたからね……この町には観光で?」

「いいえ、空から大きなモノが落ちた村へ向かう途中でして……そのついでに、禿山に立ち寄ってみようかと」


 リズムの言葉を聞いた宿屋の女性主人が動揺して、けたたましい音を立ててワゴンごとコケた。

「あ、あ、あ、あの禿山にこの時期に行くですって? あの山にはこの時期は魔物が集まっていて」

「知っていますよ、あたしは実は魔力が強すぎて適度な制御ができなくて困っているので、魔物さんに少し魔力を抜いてもらおうかと思って」

「ひぇぇぇぇ、魔物に魔力を分け与える⁉」

 女性主人は慌てて、リズムの部屋から逃げ出した。


  ◇◇◇◇◇◇


 その夜──リズムの泊まっている部屋に若い男女の来客があった。

 女が男に抱きついて言った。

「あたしたち親同士から反対されても、愛し合っているんです! 魔女さまの魔力であたしたちの愛を守ってください」

 抱き合っている男が言った。

「彼女のコトを、深く愛しているんです!」

「死んでも彼とは、離れたくありません!」


 男女のお願いに、少し困惑するリズム。

「あたしの魔力は強すぎるから、魔法に頼らない他の方法で愛を貫いた方が」

「この宿に西方から来た、最高の魔女さまが宿泊しているって聞いて来たんです。お願いですラブラブなあたしたちの願いを叶えてください」

 リズムは、カップルの熱意に負けて、愛の魔法を二人にかけた。

 ピンク色の光りに包まれて幸せそうな二人に向かって、リズムが言った。

「後から魔法が強すぎるから解いて欲しいと、泣きついたり恨んだりしないでくださいね……その魔法は一度かけたら二度と解けない魔法ですから」

「はい、魔女さまのコトを恨んだりなんてしません……ありがとうございました」


  ◇◇◇◇◇◇


 翌日──リズムは宿をチェックアウトした。

 宿泊代を受け取った宿屋の女性主人は、宿の外で物陰に隠れてリズムを見送っている。

 大きな荷物を担いだサーカディアン・リズムが柱の陰に隠れている女性主人に頭を下げる。

「お世話になりました……これから、禿山に行きます」

 そう言い残してリズムは、魔物が集まっている禿山に向かって歩いて行った。


 小一時間後──魔物が集まる禿山の頂上に到着したリズムは、そこで昨夜の宴の後片付けをしている、魔物たちを見つけて声をかけた。

「こんにちは、魔物さん。あたしの魔力を少し抜いてください」

 耳が尖った黒い魔物たちは、リズムの背後に魔力の波動が恐ろしい怪物の姿となって咆哮しているのを見た。

 恐怖に逃げ出した魔物たちに向かって、リズムが叫ぶ。


「逃げないでください、あたしの魔法を見てください。えいっ、花火程度の軽い爆裂魔法」

 禿山の山頂がリズムの魔法で吹っ飛んで地形が変わった。

 魔物たちの体も、血肉も残さずに吹っ飛んで消えた。

「また、やっちゃった……強すぎてごめんさい」

 タメ息を漏らした、サーカディアン・リズムは、山を下りはじめた時に一度立ち止まり、振り返って呟いた。

「昨夜に愛の魔法をかけてあげた、あのカップル大丈夫かな? 大変なコトになっていないといいけれど……さてと、空から落ちてきた巨大なモノがある村に向かいますか」


 リズムは、自分の強力すぎる魔法を生かせる場所を求めて、未知のテクノロジーが落下してきた村へと足を進めた。


  ◆◆◆◆◆◆


 リズムの愛の魔法をかけたカップルに対する心配は数年後に的中した──先に死亡した男の棺に残された女はすがりつき、一緒に生きたまま埋葬されるコトを望み、村人に大反対されて止められた。

「あたしも棺に入れて! 彼と一緒に埋葬してぇ!」


 愛の魔力の効力で、諦めきれなかった女は、数日後に死んだ恋人が埋められ墓地を女は掘り起こして棺のフタを開けると。

 恋人の体に、恍惚とした表情で抱きついた。


『サーカディアン・リズム』プレエピソード~おわり~

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