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ちゃうねん

作者: 原田楓香

「ちゃうねん」

 彼女は言った。

「何が違うの?」

 僕が返すと、

「ちゃうねんちゃうねん」

 今度は早口で繰り返した。

「?」

 


 僕は、この春、関西にある大学に入学した。そこで出会った関西人の彼女と付き合い始めて、2ヶ月。なんとなく、関西弁のリズムにも慣れてきた。関西独特の様々な単語も、なんとか理解できるようになってきた。そして、2人の付き合いは、今のところ順調だ。


 今日、僕と彼女は水族館に行く約束で、待ち合わせをしていた。彼女は、いつも時間に正確で、なんなら、約束の時間より、10分以上早く来ていたりするのだ。

 そんな彼女が、今日、初めて遅刻してきた。

 なかなか来ない彼女に、(何かあったのか?)と僕は不安でヒヤヒヤしていた。スマホで、どうしたの?とメッセージを送ることも考えた。でも、なんだかちょっとの遅刻すら許せないような、心の狭い男だと思われるのもいやだったので、僕は、じっと待っていた。

 

 20分過ぎて現れた彼女に、

「どうしたの? 遅いから心配してたんだよ」

 僕は言った。できるだけ、優しく言ったつもりだ。

「ごめん」

 そして、続けて、

「ちゃうねん」

 彼女は言った。

「何が違うの?」

 僕が返すと、

「ちゃうねんちゃうねん」

 今度は早口で、彼女は繰り返した。

「?」

「ちゃうねん。来る途中な、めっちゃ、重そうな紙袋下げたおばあちゃん、いてはってな。それが、梨やら柿やら、ようけ入ってたみたいで、重みに耐えかねたんか、袋破れて、梨とかが道にコロコロ転がって、えらいことになって。私、ちょうど目の前にいてたから、ほっとくわけにもいかへんかって、いっしょに拾い集めて、別の袋買うて来たりしてたから、えらい遅なってしもて。ほんまごめんな」

「そうか。たいへんだったね。でも、おばあちゃん、助けてもらって喜んだんじゃない?」

「ちゃうねん。それがさぁ、めちゃお礼言わはって、荷物になるけど、っていいながら、私に、これくれはってん」

 彼女は、ショルダーバッグから、大きな梨と柿を1個ずつとりだして見せてくれた。

 また、『ちゃうねん』だ。僕は、とうとうガマンできなくなって、あらためて訊いた。

「何が違うの? それ、くれたってことは、喜んだんだよね? そうじゃないの?」

「そうやで。めっちゃ喜んではったで」

「?」

 僕は、なんとなく、微妙な気分だ。わかるようなわからないような……。


 そんな僕に、彼女が、ああ、という顔をして、付け加える。

「いや、ちゃうねん、って、別に、違うって意味だけとちゃうねん」

「え?」

 どういうこと? 『ちゃうねん』って、『違う』って意味じゃないのか?


「え~とね。ちゃうねん、って、違う、って意味のときもあるけど、話し言葉の始めに使うときは、多くの場合、ちょっとした接続詞?みたいなもんやねん。ていうか、(今から、ちゃんと説明するから聞いて~)みたいな意味やねん」

「ええ~。そんな意味が……?」

 関西弁、おそるべし。こいつはちょっと奥が深い。そして、面白い。

『チャウチャウちゃう?』『チャウチャウちゃうんちゃう?』が理解できるようになって、自信を持っていた僕だけど、まだまだ道のりは遠そうだ。


「ねえ。僕、専攻の言語より先に、関西弁にハマりそうなんだけど」

「ふふふ……やったね。それを狙ってた」

「え……」

「私ね、関西弁を全世界に広げるのが目標やねん。ふっふっふ」

 まるで、「地球を征服する」と宣言する、戦隊ヒーローものに出てくる怪人みたいに、彼女は不敵に笑った。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 関西弁、奥が深い!
2023/10/21 22:56 退会済み
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