99.湖を駆ける
来年もよろしくお願い致します。
どうぞ良いお年を。
ごはんをおいしくいただいた後は、片付けの時間だ。
炊事場はレイとヤカラに任せて、オレ――【セージ】たちは井戸のまわりを掃除しにいった。
ジーノとアルゴも手伝って、やいのやいのとじゃれ合いながらも、片付けはあっという間に終わった。
キャッキャしながら炊事場に戻ってみれば、こちらももう終わったのか、奥のドアの前でレイとヤカラの二人が立っていた。
なにやら話しこんでいるみたいなんだけど。
「んぉ、あれ山の人だ。どーしたんだろ?」
「なんか深刻そーなのさ」
ジャマしないよーにソっと離れて見ていれば、二人のスキマから廊下に立つ誰かの姿が目に入った。
ヤカラたち山岳民は今、大人の事情により正体を隠している最中なんだとかで、この町の人たちと似たような白っぽい服を着てるんだけど……フードをかぶってても山で見慣れたフサフサのアクセサリーとかね、チラチラ見えちゃうもんだから分かっちゃうんだよなぁ。
オレのとなりからヒョッコリ顔を出したジーノも、さり気なく小さなピアスを着けてるし。
それがまたオトナっぽくてカッコイイんだよな〜、ちょっと憧れちゃうかも〜。
ジーノとコソコソ話してると、顔を上げたレイに気づかれてしまった。
「ちょうど良かった、ちょっとこっちに来、て……ねぇ、何でみんなしてびしょ濡れなの?」
とたんに、オレたちを見回したレイの目が、スゥ、と細くなる。
「あっ、いや〜これはちょっと手がスベっちゃったとゆーか……ねぇ〜」
「そっ、そーそー、思ったより水が飛んじゃったのさ……なぁ〜」
「オッ、俺は巻き込まれただけだからな」
「ボクも同じく。いちおー止めたからね」
コレはちがうから!
ちょっとパシャパシャしてたらうっかり楽しくなっちゃって、気づいたらちょっと水分多めになっちゃっただけで……けっしてただ遊んでいたワケでもなくって……ね!
それなのに、オレとジーノが頑張って誤解を解こうとしてる横でアルゴとイオリがソッコーで被害者アピールしてくるとは。
くっ、この裏切り者たちめっ。
アセるオレたちに、だけどレイは大きくため息をつくだけで……あれ、怒らないのかな?
「ハァ、今はそれどころじゃないか。あのね、どうやらロンがいなくなったみたいなんだ」
「――えっ、ロンが!?」
なんと、それは一大事だ!!
***
同郷の言い分によりゃ、己――【ヤカラ】が出ていって間もなく、少し腹ごなしに出てくると言ったきり戻ってこないのだという。
何刻も経ったワケでなし、何時もなら気にも止めないが、ここは己等が陣地の外。
加えて、夜行進に備えて仮眠をとるべき頃合いだ。
それでも、大方こちらを訪ねて長居しているのだろう、とのんびりと構え、顔を出してみた結果がこれだった。
今の時期、日はまだ落ちぬ、が。
「町の中を……いや、湖の方から捜索しようか。暗くなったら不利だし」
「……教会の内部も見とくか? 関連してるってんなら尻尾が掴めるやもしれねぇぜ」
果たしてこの騒動に、昨日の幕引きに納得してねぇ連中が関わってやがるのかどうか。
無関係だとしても、どさくさに紛れて教会の内部に潜り込むいい機会にもなる。
何であれ、捜す範囲は広い方がいいといった観点からか、思惑も絡めた己の案にレイの反対はないようだ。
「おっ、こいつぁ事件の予感がするのさ」
「オメー、楽しんでねーか?」
瞳の内をランと光らせた男に、アルゴと同様に同郷も半眼で睨むが、当のジーノはシレッとしたもんだ。
「失敬さ〜、一度関わったモン同士だぜ、心配するのは当然だろ〜」
「ハッ……間者稼業がよく言うぜ」
己等の背後の卓に移動しつつ放ったアルゴの声は、もしかしたら己とレイにしか届いてないのかもしれん。
「もーっ、とにかく早く捜しに行こうよ!」
「そうだよ、ボクたちも手伝うからロンが行きそうな場所を片っぱしから見に行こう!」
堪りかねたセージとイオリも、前に出て口々に急かす。
確かに人手は多いに越したことはないが……まさかコイツらだけで組ますわけにもいくまい。
「そんなら、オレら四人で湖の捜索に行くってのはどーだ? 教会云々のやり取りは分かんねーし、ダンナとレイに任せるしかねーもんなっ」
イオリとセージの肩を組み、目でアルゴを指したジーノが言う。
レイを伺えば、然程迷いなく頷いた。
「うん、それがいいかも。彼らなら連携も取れるし、色々と場慣れしてるから協力してくれるとなれば心強いよ。セージとイオリの二人を任せてもいいと思う、ね、ヤカラ」
「アンタがそこまで言うなら異論はねぇぜ。なら――残りの連中は町中を捜すのと、俺等の顔繋ぎに二人連れて行く。それでいいな?」
大っぴらに面を出せない以上、己等が外を走り回んのは得策じゃねぇ。
さっさとジーノの案に乗り、湖の捜索を任せ、己とレイで教会に潜入する事にした。
***
本日三回目となる湖のほとりに、オレ――【セージ】たちが着いた頃、太陽の位置はかなり低くなっていた。
「んじゃーとりま、二人一組で湖沿いと森の中の二手に分かれるさ。くれぐれも離れすぎないよーに進んで行こうぜ」
『おーっ!』
「おう」
ジーノの指示で、オレとアルゴは湖側を、そこからギリギリ見えるくらいまで離れた森の内側を、イオリとジーノが走る。
等間隔に横一列に並んで、競争するように同じ方向に進みながら湖のまわりをもれなく捜す作戦だ。
湖の正面からアルゴと三人で来た時とは反対側の方をまわるんだけど、途中までついてきてくれた山の民が言うには、あっち側は山の民の通り道があって、暗くなっても通れるくらい馴染みがあるんだそーだ。
とゆーワケで先にこっち側を、みんなで念入りに捜そうってコトになった。
ロンに何かあったとは考えたくないけど――ひとりぼっちで動けなくなってんだったら、早く見つけてあげないと。
「おーいっ、ロ〜ン〜!」
ときどき声を出しながら、辺りと足もとをしっかり見ながら走る。
遠くから同じように呼ぶイオリの声も聞きながら、オレたちはどんどん奥へと進んでいく。
見えなくなりそーなギリギリを先にいくアルゴの背中を追いかけてると、突然その背中が立ち止まった。
「――どったの? アッくん」
「合図があった、向かうぜ」
やっと追いつけば、アルゴは森の奥に視線を向けたままそんなことを言う。
ジーノの声も口笛の音も少しも聞こえなかったのにな? と、不思議に思ってる間もなくて、ズンズン進んでくアルゴのうしろを慌ててついて行く。
「ほら、アソコに小屋を見つけたぜ。つっても木こりの小屋だと思うけど、いちおー調べとくか?」
木の間からヒョッコリ顔を出したジーノが教えてくれた先を見てみれば、少し離れた木々の間からわりと大きめの小屋がある。
中の様子なんか全然分からないけれど、ロンが休憩しているかもしんないし、とーぜん行くべきっしょって思うんだけど……アルゴは何でか、よしゴー! とは言わなくて?
「……ここは俺が行く。オメーらはもう引き返しな」
「……了解したのさ。けど、あんまり目立たないでくれよ〜」
「えっちょっと、アッくん一人に任せる気? それに、この先は捜さないの?」
アルゴの漢気あふれる宣言に、ソッコーでゴーさせるジーノと同時に、イオリが慌ててストップをかける。
「落ちつけって、もうだいぶ暗くなってきたろ? これ以上進んだら戻るのが難しくなるのさ。その点、アルは湖上を飛んで戻れるからな。この先はアルに任せようぜ」
ジーノがオレたちの肩を叩きながら言う。
たしかに、森の中は入った時よりうっすらと暗い。
みんなが戻れなくなったら困るし、ここらが引き際ってやつなのかもしれない。
でも、それなら――
「オレ、まだ捜せるよ。夜目が利くんだ、だから――アッくん、オレにも手伝わせて!」
「――セージの目は、ボクも保証する。レイサンとヤカラサンだって認めているほどなんだ、だから――セージだったら、きっと大丈夫だから」
ジーノとアルゴをしっかりと見てお願いをする。
イオリも間に入ってくれた。
アルゴは口を一文字にしたまんま、黙ってオレを見下ろして……
「――俺の判断が最優先だ。何を捨てても従えるってんならいーぜ」
「アル……」
クルリと向けたアルゴの背中に、ジーノが呼びかける。
「問題ねーだろ。テメーはレイに知らせとけ」
そのまま、誰とも目を合わさずにアルゴは前を見て言った。
「――イシマトイのやり方を見せてやるぜ」




