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97.織るように 其の一

 ――およそ三百年ほど前、荒廃しきっていた世界は三人の神と、とある聖石によって平和がもたらされた。

 聖石と契約した神の瞳は紫紺の色に染まり、聖石は現在もなお神の血を受け継ぐ者に継承されているという。


 ――と、これが一般的に広く流布されているこの世界の成り立ちらしい。


 その後、世直しの道中に次々と生み出された聖石の眷属たちは長き眠りにつくも、時折起きては人間に奇跡を与えるようになり、それがやがてイシマトイと呼ばれるようになったのだとか。


「――そんなヤツラが王になったり、イシマトイと疑わしき者を拉致ったり聖石欲しさに戦争おっ始めよーとしたバカが現れたりしてな、嘆いた三神教の創始者が各国に教会おっ建てて協定を結ばせたのさ」


 ジーノの言う、その協定とやらはいたってシンプルだった。


 一、須く争いに用いる事を禁ず

 一、選ばれし者もまた人の子である。この領域を侵すことなかれ

 一、神の伴侶の安寧を貪ることなかれ


 心得よ――『神の目はここにあり 犯すことなかれ』



 そういえば、広場にあった教会の入り口にもそのような文言が掲げられていたっけ。

 彼の説明に耳を傾けながら、ボク――【イオリ】は、すでに取り分けられていたロールキャベツを食べ進める。


 あのあと、ボクとヤカラが戻った時には、もうロールキャベツの大皿はカラとなっていた。

 彼の分までつい食べ過ぎてしまったかと焦ったが、残りはちゃんとヤカラの皿に盛られていた。

 よかった、食事中は我を忘れるいきおいだったから……


「なんかそのへんレイ兄から聞いたかも。イシマトイがショーチョー的なソンザイになって〜? 世界にキンコーがタモタレルよーになった〜的な?」


 みんなが鴨の皿に手を伸ばす中で、ベリーのジャムをトロリとテカる角煮に乗せてひと口でほおばったセージの瞳がペカリと輝いた。

 コッテリ系のタレに甘酸っぱいジャムは、さぞかし素晴らしくハイカロリーな味わいにちがいない。


「そーそー、おかげで表向きは平和な世界になったのさ」


 あんまり分かってなさそーなイントネーションを連発したセージだけど、ジーノは気にした風もなく、かるく相づちを打っただけで、焼き目のついた鴨とオレンジを重ねて口に運んでいた。

 甘みのある脂とジューシーな酸味の組み合わせは、最高に美味しいハーモニーを奏でることだろう。


(……表向きは平和、ね)


 ジーノのセリフに、ボクはフォークを噛みそうになる。


 セージが言うように、その辺りの内容はすでにレイから教わっていた。

 力のある国同士が互いに見張りあっている中、仮にイシマトイと思しき者を自国で発見したとて、せいぜいが彼らを保護し監視をする程度だろう。

 これで万が一、権力や悪事に利用すれば、各国から盛大なバッシングを受けるハメになる。


 ただ、それでも――


「つまり、表立っての動きはなくなっただけで、裏ではそーいう関係の犯罪がフツーにあるってコトだよね? ……たとえば、マガイモノになる石、とか」


 ボクの発言に、アルゴがチラリとレイを見たのが分かった。

 そのレイは、たっぷりの千切り野菜を薄い肉で巻いて、塩ダレみたいなのをつけて咀嚼している。

 シャクシャクの歯ざわりと噛みしめる肉の旨味のコラボか、それならサッパリとしていくらでも食べられるだろうな。


 ――イシマトイに手は出さない。

 されど、イシマトイが最高の()()であるコトに変わりはない。


 国がどれだけイシマトイの人権を謳っていても、完ペキに取り締まることは不可能だ。

 犯罪が無くなることはない。

 だから、ジーノの言う表向きの裏には、あのマガイモノとされる石の流通も含まれているに違いなかった。


 なぜならあのダンゴゥ事件で見た奇跡の石とやらも、その大元は西の都から出回っているらしいのだから――






 ***






 あの儀式も、あの石も……何をしたってどう願ったって、()()()()()でイシマトイにはなれない。


 あの事件の後、レイが教えてくれた。


 同意の有無に拘らず取り付けられたが最後、精神を破壊され、事切れるまで徘徊し続ける。

 そんな存在に――マガイモノと呼ばれるソレになってしまうのだ、と。



 ――ねぇ、レイ兄……


 そん時のオレ――【セージ】は、どうしても聞けなかった。


 ――どうしてオレたちはそんな所へ向かってんの?


 いろんな思いがよぎる中、真っ先に思ったことはソレだった。


 レイの故郷はそんな危ない所なの?

 どうしてそんな危ない石を作ってんの?

 レイはその石と何の関係があんの?

 オレたちは、そんな所でどんな目にあうの――……



「――『西の都から流れてくる奇跡の石』な。コレも裏では有名な話なのさ。なら、内乱があったっつー話も聞いてるか?」

「うん……あ、いやえっと、詳しくは聞いてないけど」


 明るいジーノの声に、イオリはちょっぴり困ったよーにオレの顔を見る。

 それは前に、ヤカラの父ちゃんから聞いた話なんだけど……それもやっぱり、レイにハッキリとは聞けてない。


 なるほどなー、と言いながらレイと顔を合わせたジーノに、レイがコクリと頷いた。


「彼らには何も隠し立てしていないよ。ただ、この世界での常識が皆無に等しいからね、一般的なコトから先に教えているんだ」


 オレたちに隠しゴトはしない――

 そんなレイの言葉に、少し安心もしちゃう。

 ……疑ってるワケじゃないんだ……けど。


「つーかよ、そもそも山で聞くのも、内乱があったってその一言だけなんだよな。実際はどんなのが出回ってんだよ?」

「どこで聞いても同じだよ。西は地理的にも閉鎖されているから、噂が出回りにくいんだと思う。――それでも」


 ヤカラの疑問に返しているはずなのに、レイはなぜかオレを見ていた。


「俺もジーノ達も、()()の流通含めて関わってないし――キミ達にも関わらせないよ」


 目が合うとフワッと笑ってくれて……そしてしっかりと宣言してくれた。

 たったそれだけで、オレの中にずっとあった不安がフワッと消えてゆく。

 ……レイには、おみとーしだったのかもしんない。


「ハハハッ、オレらがマガイモノの組織なんかと仲良しなワケないのさ〜」

「アイツらは聖石を狙ってくるからな、ッたくうっとーしいったらねーぜ」


 続くジーノとアルゴのセリフに、それもそーかと思ったらちょっと恥ずかしくなる。

 そりゃそーだよな……アルゴもレイもちゃんとした? イシマトイなんだし、聖石持ってるから狙われちゃ……ん?


「あれ、マガイモノって、聖石を狙うもんなん?」

「あ? そーだけど……つか実際襲われたんじゃねーのかよ」


 いちおー、サンもマガイモノらしいんだけど、彼女からはそんな感じしなかったよーな?

 もちろん、サンを知らないアルゴには、キョトンとされちゃったんだけど。

 てゆーかなるほど、それでやたらとレイを心配していたのか。


「ちなみに、その内乱な、マガイモノと長年争ってた、ってーのが真相なのさ」

『えっ!?』


 いろいろ納得して安心して、よーやく落ちついてきたってーのに、ジーノのイキナリバクダン発言にビックリする。

 イオリと一緒におどろいて……って、なんかこのパターン今日多くない!?


「フフーン、ちなみにその争いに終止符を打ったのはレイ達、旅の御一行なんだぜっ」

『ええっ!?』

「いや、ジーノ達も一緒に戦ってたじゃんか」


 サラッとレイがジーノにツッコんでるけど、そーじゃなくない?


「……というコトは、レイサンは西の都が出身じゃないんだ?」

「うん、俺は北の出身だよ。そこで仲間に拾ってもらったんだよね」


 イオリの呟きに、またまたオドロキの新事実が発覚しましたけれども!


「ちなみにそのお仲間には、アルの身内もいたんだぜっ」

『えええーっ!?』 

「オメー、コイツらで遊んでんだろ」


 オレたちの反応を見て、ついにお腹を抱えて笑いだしたジーノに、ジト目でツッコむアルゴだけど――ちょっとまって、さっきからビックリしすぎて混乱しちゃうし息も苦しーんだけどっ。

 えぇと、レイもアルゴもイシマトイってコトはその身内さんも…………あっ!


「アッくんの身内って――アランだった!?」

「ハァッ? ンでそーなるんだよ」


 あの、やたらとアルゴにソックリな姿を思い出したオレの名推理に、アルゴは異議ありのよーだ。

 おかしいな?


「だって〜、アランとアッくんソックリだしぃ、妹さんかなって……」

「ハ? まてオイまさか――イヤ、つーかオマッ……アランに会ったのか!?」

「ボクも会ったケド。というかボクたち、アランのイシマトイだし」

『ハァアッ!?』


 どーやらお次はアルゴとジーノがビックリする番らしい。

 イオリのセリフに、二人はそろってレイの方をガン見するけれど、レイは涼しい顔をしたまんま。


「そーです、この二人は揃ってアランのイシマトイになりました」

『ハァーッ!?』


 とりあえず、この話も長くなりそーだ。

 ヤカラがカタリと席を立ち、お皿を下げるといつものよーにお茶を煎じはじめた。

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