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2-③

「何を言ってるんだ? 閉じ込める……?」


「はい。だって、王子であるリュシアン様を侯爵家の娘の私ごときがどうにかするなんてできないじゃないですか。けれど、平民でしたら何とでもできますわ。私、リュシアン様が平民になったら、捕まえて監禁して、一生大切にします!」


「いや、監禁って……」


 ジスレーヌは頬に手を当てて、うっとりした顔で何かぶつぶつ呟いている。どうやら空想の中に入り込んでしまったらしい。


「……つまり、俺が王子じゃなくてもいいのか」


「ええ、もちろん! リュシアン様なら王子でも平民でも、なんでも構いません!」


 ジスレーヌはきっぱりそう言った。


 突拍子がない上になんだか物騒なことを言うが、予想外過ぎてさっきまでの沈んだ気持ちがどこかへ行ってしまった。


 ジスレーヌもきっと、本気でそんなことを思っているわけではないだろう。


 ただ、俺がつまらない劣等感に苛まれてやけになっているのに気づいて、冗談を言って励ましてくれたのだ。


 情けなくなると同時に、心が満たされていくのを感じる。



「……そうか。お前に監禁されるのは嫌だから、王子でいられるように頑張らないとな」


「…………頑張らなくてもいいんですよ?」


「いや、頑張る。お前のこともちゃんと王妃にしてやるから待っていろ」


「リュシアン様……!」


 ジスレーヌは頬を赤らめて飛びついてきた。いつもだったら頭を掴んで押しのけるが、今日は少々気分がいいのでそのままにしておいてやることにした。



 ……それから数年も経たないうちに、ジスレーヌの言葉は冗談でも俺を励ますための言葉でもなんでもなく、まぎれもない本心だったことに気づいて戦慄するのだが、この時の俺はただ彼女の言葉に感動するばかりだった。



***



「リュシアン様、今度ベランジェの屋敷に来てくださいませんか?」


「俺は忙しい。……まぁ、どうしてもと言うのなら行ってやってもいいが」


「どうしても来て欲しいです! この前、新しくお部屋を作ったんです。ほら、リュシアン様、前に『俺が平民になったら……』なんて素敵なことを言っていたでしょう? だからリュシアン様が王子でなくなったら住んでもらう予定のお部屋を用意してみたんです!」


「は? 何物騒なもの作ってるんだよ。絶対行きたくないんだが」


 俺がドン引きして断ると、ジスレーヌは涙目で「でも一生懸命作ったんです」「リュシアン様好みの部屋になるよう頑張ったんです」と縋ってくる。


 ジスレーヌに涙目で頼まれると俺はいつも断り切れず、結局頼みを聞いてしまう。


 そのせいで毒入りクッキーを食べさせられたり、見知らぬ土地の屋敷に監禁されかけたりしたこともあるのに、自分の馬鹿さ加減に呆れているが、どうにもならない。



「しょうがないな。ただ見るだけだぞ。それと護衛代わりにトマスも連れて行くからな」


「え……っ」


「え、じゃねーよ。本当に監禁するつもりだったんじゃないだろうな」


 そう言うと、ジスレーヌは後ろめたそうに目を逸らす。


 本当に呆れた女だ。けれどまぁ、こいつといると飽きないから、許してやってもいいかとジスレーヌの白い頬をつねりながらそんなことを思った。



終わり


番外編②閲覧ありがとうございました!

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