2-②
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「リュシアン様! こんなところにいらっしゃったんですね! 王宮の端から端まで探してしまいましたわ!」
結局令嬢たちに何も言わないまま部屋を離れて会場に戻ろうと歩いていると、タイミング悪くジスレーヌと出くわした。
この女は俺の姿が見えなくなると、いつも執拗に探し回って俺を見つける。
ジスレーヌは満面の笑みでこちらに近づいて俺の手を取ろうとした。
「リュシアンさ……」
「触るな」
気が付くと無意識のうちにジスレーヌの手を振り払っていた。ジスレーヌは目をぱちくりしてこちらを見る。しまったと思うのに、取り繕う言葉が出てこない。
「リュシアン様?」
「……どうせお前もセルジュ殿のほうがいいんだろ」
「え?」
思わず拗ねた声で口に出したら、ジスレーヌは目を見開いた。
「だから! お前だって本心では、俺みたいに短気で平凡な能力しかないやつより、セルジュ殿みたいなやつのほうがいいと思ってるんだろ!? 両親に次期王太子に取り入ってくるよう命じられたのか? ご苦労なことだな!」
口から思わず本音が漏れる。かっこわるい。こんなことを言いたいわけじゃないのに、止まらない。
ジスレーヌはぽかんとした顔で俺を見ていた。
その表情を見ていたたまれなくなる。たかだか令嬢たちの軽口に影響されて一つ年下の少女に向かってこんなことを言って、俺は何をやっているのか。
しばらく言葉を失っている様子だったジスレーヌがようやく口を開いた。
「リュシアン様よりセルジュ様がいいなんて、そんなことあるわけないじゃないですか」
ジスレーヌは柔らかく笑ってなだめるように言う。そう言われても、ちっとも心が晴れない。むしろこんな風に言わせたことが情けなくなる。
侯爵家出身のジスレーヌは、内心ではどう思っていようと、両親が決めれば王子の婚約者として生きるしかないのに。
「どうだかな。お前が俺に付きまとうのも、無事に王太子妃になって家の力を上げたいからなんじゃないのか?」
「リュシアン様、私はそんな……」
「じゃあ、お前俺が平民になっても今まで通りついて回るのか?」
言った瞬間、馬鹿なことを言ったとすぐ後悔した。こんなことを聞かれたって、ジスレーヌは困るだけだ。
大体、本心ではどう思っていようと、家のためではないと言うしかないのに。
「……別に答えなくていい」
「リュシアン様が平民ですか……」
答えなくていいと言ったのに、ジスレーヌは口元に手を当てて考え込む仕草をした。俺はなんだかいたたまれなくなる。
「だから、答えなくていいと」
「それってすごく素敵ですね! 平民のリュシアン様! 私、そんなことになったらリュシアン様をうちのお屋敷に閉じ込めて、一生外に出しませんわ!」
「は?」
ジスレーヌは目を輝かせ、うっとりした口調で言う。予想外の返答に動揺した。