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本編が始まる前の話です!


「うぅ……リュシアン様ぁ……」


 一面真っ白な幽閉室の中で、私はめそめそ泣いていた。


 今日は王宮の幽閉室に入れられて三日目。リュシアン様の姿を三日も見られなくて、心が折れそうだった。



 なぜ幽閉室に入れられたのかというと、先日、リュシアン様がパーティーで伯爵家の令嬢にべたべたされているのを見た時、嫉妬で我を忘れて、こっそりリュシアン様のグラスに睡眠薬を仕込んでしまったからだ。


 リュシアン様は狙い通り、強烈な眠気に耐えきれなくなったようで会場を退出した。


 何しろ私が色んな薬師の元を回って見つけた、安全かつ非常に効果の高い睡眠薬なのだ。意思の力で耐えきれるはずがない。


 図々しくリュシアン様について来ようとする伯爵令嬢をそれとなく追い払い、会場を出て行くリュシアン様を支えるように歩く。



「リュシアン様、大丈夫ですか? 私がちゃんと看病しますから安心してくださいね!」


「ジスレーヌ、お前……」


 リュシアン様は何か言いたげに私を見たけれど、眠気には耐えられなかったようで私に支えられるまま歩いた。



 王宮内の小さな休憩室に入ると、リュシアン様はソファに倒れこんでそのまま眠りこけてしまった。


 私は幸せな気持ちでリュシアン様の綺麗な寝顔を見つめる。


 ああ、本当に何て美しいのかしら。瞼も口も鼻も、何から何まで神様が作った芸術品みたい。


 私はリュシアン様のお顔が大好きだ。


 もちろん口調は乱暴なのに根はとっても優しいところとか、照れ屋なところとか、努力家なところとか、中身も全部大好きだけど。


「はぁ……ずっと見ていても飽きないわ……」


 私は随分と長い間、リュシアン様の綺麗な顔を眺めていた。



「おい、起きろ。ジスレーヌ」


 耳元で苛立たしげな低い声が聞こえ、顔を上げると目の前にリュシアン様がいた。


「リュシアン様! あれ、私まで眠ってしまったんですね」


 幸せな気持ちでリュシアン様を眺めているうちにうとうとして、私まで眠ってしまったらしい。


「リュシアン様、体調は大丈夫ですか? もうパーティーは終わってしまいましたよね。今日はこのまま休まれた方がいいですよね!」


「この馬鹿!!」


 笑顔で言ったら、リュシアン様に思いきり髪を引っ張られてしまった。


「ひぃっ、痛いです、リュシアン様……!」


「お前、また薬を盛っただろ! 今回は睡眠薬でも使ったのか? ふざけるなよ!!」


 リュシアン様は苛立たしげに強く私の髪を引っ張る。頭を押さえて謝ったけれど、なかなか手を離してくれない。

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