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20-5

 そんなある日のことです。私の住む家に、公爵家から使者がやって来ました。使者は私に小さな紙包みを手渡して言います。


『この薬を適当な言い訳をしてベアトリスに飲ませろ』と。


 紙包みを開けると、中には禍々しい黒色の粉が入っています。その薬が何なのかはわかりませんでしたが、よくないものであることははっきりわかりました。


 ベアトリス様がくれた薬とは、正反対の意味を持つものであろうと。


 私は使者の言葉にうなずきました。そして使者が帰ると、部屋に戻って紙包みをごみ箱に投げ捨てました。


 こんなものをベアトリス様に飲ませるわけがありません。ベアトリス様はただでさえ、最近は体の不調に悩んでいるのです。


 そう考えたところで、一つの考えが浮かんで血の気が引きました。


 私は公爵家から送られてくる食材を、そのまま屋敷に届けていました。中の確認などしていません。あのような薬を飲ませろと命じてくるくらいならば、食材に何か仕込まれていてもおかしくないのではないでしょうか。


 私はベアトリス様に渡す予定の食材を持って村に住む医者のところまで行き、調べてもらうことにしました。すると、嫌な予感はあたり、中に少量の毒が含まれていることがわかったのです。



 私は大急ぎで屋敷まで行って、残っている食材を全て渡すように言いました。そうして代わりに自分で食材を買って来てベアトリス様に渡しました。


 それからベアトリス様はいくらか体が軽くなったと言っていましたが、取り調べで受けたダメージと長期間の幽閉とが重なり、毒を摂取しなくなってもなかなか体が回復しないようでした。



 私にはどうすることもできません。屋敷の中へ入ることは禁じられているため、看病することすらできないのです。


 ベアトリス様は、自分がもう長くないことはわかっているようでした。


 どんなに体調が悪そうでも、ベアトリス様は必ず屋敷を訪れると玄関まで出てきます。そして真剣な顔で息子のことを聞くのです。最後の最後まで、ベアトリス様は子供の心配ばかりしていました。


 ある日、屋敷を訪れると、ベアトリス様が出てきませんでした。


 何度ベルを鳴らしても、一向に扉は開きません。中に入ることができない私は、公爵邸に連絡しました。そしてしばらくしてやって来た使者と屋敷の中へ入り、ベッドの上で力尽きているベアトリス様を見つけました。



 ……以上が、二十年前にベアトリス様を見てきた際の顛末です。


 私には、彼女が子供を殺そうとしたなんて、とうてい思えません。


 むしろ彼女を殺めようとしたのは公爵のほうです。いいえ、取り調べや食材に仕込まれた毒が原因で弱ったのだから、実際殺されたのでしょう。


 彼女への罰は公には幽閉ということになっており、それは公爵といえど独断で変えていいものではないはずです。



 私は、ベアトリス様の無罪に気づきながら、何もしなかった卑怯者です。しかし、どうしても今からでも真実を知って欲しく、ここに来ました。


 重要な会議を邪魔するような真似をして申し訳ございません。しかし、今の話に少しでも何か感じてくださるのなら、それを踏まえてルナール公爵のことを判断して欲しいのです」


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