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20-3

「リュシアン様、なぜ止めるのですか。あの日記の内容さえ知ってもらえば、公爵が嘘を吐いているのだとわかってもらえます!」


「うるさいな、馬鹿。今は会議中だ。いきなり飛び込んできてどういうつもりだ」


 会議室からはまたも不審そうな声が上がる。


 公爵が嘘を吐いていると主張するなどどういうつもりだ、それよりも幽閉中のジスレーヌ嬢がどうしてここにいるのか説明するべきだ、などという声が飛び交い、とても話を聞いてもらえる雰囲気ではない。


 そんな会場の様子をルナール公爵は満足げに眺め、諭すように言った。


「ジスレーヌ様も殿下の件で混乱しているのでしょう。こんな日記まで偽造して、よほど殿下をかばいたかったのですね。一旦下がってもらって会議を続けましょう」


 公爵の言葉に賛同の声が上がる。使用人数人が私を外に出そうとそばに寄ってきた。


 トマスさんが慌てた様子で彼らを遮るように私のほうに近づき、一旦戻りましょうと告げる。



「待ってください! 日記さえ読んでいただければ……」


「お言葉ですが、ジスレーヌ様」


 反論しようとする私を、ルナール公爵は笑みを引っ込めて冷たい目で見据える。


「王太子に毒を盛って幽閉されるような者の意見など誰も聞いていないのですよ。お下がりください」


 ルナール公爵の言葉を皮切りに、会議室からは次々に同意の声が上がる。


 「公爵の言う通りだ」「そもそもジスレーヌ嬢は王家に入るのにふさわしい人間なのか」「そのような者の言葉を聞く必要はない」。そんな言葉が四方八方から飛んでくる。


 私はどうしたらいいかわからず、スカートをぎゅっと握りしめながら辺りを見回した。


「……ああもう、できれば呼びたくなかったのに……」


 後ろでリュシアン様がそう呟くのが聞こえた。リュシアン様は従者の一人に合図をする。すると、その人は廊下に出て、四十代くらいに見える男性を連れてきた。



 一体彼は誰だろう。突然現れた男性に会議室から戸惑いの声が上がる。


 男性がこちらまで来ると、リュシアン様は言った。


「この者は、二十年前裁きの家でベアトリス・ヴィオネの監視係を担当していたドミニク・グノーだ。当時の証人として呼ばせてもらった」


 リュシアン様の言葉に、会場が騒然となった。


 ドミニクさんというらしいその男性は深々と頭を下げる。


「本日は、二十年前の件で明らかになっていないことをお伝えするために伺いました」


 ルナール公爵はしばらく呆気に取られたようにドミニクさんを見ていたが、我に返ったように彼のほうへ近づき、威圧感のある声で言った。


「どういうつもりだ? ここはお前のような下賤な者が足を踏み入れて良い場所ではない。さっさと戻れ」


「公爵様、申し訳ございません。私はもう本当のことを黙っているのは我慢できないのです」


「貴様……!」


 ルナール公爵が血走った目でドミニクさんに掴みかかろうとする。リュシアン様はそうなることを予想していたのか、特に動揺する素振りも見せず間に入った。


「叔父上。叔父上が間違ったことをしていないのなら、ここでこのドミニクに全て話してもらえばいいではないですか。それとも、語られてはまずいことでも?」


 リュシアン様の言葉に、ルナール公爵はいまいましそうな顔をする。遮られてもまだドミニクさんを止めようとしていたが、後ろからリュシアン様の部下に丁重に押さえつけられていた。


 その様子を横目に見ながら、ドミニクさんはゆっくり口を開く。


「私は二十年前、ルナール公爵の所有する屋敷の管理人をしていました。ある時公爵は、そこに罪人を幽閉することになったので、何かしでかさないよう監視をして欲しいと依頼してきたのです。その罪人というのが、ベアトリス・ヴィオネ様でした」


 ドミニクさんの口調は淡々としていた。


 ざわめいていた会場は、静まり返っている。みんな興味深そうにドミニクさんの言葉に耳を澄ましていた。ルナール公爵だけが落ち着かない様子で、ドミニクさんを睨みつけている。


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