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屋敷の中へ戻り、心細い思いで奥へ進む。
この屋敷に明かりはあるのだろうか。昼間だけれど屋敷全体が薄暗い。その上、窓の外には先ほどの鬱蒼とした庭が見えるので、余計に心細さを増幅させる。
玄関ホールを抜け廊下を真っ直ぐ進むと、扉があった。おそるおそる開けると、そこは応接間のようだった。
部屋の左端にはローテーブルと、大小三つのソファが置いてある。
とても立派な部屋だったが、全体的に古ぼけて色はくすみ、何とも言えない侘しさを漂わせている。
ローテーブルの上には封筒と箱が置いてあった。これが部下の方の言っていた手紙だろうかと手に取ると、私の名前が書かれている。
開けて読んでみると、屋敷には一週間おきに監視係が来ること、部屋は好きな部屋を使っていいこと、食料は厨房にあるものを自分で調理して食べること、などが書かれていた。
明かりのつけ方も記載されている。玄関ホールにあるプレートに封筒の中に入っている魔石をはめ込むと明かりがつくらしい。封筒の奥からはそれに使うと思われる黄色の魔石が出てきた。
私は早速玄関ホールに戻り、手紙に書いてある通りプレートに魔石をはめ込んでみた。途端に明かりがともり、屋敷の中が明るくなる。少しだけほっとして、先ほどの部屋に戻った。
手紙のそばに置いてあった箱のほうも手に取ってみる。開けると、そこには銀色の置き鏡が入っていた。一緒にメモ書きも入っている。
『こちらを必ず自室として使う部屋に置いてください』
メモ書きにはこう書かれていた。
理由はわからないが、それが王家からの指示なら従うまでだ。
テーブルにあったものを確認し終えると、私はこわごわその部屋を出て、屋敷の中を探ってみることにした。これから一ヶ月ここで暮らすのだから、中がどうなっているのか確認しておかなければならない。
しかし、明かりがついて多少不気味さは薄らいだとはいえ、呪いの家だなんて言われている場所を一人で回るのは気が引けた。
それでも勇気を奮い起こし、扉を開けて部屋の外に出る。
屋敷は二階建てらしい。とりあえず、一階を回ってみることにした。なんとなく不安なので、トランクは持ったままだ。
応接間の入り口から見て右側には、ダイニングルームと厨房があった。
ダイニングルームは飾り気がなく、八人がけのテーブルに木製の椅子が並んでいるだけだった。テーブルクロスの上には埃がたくさん溜まっている。
厨房のほうに行くと、大きなかまどがまず目についた。木製のテーブルの上には、鍋や小型ナイフなどの調理器具と紙袋が三つ置いてある。
紙袋を開けてみると食材が入っていた。野菜や果物などすぐ傷んでしまいそうなものもあれば、黒パンのような日持ちしそうな食材も入っている。そこにもメモ書きがあって、食材は監視係が来るときに追加で持ってくると書いてあった。
とりあえず食料はあるようなので安心する。私の調理経験は、リュシアン様にプレゼントしたくて、メイドにつきっきりで手伝ってもらいながらケーキを焼いたことくらいだ。
だからあの立派なかまどやナイフを使いこなせるとは思えないけれど、いざとなれば食材そのまま食べればいいのだし、問題ないだろう。
玄関から見て一階の右側は見終えたので、一旦応接間に戻って反対側の扉を開ける。屋敷の左側には、書庫と洗濯室、それに倉庫があった。
書庫にはたくさんの本が入っている。数冊手に取ってみるが、難しくてあまり興味の湧くものはなかった。随分長く掃除されていないようで、棚から本を抜き取った途端埃が舞って咳込んでしまった。
窓を開けて換気しようかと思ったが、それより屋敷を早く探ってしまおうと、本を棚に戻してすぐに書庫を出た。