13-1
翌日は、雲一つない晴天だった。身支度をして階段を降りると、廊下にベアトリス様が立っている。
昨日、ベアトリス様は監視係さんが帰るのと同時に消えてしまったので、フェリシアンさんのことを話す間もなかった。私はベアトリス様のほうに近づく。
「おはようございます、ベアトリス様。監視係さんがベアトリス様のお子さんだったんですね。再会できてよかったですね」
話しかけてみるが、ベアトリス様は上の空のようで、いつものようにうなずいてくれない。
考え込んでいる様子だったベアトリス様が、ふと顔を上げてこちらを見る。それから真顔で手招きをした。
「来いってことですか?」
ベアトリス様の後に続いて廊下を歩く。ついたのは厨房だった。不思議に思いながら見ていると、ベアトリス様は戸棚の下段の扉を指さす。
「これを開けろということでしょうか?」
うなずかれたので、私は扉を開けて中を見た。調理器具が入っているだけの、何の変哲もない戸棚だ。
私が首を傾げると、ベアトリス様は戸棚の奥を指さす。
私は中の調理器具を出して床に置いていった。ベアトリス様は調理器具には目を向けず、棚だけを指差しつづける。
中の物を全て出し終えて、奥を覗き込むと、棚の右下にうっすらと四角く切れ込みが入っているのを見つけた。
「ベアトリス様、これは……」
ベアトリス様の顔を見ると、彼女はそれで合っていると言うようにゆっくりうなずいた。
どきどきしながら切れ込みに爪をかけると、木のキシキシいう音がして、板が外れていく。四角い板を外すと奥に小さなスペースがあり、そこに金色の小さな鍵が入っていた。
手の平に置いてよく眺めてみる。
鍵の上部分には赤い宝石が埋め込まれ、複雑な文様が入っていた。どこかで見たことのある文様と色合いだと思った。どこかで……。
「……あの日記?」
屋敷に来た初日、書庫の本棚からひとりでに落ちた日記。あの日記には、これと同じような文様が描かれていた。
ベアトリス様のほうを見ると、こくこく何度もうなずいている。
私は急いで書庫に行き、例の日記を取り出した。
鍵穴に鍵を入れると、あっさりと開く。
「ベアトリス様、中を読んでもいいですか?」
一応尋ねると、ベアトリス様はうなずいて、それからふっと消えてしまった。
私は書庫の中で、彼女の日記を読むことにした。
そこには彼女らしい、淡々とした心情が綴られていた。