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2-1

 こうしてろくに調査されることもないまま、私は王子に毒を盛った犯人とされ、『裁きの家』に送られることになった。


 トランク一つ分の荷物を抱えながら、心細い思いで馬車に乗り込む。


 『裁きの家』とは、現国王陛下の弟であるルナール公爵が領地のはずれに所有するお屋敷だ。


 そこまで大きくはない、昔ながらの造りの灰色のお屋敷。外観だけであればただの蔦の張った古いお屋敷だが、この屋敷には悲惨な過去がある。



 二十年前、この屋敷にはルナール公爵家のご子息を殺害しようとした「魔女」が幽閉されていたのだ。


 彼女は本名をベアトリス・ヴィオネといった。


 元は子爵家の夫人で、夫を早くに亡くしたためまだ小さい子供を養うために公爵家に侍女として働きにきたのだという。


 仕事熱心で評判のよかったベアトリスだが、それは表の顔に過ぎなかった。ある日、三歳になる公爵家のご長男の世話を任されたベアトリスは、湖にその子を突き落とす。


 幸い子供は通りかかった別の使用人に助け出されて無事だったが、公爵家の跡取りに危害を加えた罪は重く、ベアトリスは厳しい尋問の末、公爵家所有の屋敷に幽閉されることになった。


 すぐさま牢獄に入れてもいいほどの罪だったが、幽閉で済ませたのは公爵の温情なのだと言われている。


 しかし、尋問で弱っていたベアトリスは、屋敷に一人閉じ込められたことで、どんどん衰弱していく。最後には公爵家への恨みの言葉を言い連ね、幽閉から一年後に亡くなったそうだ。



 その後、公爵家では不幸な出来事が続いた。公爵が病に倒れたり、長女の出産で体調を崩した夫人が亡くなったり。


 また、当時屋敷に関わった人にも次々と不幸が訪れていく。


 人々は、それをベアトリスの呪いだと言い、いつしか彼女は魔女と呼ばれるようになった。



 その後、彼女が最後に過ごした屋敷は、法律上裁くのが難しい貴族を幽閉するのに使われるようになった。


 貴族たちは幽閉されるだけで、それ以上の罰を与えられることはない。しかし、ここに入った貴族は不思議と衰弱し、幽閉前とは変わり果てた姿で帰って来るのだ。


 そんなことが続くうちに、ここは人々の隠された罪を暴く、「裁きの家」なのだと言われるようになった。


 おぞましい噂のたくさんある裁きの家に入ったとなれば人々は同情し、正当に罰せられたのだと認めてくれる。


 正式には処罰しにくい罪を裁くのにちょうどいい場所だった。侯爵令嬢でありながら王子のカップに毒を入れた女を裁くのにはぴったりの場所だ。


 ……ちなみに、魔女に跡取りを殺されかけたルナール公爵家というのは、先日のお茶会に参加していたオレリア様のご実家のことだ。つまり、魔女に殺されかけたのはオレリア様のお兄様にあたる方。


 オレリア様は過去に自分の家が関わった屋敷に入れられることになった私を、どんな風に見ているのだろう……。




 裁きの家について考えているうちに、お屋敷が見えてきた。


 全体を蔦が覆って、いかにも周りを拒絶するような雰囲気を纏っている。


 先程から降り出した雨と相まって余計に薄暗く寂しく感じた。私は今日から一ヶ月間、ここで一人で過ごさなければならない。


 馬車から降ろされ、リュシアン様の部下の方に案内されて屋敷の門まで向かった。屋敷の庭は草が伸び放題で、心細さを強めさせた。


 私が少し歩みを止めると、部下の方は何も言わなかったが、警戒するように鋭い目で私を見つめた。私は慌てて歩き出す。



 門の所まで来ると、部下の方は鍵を使って扉を開け、私に中へ入るよう促した。言われた通り中に入ると、扉に手をかけたまま部下の方は言う。


「ジスレーヌ様には一ヶ月間ここで過ごしていただきます。屋敷での生活については、中にある手紙を読んでください。一週間に一度監視係が来ますが、その時以外は誰も訪問してくることはないのでそのつもりで」


「わかりました」


「庭には好きに出てもらって構いません。しかし門より先には行かれないようになっています。それでは一ヶ月後に迎えに来ますので、どうぞ静かにお過ごしを」


 リュシアン様の部下は淡々と説明すると、躊躇なく扉を閉めた。


 たぶん、あの人は主であるリュシアン様に毒を盛った私を軽蔑しているのだろうなと思った。


 試しに庭に出て一歩足を踏み出してみる。


 説明された通り、見えないバリアが張られているように、一切先へは進めなかった。

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