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私がにやけていると、リュシアン様はこほんと咳払いしてから口を開く。
『ジスレーヌ。この前、ベアトリス・ヴィオネについて話していたよな』
「はい。あっ、今日の薬草茶もベアトリス様に見ていてもらいながら作ったんですよ。そのおかげで上手にできたんです」
『……まぁ、そういうことにしておいてやるが。お前がベアトリスの外見を気にしているようだから調べてきたんだ。ベアトリス・ヴィオネは、長い黒髪にいつも黒や紺のドレスを着た陰気な女だったらしいぞ』
「まぁ……! リュシアン様、私のために……!?」
本当はロイクさんに聞いてもうベアトリス様の外見的特徴は知っていたのだけれど、リュシアン様が私の尋ねたことをわざわざ調べてくれたことに感動してしまった。
『王族が関わっている事件だから俺も知っておくべきだと思っただけだ。魔女を幽閉したルナール公爵は俺の叔父だからな』
「それでも嬉しいです。私、感動してしまいました。でも、ベアトリス様は確かに黒い髪に紺色のドレスを着ていますけれど、ちっとも陰気ではありませんよ」
『わかったわかった。幽霊はともかく、編み物のほうはお前の予想であっていたようなんだ。ベアトリスにはフェリシアンという子供がいて、定期的に手作りの服や雑貨が送られてきていたらしい。手編みのセーターや帽子なんかが送られてきたこともあったと』
「やっぱり! ベアトリス様はお子さんを大切になさっていたんですね」
そういえば本人にちゃんと確認していなかったが、やはりあの編み物はベアトリス様が編んだようだ。子供の名前もフェリシアンで合っていたらしい。
『幽閉された罪人が外の人物に物を送ることは禁止されていたはずなんだがな……。どうも、当時の監視係がベアトリスに絆されて頼みを聞いていたようだ』
「当時の監視係さんもお優しい方だったのですね。今、お屋敷に来てくれる監視係さんもいい人なんですよ。親しみやすくて爽やかで」
『は?』
ロイクさんのことを思い浮かべながら言うと、リュシアン様は眉間に皺を寄せた。