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7-4

「い、いえ、その。信じられないのは十分承知の上なのですが、確かに見たんです。黒く長い髪に、紺色のドレスを着た女性を。喋ったことはないので、本当に魔女なのかはわかりませんが。でも、幽霊と言っても悪い人ではないんですよ。むしろ親切な方で……」


「長い髪に紺色のドレスの女性、本当に見たんですか?」


「はい。確かに見ました!」


 私が力強くうなずくと、ロイクさんは難しい顔で言った。


「魔女は長い黒髪をしていたと言います。それに、あまり派手な服を好まず、紺色の飾り気のないドレスを好んで着ていたとも聞きました。あなたが見た幽霊と一致していますね」


「じゃあ、やっぱりあの幽霊は魔女……!」


「どこで見たんですか? いつ頃? 見たのは一度だけですか?」


 ロイクさんは真剣な様子で聞いてくる。私は一つずつ説明した。最初は書庫の前の廊下で見かけたこと、最近はよく姿を現すことなど、できるだけ詳細に話すと、ロイクさんは真面目な顔でうなずいた。


「……わかりました。報告をありがとうございます。王家には伝えておきます」


「はい、お願いします。それにしても、ロイクさんは信じてくれるんですね。幽霊なんて突飛な話」


 リュシアン様はいまだに全然信じてくれないのにと思いながら、何気なくそう言うと、ロイクさんは複雑そうな顔をした。


「だって、化けて出たくもなるでしょう。過酷な取り調べの後に死ぬまで幽閉されて。俺だったらずっとこの世に留まって憎み続けますよ」


 ロイクさんはつぶやくようにそう言ってから、はっとしたようにこちらに笑顔を向けた。


「すみません。こんなこと、お屋敷から出られないジスレーヌ様に言ったら怖くなりますよね」


「いいえ、気にしないでください。魔女さんから憎しみなんて感じませんし」


 私がそう言うと、ロイクさんは驚いた顔をした。そして笑顔にも困り顔にも見える複雑な顔をする。


 私はその反応を不思議に思いながらも、確認しておきたかったことを尋ねた。



「そういえばロイクさん。前に事務所に連絡をしようとしたんですが、通信機がつながらなかったんです。壊れているんでしょうか」


 私は玄関横のプレートを見ながら言う。ロイクさんが最初に来た次の日、連絡を取ろうと思ったがつながらなかった。その後も時間を変えて何度か試してみたが、一度も事務所にはつながったことはない。


 ロイクさんはそちらをちらりと見てから首を傾げた。


「連絡をくれていたんですか? おかしいな。事務所のほうではベルが鳴りませんでしたが」


「確かに何度も連絡しました! やはり壊れているんでしょうか」


「プレートを直接確認したいところなんですが、俺はここまでしか入れないんですよね……。前も言った通りここのお屋敷は二人分の鍵がないと開かなくて。事務所の責任者なら一人で開けられる鍵を持ってるんですが」


 ロイクさんは困り顔で言う。それからふと思いついたようにこちらを見た。


「前にお渡しした魔石、持っていますか?」


「はい。持っています」


「ちょっと貸してもらっていいですか」


 ロイクさんにそう言われ、私は懐から魔石を取り出して渡す。ロイクさんはそれをじっと眺めると、「あー」と声を上げた。


「すみません、ジスレーヌ様! この石、魔法で鍵がかかっているんです。使うには解除魔法がいるのに、かけるのをすっかり忘れていました」


「まぁ」


「すぐに解除しますね」


 ロイクさんはそう言うと、魔石に向かって手をかざす。すると、石の周りが光った。


「これで使えると思います。本当にすみませんでした」


「いえ、大丈夫です。緊急の用事があったわけではないですから」


 初めて使ったときこそ使えなくてがっかりしたものの、夜にリュシアン様と通信できるようになってからはそれほど通信機を使いたいと思わなくなっていた。


 しかし、ロイクさんは頭を下げ、とても申し訳なさそうにしている。


「今度こそちゃんと出るので、困ったことがあれば連絡してください」


「はい、お願いします」


「それでは、俺はそろそろ失礼します」



 ロイクさんは笑顔で手を振って、去って行く。私はロイクさんの後ろ姿を見送った後、持ってきてくれた荷物を屋敷の中に運び始めることにした。


 ふと、お屋敷の空気がひんやりとしていることに気づく。


 魔女がまた現れたのかと思い後ろを振り返ると、彼女はじっとドアのほうを見つめていた。


 私が声をかける前に、魔女はふっと姿を消してしまった。


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