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1-1

 今日もリュシアン様の周りにはたくさんの女の子たちがいる。


 耳元で何か楽しげに囁いたり、腕を絡めて一緒にお庭に行きましょうと引っ張ったり。


 私から見れば婚約者のいる方にそんな振る舞いをするなんて無遠慮だと思うのだけれど、リュシアン様がそれを咎めることはない。


 むしろ、感じのいい笑顔を浮かべ、彼女たちの態度を歓迎しているように見えた。


(リュシアン様は私のものなのに……)


 そう思いつつも不満をそのまま口にすることなんてできず、私はただ恨めしげにリュシアン様と彼を取り囲む令嬢たちを眺めるばかり。



「ジスレーヌ、なんだその顔は。不満があるならはっきり言ったらどうだ」


 こちらに目を留めたリュシアン様が、眉をひそめて言った。私は慌てて笑顔を作り、「不満なんてございません」と口にする。


 リュシアン様はそれでも不快そうな顔のままで、すぐにほかのご令嬢たちとのおしゃべりに戻ってしまった。


(またやってしまったわ。気をつけないと)


 私はいつもリュシアン様の機嫌を損ねてばかりだ。


 侯爵家の娘と言うので運よく王太子であるリュシアン様の婚約者候補になり、両親の懸命な後押しがあって婚約者になることができたけれど、ちっとも良好な関係になれない。


 リュシアン様は私がなんとか近づこうとするたびに、迷惑そうに顔を歪める。


 それにしても綺麗なお顔だなぁ。サラサラした金色の髪に、澄んだ湖を思わせる青い瞳。彫刻のように形のいい鼻も、薄い唇も、何もかも本当に素敵。


 うっとりしながら眺めていると、リュシアン様がカップを手に取り、紅茶を口に含んだ。


 ああ、紅茶を持つその手まで、芸術品のよう。カップを持ったまま優しげな笑みで横の令嬢に話しかける姿は、絵画の中の光景そのものだった。



 すると突然、リュシアン様がカップを落として口を押さえた。


 音を立ててカップはテーブルから床に落ち、紅茶が絨毯を黒く染めていく。リュシアン様は苦しそうに呻き声を上げた。


 令嬢たちは真っ青になり、甲高い声で悲鳴を上げた。


「大丈夫ですか、リュシアン様!」


「早く人を呼んできて!」


 リュシアン様を取り囲み、皆口々に叫ぶ。


「待て、騒ぐな。俺は大丈……」


 リュシアン様は立ち上がって外に出ようとする令嬢を止めようとするが、最後まで言い切らないままぐったり崩れ落ちてしまう。


 私はその光景を、ただ見つめていることしかできなかった。


 リュシアン様が苦しんでいる。何かしなくてはと思うのに、苦しげな彼の顔を見たら凍りついたように足が動かなくなった。


 そうこうしているうちに、王宮の使用人たちが駆け込んできてリュシアン様の介抱を始めた。


 少しするとお医者様もやって来る。部屋にいた令嬢たちは私を含め皆外に出され、お茶会は混乱の中お開きとなった。


 私は後ろ髪を引かれる思いで王宮を後にした。



 翌日になり、昨日リュシアン様が飲んだ紅茶には毒が混入されていたことがわかった。


 まず疑われたのは紅茶を持ってきたメイド。


 しかし、彼女は同じティーポットから皆にお茶を注いでおり、ほかの者は紅茶を飲んでも無事だった。そのため、疑われはしたものの犯人と断定されるには至らなかった。



 次に目を向けられたのは、あの日お茶会に集まっていたご令嬢たち。参加者は順番に王宮に呼ばれて話を聞かれることになった。


 私も当然王宮に呼ばれたが、それは取り調べなんて雰囲気ではなく、笑みを浮かべた役人によって和やかな雑談のように進められた。


 おそらく、貴族令嬢に疑いの目を向けることに遠慮があったのだろう。


 リュシアン様が心配ではあったが、私はその雑談のような取り調べを割と落ち着いた気持ちで受けることができた。


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