聖女から魔女に⑧
「お願いします」
私の言葉を背に走り出したアラキナの背中を、見えなくなるまで見つめる。
アラキナなら、ウォーレスなら、信じてくれる。
それだけが、一つの希望だった。
たとえ、王城の中に魔王が根を張っていようとも。
私は椅子に座ると、息を吐いた。
私が、王室からの信頼を得ていたら、こんな面倒なことをしなくても、話は早かったのに。
でも、私は王室の信頼を失ってしまっているから。
魔王を倒したあと、私はその状況に立ち尽くした。
ウォーレスは何とか力を振り絞って、最後の一太刀で魔王の心臓に傷を与えた。
魔王が消え去った瞬間崩れ落ちたウォーレスは、息も絶え絶えだった。
そして、最後まで私を守るために身を呈していたアラキナは、身体中傷だらけで、そこから出る血のせいで、顔は真っ白になっていた。
二人の死が、目の前に迫っていた。
だけど、聖なる力を持つだけの私には、二人の傷を癒すような力などなかった。
持っていた薬草も、焼け石に水だった。
そこに現れたのは、空の色が黒から青に変わったことで、魔王の殲滅を察知した王国軍だった。
王国軍の騎士たちの視線は、一様に私に冷たかった。
私が仲間を見殺しにしようとしたのだと思われていたのを知ったのは、二人が意識を戻して、私の無実を訴えてくれたあとだった。