聖女から魔女に⑦
「ベル、大丈夫?」
戻ってきた私の家で、アラキナが心配そうに私を覗き込む。
私は、大丈夫だとは言えなくて、アラキナの袖をつかむ。
「アラキナ、魔王がまだ生きてる」
私の言葉に、アラキナがハッとする。
私の聖なる力は、魔王の邪の力と親和性が低い。だからこそ、私は魔王の存在に気付けるし、だからこそ、魔王を完全に消滅させるためには、傷をつけた心臓に直接聖なる力を注ぐ必要があって、魔王に傷をつけられるウォーレスやアラキナのような剣の腕が必要なのだ。
それは、死闘を共にしてきたアラキナもよく知っている。
「どこにいたの!?」
「ウォーレスの近く……ううん、第一王女様の近く、って言った方が正しいのかな」
「嘘?!」
青ざめるアラキナに、私は首を横に振る。
「だって、あの馬車から、魔王の気配がしたんだもの」
「早く、伝えなきゃ! ベルも来て!」
アラキナの言葉に、私は首を振る。
「アラキナから、ウォーレスに伝えて。……私の言葉は、王様にはきっと届かないから」
「そんなこと……」
言いかけたアラキナが口を閉じて目を伏せる。
魔王討伐から帰ってきて、ウォーレスとアラキナは、王様に歓迎され、今の地位にいる。
私だけ、形ばかりの労いの言葉と、僅かな褒美を貰っただけで、生活は変わらない。むしろ、有名にはなったかもしれない。
勇者一行のお荷物として。