6/21
聖女から魔女に⑥
私はウォーレスを一目見ようと、通りに目を凝らした。
だけど、目を凝らした時に感じたものに、体が震えた。
まさか。
「ベル、どうしたの?」
私の異変に気付いたのか、アラキナが尋ねてくる。
私は信じたくなくて、呆然と王女一行の馬車を見つめる。
「おお! エメリナ様が手を振って下さった!」
私の周りは、私の気持ちとは無関係に盛り上がる。
エメリナ様と呼ばれた王女のその横に、良く知っているウォーレスが手を振っていた。
だけど、私の視線はウォーレスの奥の人物に向かっていた。
「ま……おう……」
私のこぼした言葉は、歓声でかき消される。
「王国万歳! 勇者様万歳!」
世界がすっかり平和になったと信じている人々は、喜びを爆発させている。
「え? ベル、何か言った?」
アラキナが心配そうに私を覗き込んでくる。
「ベル、顔が真っ青よ」
私は首を激しく振る。
そんなはずはないのに。
あの時、きちんと倒したはずだったのに。
どうして、あの魔王が存在しているんだろう。
勇者の近くに。