聖女から魔女に⑩
「ベルとやら、そなたがアラキナにした話をするのです」
第一王女の声は、鋭い。
私に対する敵意を感じる。それだけじゃなくて、この広間に充満する穢れた気配に、気分が悪くなる。
ここは、間違いなく私を歓迎していない場所だ。
私は王様と第一王女の前で傅いたまま口を開く。
「恐れながら申し上げます。私たちが倒したはずの魔王は、どうやら倒しきれていなかったようです」
「あら。どうしてわかるのです?」
私の言葉は否定されず、理由を尋ねられたことに少しだけホッとする。
「私は、聖女です。ですから、魔王の穢れた気配に気づくことができます」
「して、どこから魔王の気配がするのだ?」
王様の言葉に、私は顔を挙げた。
そして、私は第一王女をウォーレスと挟むように立つ騎士を指さす。
「あそこに! 魔王が騎士に化けております!」
私の言葉に、一瞬広間が静まり返る。
そして、その静寂を破ったのは、第一王女の笑い声だった。
「ふふふふ。ギャレス、そなたの言う通りでしたね」
第一王女は、私が指さした騎士に微笑んでいる。
第一王女の反応が信じられなくて、私は目を見開いた。
「聖女は、自分が魔女であることを隠すために、魔王がいると言い出すだろうと。そしてきっと、王族の身近にいる人間を、魔王だと言い出すだろうと言っていましたものね」