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3-4

 懐中電灯を構える天川と、両手を広げオーラを放つ爺さん。2人の戦いが始まろうとしている中、俺はどうするか。悩んだ末に出した結論は。


「おーい天川。こんな森の中でビームなんて撃ったら、大火事になっちゃうかもしれないぞ。だからやめておけー」


 木に隠れて遠巻きに傍観しつつ、それとなく爺さんの味方をすることにした。天川に爺さんを倒されると、俺の体質を治す希望が失われてしまうのだ。天川が向けてくる目線が人間に向けていいそれではない気がするが、無理やり無視する。自分勝手と罵られようが、譲れないものがそこにある。


「確かに、森林保護は大切」


 ところが、天川から発せられたのは意外な言葉。懐中電灯を左手に持ち替え、黒い上着の内ポケットに右手を入れる。そこから取り出したのは黒い手袋だった。


「たまには、全力で運動しないと鈍るし」


 執刀前の医師のように手袋をはめ、馴染ませるように指を開閉させる。


「じゃあ、やろうか」


 そして、懐中電灯のスイッチを入れる。いつもなら、一直線にビームが放たれるところだが……


「お前……そんなことも出来るのか」


 ビームは、そこに留まっていた。懐中電灯の先から、まるで光の刀身が伸びているように。有名どころでビームなんちゃらとかなんちゃらセーバーとか言われるヤツだ。


 天川は試すように懐中電灯を振る。そして、爺さん目掛けて風のように突っ込んでいった!


 木の杖しか持っていない爺さんには、あの光剣を受ける手段はないように見える。しかし爺さんは臆することなく、突っ込んでくる天川に右手を突き出した。


「炎よ!」


 手のひらから、火炎放射器の用に真っ赤な炎が吹き出す。天川は寸前でブレーキをかけ、バックステップで距離を取り直した。

 こんな森の中で炎なんて……と思ったが、何故か地面の草が燃えるどころか煙の1つも立っていない。


「安心せい、この炎は衣服だけを燃やす。存分に全裸になるがいい!」


 何というセクハラ攻撃。


「…………」


 天川は表情を一切変えることなく、再び走り始めた。今度は真正面ではなく、右から回り込むように接近する。


「無駄じゃあ!」


 爺さんが炎を出して手を薙ぎ払うような動作。接近していた天川は、その炎の壁の中に姿を消した。


「ふわはは、やったぞ!」


 炎に包まれる黒い影。炎に蝕まれ灰になっていきながら地面に落ちたのは。


 天川の黒い上着、のみだった。


「何じゃと!?」


 神様が燃える上着に気を取られた瞬間、背後から白いブラウス姿の天川が切りかかっていた。炎に紛れて、いつの間にか回り込んだのだ。流石の爺さんも、これはどうしようもない──


「くわあああッ!」


 爺さんが必死の形相で、持っていた木の杖で防御姿勢をとる。木で光の刃を受け止められる訳がない──そんな常識は神様には関係ないようだ。


 爺さんの杖に天川の光剣があたった瞬間、刀身が砕けるように光が飛び散った。よく見ると、杖が赤く発光している。まるで、爺さんの力が杖に行き渡っているようだ。天川の能力を打ち消したのか……?


 不意打ちを完全に防がれた天川は、再び距離を取る。さっき、あいつは上着を炎に投げ込み、囮にしたのだろう。完璧に爺さんの目は欺いた。それでも、倒しきれなかったのが結果だ。


「おのれ、小賢しい娘よ……! こうなれば、仕方あるまい!」


しかし、流石の爺さんも今のはヒヤッとしたのだろう。ゆっくりと、その右手を空に掲げる。お得意のアレをやるつもりだ。いくら天川でもアレはマズい。


「おい、天川気をつけろ! 上から──」


「くらえぇぇい! てんばーつッ!」


 言い終わる前に、空が光り……




 稲妻が俺に向かって襲いかかって来た。


「おわー!」


 直前に悪寒がして、横っ跳びに回避していたので直撃は避けられたが、受け身も取れきれずに地面に倒れる。凄まじい音のせいで耳がキンキン鳴っている。首を起こすと、さっきまで立っていた場所にクレーターができているのをが見え、ゾッとする。

遠くから、天川が俺を見下ろして言う。


「誰が、何に気をつけろって?」


 せっかく注意してやったのにコイツは!


「ちくしょうめ! おい爺さん、どこ狙ってんだよ! ちゃんとこの性悪ロリに当てろよ!」


 俺が跳ねるように立ち上がり、天川を指差して怒鳴ると、爺さんは困ったような顔をしていた。


「お、おかしいのう。ちゃんと狙ったはずなんじゃが。こうなったらもう一度じゃ。いくぞ! てんばあああつ!」


再び、空が光り──



 再び、俺に稲妻が襲いかかって来た。


「おわー!」


 さっきと全く同じ倒れ方をして左肩が痛い。うずくまりながら見上げると、天川の目がますます蔑むようなものになっている。全ての元凶である爺さんを睨むと、相変わらず困惑しているようだった。


「む、むう。確かに娘を狙ったんじゃがのう。まるで、小僧に雷が吸い込まれていくようじゃ」


「避雷針か俺は!」


 俺と爺さんがわあわあ言っていると、天川が再び生成した光剣をフェンシングのように構える。そして、静かに言う。


「そろそろ、終わらせようか」


「おお? まだやるか娘よ。天罰が当たらぬとは言え、わしには合計108の技があるのだぞ?」


 天川と爺さんの間に、再び緊張が立ち込める。天川が終始表情を変えないのはいつものことだが、それにしても自信ありげな気がする。あの爺さんは、まだまだ底が見えないというのに。


 天川が、再び爺さん目掛けて突撃する。爺さんは手のひらをかざし、今度は水流を放つ。しかし、天川は分かりきっていたかのように躱していく。爺さんとの距離を詰め、光剣を振り上げた。が、爺さんの反応も速い。


「カアッ!」


杖が再び赤く光り、天川の剣筋に割り込む。それに対し、天川は──


杖の前で光剣を寸止めし、体を翻し爺さんの後方へ走って行った。


「ぬお!?」


 脇目も振らず走っていく天川に、爺さんは慌てたような声を出す。最初、俺は天川の意図がさっぱり分からなかったが……


 すぐに、天川の行く先に祠があることに気付いた。


「ま、待て!」


 爺さんが天川の後を追うが、時既に遅し。天川の光剣が、扇のような残像とともに祠を上下に真っ二つにした。


「ぐあああああああ!」


 祠の破壊と同時に、爺さんの赤いオーラが飛び散った。嵐のように風が舞い、木の葉をざわざわと鳴らした。


 オーラを全て失った爺さんは、力なく杖を落とし、そのまま後ろに倒れてしまった。


「な、なんだったんだ……終わったのか?」


 天川がスタスタと爺さんの方へ行くので、俺も恐る恐る近付く。空を見て倒れる爺さんの体から、何かキラキラしたものが立ち上っていた。


「や、やるな娘よ……。どうして、祠を狙ったのだ?」


 爺さんの言葉はさっきと比べると弱々しい。問を投げられた天川は、いつものように端的に答える。


「霊的存在が具現化するには、必ず物質としての拠り所が存在する。貴方の場合は、不自然なくらいに祠を背に戦っていた」


「なるほど、そんなことか……。悔しいのぉ」


 覇気の失せた爺さんを見ていると、なんだかいたたまれない気持ちになってしまう。出会ってから長くはないのに何故だろう。もしかしたら、呆れるくらいに欲望に忠実で、決して自分を曲げない姿勢に共感していたのかもしれない。俺は爺さんの側に行って膝をついた。


「爺さん……最初は唯のエロジジイだと思っていたが、なんだかんだであんたのことを気に入ってたみたいだよ。この合宿が、一生の思い出になりそうだ」


「ほほっ、嬉しいことを言ってくれるの。そんな悲しそうな顔をするでない。ワシはただ天界へ還るだけだからの。貴様もなかなか見込みがある男じゃ。約束を守ってやれんくてすまなんだが、これから強く生きるんじゃぞ。そして……」


 爺さんが天川へ視線を送る。


「娘、このワシを倒すとは見事じゃ……。ほれ、もっと近くに寄らんか」


 爺さんの体が半透明になる中、天川は少し離れた位置に立ったままだ。爺さんが呼びかけたが、何故かジト目で爺さんを見てその場を動こうとしない。


「……………………スカートを覗く気だね」


「ぐっ」


「おい爺さん。色々と台無しだよ」


 本当に終始ブレなかったなこの爺さん。爺さんの体がどんどん薄れていき、空に昇るキラキラがますます強くなっていく中……


「最期に、JKのおパンツ見たかったのお……」


 本当に最後まで欲望に忠実なまま、爺さんは消えていった。俺は微妙な気持ちで立ち上がる。なんだか本気で悲しんで損した気分だ。まあでも、爺さんの軸のブレなさはもはや尊敬すべきかもしれないな。

 結果として、俺の不幸体質は治すことができなかった。そもそもあの爺さんが本当に治す力があったか分からないが。あの爺さんの言葉が、どこまでが本当でどこまでが嘘か。それは今考えても詮無きことか。


 膝に付いた土を払う。と、俺はあることを思い出した。


「そうだ、旗川。すっかり忘れてた」

 

 入学式の一件からの因縁の相手。あの時も今回も奴は重要参考人なのだが、またしても逃げられてしまった。しかも突然消えるように。あいつを捕まえるのは至難の技かもな。


「あいつが持ってた鏡、何だったんだろうな。今回も逃げられたけど、どうするんだ天川?」


 俺は天川の方を見る。てっきり少しは悔しそうな顔をすると思ったが、いつも通りの無表情だった。ちょっと意外だ。そして、その天川から放たれた言葉がさらに俺を驚かせた。


「ああ、キミは旗川が逃げおおせたと思っているのか」






「あ、天川さんとリョートくん。待ってましたよ」


 天川に連れられるがままやってきたのは、俺が昨日来たコンビニの手前。そこにはこだちさんがいた。こだちさんの後ろには、白いステーションワゴンとミニパトが路駐されていて……


「…………」


ミニパトのドアの窓枠に、呆然とした旗川が手錠で繋がれていた。


「……なんだこれ」


 俺も唖然としてその光景を見る他なかった。どこから突っ込んでいいやら。旗川は宿命のライバル的なポジションだと思っていたんだが、まさかこうもあっさり捕まるとは。固まる俺の横を天川がスタスタと歩いていく。


「こだち。奴から没収したものは?」


「あ、はい。これですよね」


 こだちさんの手から、楕円形の手鏡が天川へと渡る。天川は手鏡を念入りに検めた後、自分の姿を映したりなどして色々と試していた。しかし、特に何も起こらない。天川は手鏡を上着の内ポケットにしまい込み、旗川の元へ向かった。


「やあ、さっきぶり」


「……どーも。出来れば二度と会いたくなかったですが。運転してたらあの婦警さんに止められて、突然手錠をかけられたんですけど。ちゃん説明してくれるんですよね」


 旗川が手錠をガチャガチャさせながら言う。なんでこんなにあっけなく旗川が捕まる羽目になったか、俺も気になる。


「4月の密輸組織一斉検挙の際、唯一キミはあの包囲網から逃れた。私には違和感があった。本当にあの場から逃げ出すことが可能なのかと」


 言われてみれば……あの時、屋敷には警官がぞろぞろといた。あの猫の子一匹逃さないような包囲網から、普通の方法で逃れたとは考えにくい。


「そこで調べさせた。家宅捜査で押収された物品と、捕まった構成員の証言で齟齬がないか。密輸組織は様々な骨董品を扱っていたが、その中には霊的な力を持っているものもあるはず。松島作品のようにね。少し経って、古びた手鏡が消えたことが浮かび上がった。これはキミの手に渡ったのは明白。そしてその手鏡は、映った人間の姿を消すことができる、という言い伝えのある品だった」


 淡々と語る天川を、旗川は珍しく真顔で聞いていた。風になぜられる葉の擦れる音以外聞こえない林間の道端で、天川の話は続く。


「リョートからキミがここにいると聞いた時、絶好の機会だと思った。ここは出口が一つしかない、森に囲まれた袋小路のような場所。姿を消せるとは言え、こんな山奥で徒歩で逃走する訳にもいかない。だからこの出口をこだちに抑えさせ、わざとキミの前に姿を見せた。私の前から逃げることに、キミは精一杯だったようだね」


 まるで追い込み漁みたいだ、と俺は思った。自然の家という網にかかった旗川は既に詰んでいたのだ。俺が林間学校に来た瞬間から。


「なるほど……。山奥なら見つかる心配はないと思っていましたが……まさか君が林間学校でやってくるとはね。君たちに会ってから、私はとことんついてない」


 旗川が俺の方を見ながらそんなことを言ってくる。お前がツイてないのは俺のせいではなかろうて、多分。旗川は疲れたような顔で天川を見る。


「車で逃げようとしたのが失敗でしたかね。姿消しを発動させたまま、歩いてこの場を去って、ヒッチハイクでもすべきでしたか?」


「こだちには設置型のサーモグラフィーも用意させている。鏡は姿を消すだけで、実体や熱までは消せないことは分かってから。もし人型の熱源を感知したら、銃で威嚇なりするよう指示した」


 なんて恐ろしい指示をするんだ。たしかにこの狭い道で壁に向かって銃を構えられたら、透明であろうと通ることはできないだろうけど。こだちさんが少し無念そうなのが怖い。


「さて、次はキミが話す番。旗川」


「何をですか? 事の顛末は貴女が話した通りだと思いますが」


「キミに情報を渡していたのは誰?」


「────」


 旗川の表情が一気に冷えていった。こっちの背筋もぞっとするような雰囲気をまとい、天川を睨んでいる。その天川は、こちらも変わらず無表情。だが、なんとなく楽しそうだ。俺の気のせいかも知れんが。


「当たりかな。魂手箱にしろ、今回の自称神にしろ、情報源があるはず。密輸組織が壊滅したにも関わらず、短期間でこの場所に来たということは、別口で情報ルートがある。違う?」


 煽るような口調に、旗川は黙ったままだった。一体何を感じ、何を考えているのか。いつも愛想笑いを浮かべていた旗川と、今の奴は別人のようだ。そしてこの後、天川の問に対して旗川が口を開いたのは、この一度だけだった。


「天川さん、確かに貴方はすばらしい才能の持ち主だ。しかし…………『師範』には辿り着くことすらできませんよ、きっと」







 旗川はこだちさんによってミニパトに乗せられる。こだちさんも乗り込み、エンジンをかけた。天川は、ミニパトを背にして、俺に顔を向ける。


「私もこれで帰るから。さようなら」


「なんだ、もう帰るのか」


「そうだ天川。もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないか?」


 後ろから声が飛んできて、俺は驚きながら振り向く。自然の家の方からいつの間にか来ていたのは、ややしかめっ面で腕を組む売木先生と、困惑気味のカンザシだった。


「あれまぁ」


「あれまぁ、じゃないわ多々羅田。勝手にいなくなりおってからに。四条がこっちにお前が行くのを見たと言うから来てみれば……」


 売木先生の鋭い視線が俺から天川へと移る。そのままつかつかと歩いていく売木先生と、表情が読めない天川。2人が正面切って対峙しているのを初めて見て、俺はこの2人の身長がほとんど同じであることに気づいた。口には絶対に出さないが。


「合宿には来ないんじゃなかったか?」


「私用。ちょっと指名手配犯を捕まえるのを手伝った」


 この2人の間の空気。決して険悪と言うわけではないが、少しピリッとする感じだ。2人とも見た目に反して威圧的なオーラがあるからだろうか。そんな2人を横目に、カンザシが俺のそばに近付いてきた。


「ねえ、あのすごく綺麗な子、誰なの? リョートくんの知り合い?」


「うーん……」


 カンザシが小声で訊いて来た。やっぱり来るよな、その質問。今まで天川のことはクラスメイトには誰にも話したことがなかった。天川のことを語るには、霊について、俺の体質について説明することは避けられない。話しづらいことこの上ない。


「それは後で説明するわ。それと、他のやつに言わないでおいてくれ。ちと込み入ってるんだ」


「そ、そうなの? うん。分かったわ」


 とりあえずカンザシが納得してくれたことに一安心。俺とカンザシをよそに、当の本人は売木先生と何やら話していた。


「天川、分かっていると思うが、ほかの生徒にあまり迷惑をかけるな。それは多々羅田も例外ではない」


「もちろん。むしろ感謝されてもいいくらい」


 一体誰が誰に感謝するんだろう。俺が天川に冷たい目線を送ると、天川はクルッと後ろを向いた。


「今度こそ帰るから」


 そう言い残し、まっすぐミニパトへ向かう。天川を助手席に収めたミニパトは、エンジン音を響かせながら走り去っていった。


「多々羅田、一緒に来い。先生とお話の時間だ」


 嵐は去っていったが、今日の受難はまだ終わらないようだ。弱った俺がカンザシの顔を見ると、満面の笑みで返された。これには、思わず萎びた笑みが出てしまった。






 太陽が山の向こう側に沈んでいき、周りを森に囲まれた自然の家周辺は真っ暗になる。だが今日だけは、正面広場の大きな炎が自然の家の壁をゆらゆらと照らしていた。キャンプファイヤーだ。生徒たちは大きな炎の周りで踊ったり、飲み物を飲んだりと、各々が自由に過ごしている。


 天川が帰った後、俺は売木先生にこってり絞られ……と言う訳でもなく、やんわりと注意された。それなりに覚悟していたのでなんだか肩透かしだった。事情を鑑みてくれたのだろうか。

 売木先生は天川の活動をそれなりに理解していて、天川と関わる俺が危険なことに巻き込まれていないか気にしてた。一応俺は「そこは大丈夫ですよ」と伝えた。天川が一緒に居ようが居まいが、俺の受難は大して変わらないということがこの合宿ではっきりしてしまったからだ。

それで、解放された頃にはレクリエーションの時間は終わっており、俺は川魚を釣り上げることも塩焼きを食べることも出来ずに終わった。くじ運の無駄遣いだ。

 キャンプファイヤーが始まってから、俺は少し離れた階段に腰掛けて、空に向かって伸び上がる炎を眺めていた。そして、俺の隣には、ジャージ姿の女の子。


「なるほど……リョートくんとあの子、天川さんの関係は理解したわ」


 同じく階段に腰掛けたカンザシが、指を組んでそう言った。俺がカンザシを見ると、カンザシは真面目な表情で俺を見返してきた。


「本当か? 結構めちゃくちゃなこと話していたと思うぞ」


「霊、だっけ? 漫画みたいな話よねぇ。なんだかわくわくするわね」


 そう言って微笑むカンザシに、俺は少し面食らった。こんなにもあっさりこの話を受け入れられたのは初めてかもしれない。


「わくわくってなあ。霊ってのはどっちかって言うとロクでもないもんの方が多いぞ。例えば俺の体質」


「リョートくんの運が悪いのもそういう理由だったのね。私、リョートくんがすごく鈍くさいからだと思っていたわ」


 カンザシは悪戯っぽく笑う。いや俺にとってはちっとも面白くないんですけどね。なんでこんなにすんなりと信じるんだろう。肝の座り方が違うのか。


「さっきも言ったが、天川のことは誰にも──」


「あー! りょーくんとカンザシちゃん、こんなところにいたー」


 突然声が聞こえ、俺とカンザシは驚いて正面を見た。そこには、キャンプファイヤーの炎を背に結由が立っていた。


「2人でなにしてたの?」


「なんでもないわ。ちょっと内緒話してただけ。ね?」


 ウインクしてくるカンザシに、俺は反射的に頷く。いや確かに内緒話だが、そんな直球で言わなくても。しかし、結由は全く気にしていない様子だ。


「ねえ、もっとキャンプファイヤーの近くへおいでよ。向こうには飲み物もあるし」


「そうね。せっかくだし、行きましょうか」


 カンザシは立ち上がって結由の隣へ。結由は身をかがめて、俺の顔を覗き込んでくる。


「さあ、りょーくんも。行こ?」


 楽しげな結由の笑顔。思わず、こっちの頬も緩んでしまいそうだ。今回の合宿は、面倒なことばかりという訳でもないらしい。それを実感しながら、俺は立ち上がった。




ep.3 「神様のお願い」


この作品を気に入ってくれた方は、ブクマ・評価を是非お願いします!



っていうのを一度言ってみたかったんですよね。今更感がすごいですが。

ともあれ、読んでくださっている方には感謝しかありません。

引き続き、「あまてるレポート!」をお楽しみください。

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