その4
秘書の説明はまだ続く。
「四度目はその約二年後。学園の卒業式です。『ナディア嬢の成績がポンシオ王子より上だったことが気に入らない』との理由で、当時同級生であった公爵令嬢を新しい婚約者にすると言われました。
間違いありませんか、クアドラ公爵殿?」
国王陛下の右隣にいるクアドラ公爵があわあわと口を動かす。クアドラ公爵令嬢は当時学年の最下位クラスであった。
「その際、国王陛下とクアドラ公爵殿の謝罪を受け入れ、それらの駅をつなげる線路を建設することで合意しましたね」
貴族たちの手が一斉にメモする。大陸の中間点に円を描くように線路ができているということだ。
もし、その線路が運行されれば、高い通行料のトルエバ王国を通ることなく他の国との交易ができる。
中間点の駅はまだ通りすぎるだけなので、小さい町にすぎないが、汽車が止まるとなれば、一気に発展する。貴族たちは、その情報をメモしていたのだ。
この大陸はまだ未開発地も多く、どこにも属していない領地が多くある。海に面しているところは、他の大陸との交易もあるため、ほぼ王国なり自治都市なり自治国ができているが、中間点といわれるところはまだどこにも属していないところばかりだ。
とはいえ、駅を作ったということはソラナス侯爵はその周りの開発に着手している。
ソラナス侯爵は立ち上がった。
「もう、今回で五度目です。卒業式からたったの三ヶ月。それも今回は、どうやら城下町にある女性が接待をするお店の店員だとか。
学園を卒業したからってはっちゃけちゃいましたかねぇ?」
国王陛下はビビアナ嬢の出自を知らなかったようだ。顔が真っ白になった。
「ちょっとだけ、個人的な意見を言わせてもらいますけど、ね」
ソラナス侯爵は、気持ち悪いくらい優しい声音で言った。がそれは嵐の前の静けさか。
「体がちぃせぇだあ? 年相応だっつの!
甘いお菓子が嫌いで悪いか? そんなの個人の勝手だろうがっ!
本が好きで成績が良くて何が問題なんだ? ナディアの優秀さへのてめぇの嫉妬だろうがっ!
アホポンがっ!!
てめぇの普通のツラをよく見やがれっ!
すぐに埋もれそうな顔だっての!
うちのナディアは美人だよっ!
才色兼備だ! ばかやろう!
はぁ! はぁ! はぁ!」
ソラナス侯爵が一気に怒鳴った。
「コホン。そういうわけなのでうちの領地は独立します。経済制裁でも戦争でも受けてたちますので、お好きにどうぞ」
ソラナス侯爵がガタンと音をたてて座った。
「あれ? ここで独立宣言しちゃったよ。
社長。計画通りにしゃべってくださいよ。我々だけじゃないんですよぉ」
先ほど説明した方じゃない右の秘書が、ソラナス侯爵に愚痴をたれた。
「独立宣言の後に申し訳ありませんが」
右の秘書が机の前に出る。
「これは連判状です」
国王陛下に連判状を渡して、席へ戻る。連判状には、駅の南側と湖の東側にある領地の貴族たちの名前がすべて書いてあった。ソラナス侯爵領は、更にその南にあるこの国最大の領地であった。
「えー、そこに名前のある貴族と我ソラナス家は、爵位を返上します。今週中には城下町の屋敷は引き払います」
「なんだ、まだ引き払ってないのか?」
「引っ越し先を決めてないだろっ。突然なんだよ。社長はっ!」
「俺じゃないぞ。やらかしたのは、あのアホポンだろう」
ソラナス侯爵は口を尖らせた。