その3
翌日朝九時前の大会議場。
いつもなら円卓で中央の椅子に座るべき国王陛下であったが、今日は向かい合いように机が並べられ、その片方の真ん中に国王陛下、両脇に昨日の重鎮が二人ずつ座っている。
ソラナス侯爵側は、真ん中にソラナス侯爵、両脇には書類を山にした秘書が二人座った。
それらのテーブルに直角になるように傍聴席が作られており、傍聴席は長テーブルと椅子になっていて、すでに満杯。立ち見もいる。立ち見の者たちも手に筆記用具を持っていた。
「九時となったようだ。今日は話し合いに応じてもらい感謝している」
「それは、もういいですよ。やると言った時点でわかっていることですから」
「そうか。それで、こちらからのじょ…」
「これからの話の前に、今までの経緯を傍聴席のみなさんに知っていただかなくてはなりません。我が家のわがままだと思われては、これからの我が家の仕事に関わりますから。
よろしいですか?」
右の秘書が国王陛下と同時に口を開いた。
国王陛下は両隣の四人に確認の視線を送る。認めるしかないので四人は頷く。
「わかった」
左の秘書が立ち上がり資料を開き説明を始める。貴族たちは一斉に紙を広げメモの準備をする。
「違うと思われたときには、どなたでも構いませんので挙手をお願いします」
「わかった」
四人も頷く。
「ナディア・ソラナス嬢とポンシオ・トルエバ王子との婚約は、トルエバ王国のための婚約であり国王陛下が望まれたものであります。
しかしながら婚約後、ポンシオ王子の浮気癖が問題となりました」
少しだけざわざわとする。
「一度目は、ナディア嬢とポンシオ王子が十二歳、中等学園一年生のころです。『ナディア嬢のお体が小さい』との理由で、当時高等学園二年生の女子生徒であった公爵令嬢を新しい婚約者にすると言われました。
それで間違いありませんか、コロン公爵殿?」
中等学園一年生より、高等学園二年生の方が発育がいいのは当然である。
その時ポンシオ王子が連れてきたのはコロン公爵のご令嬢であった。国王陛下の左隣にいるコロン公爵は俯くしかできない。
「その際、国王陛下とコロン公爵殿の謝罪を受け入れ『マレド自治都市との中間点にモレント駅』と『アリロナ自治都市との中間点にオレス駅』を建設することで合意しましたね」
貴族たちの手が一斉にメモする。カルン王国は大陸の北東、アリロナ自治都市は大陸の北にあり、どちらも海に面している。
「二度目はその約二年後。中等学園三年生の頃ですね。
『ナディア嬢の甘いお菓子が嫌いなことが気に入らない』との理由で、当時高等学園一年生であった侯爵令嬢を新しい婚約者にすると言われました。
間違いありませんか、エルナデス侯爵?」
国王陛下の右隣二つ目にいるエルナデス侯爵が俯く。エルナデス侯爵令嬢は当時少々ふっくらしたご令嬢であった。
「その際、国王陛下とエルナデス侯爵殿の謝罪を受け入れ、『パルモア王国との中間点にホーゴ駅』と『カルン王国との中間点にコルト駅』を建設することで合意しましたね」
貴族たちの手が一斉にメモする。パルモア王国は大陸の南東、アリロナ自治都市は大陸の南にあり、どちらも海に面している。
「さらに三度目はその約一年後。高等学園一年生の時。
『ナディア嬢の本をお好きなところが嫌だ』との理由で、当時中等学園一年生であった侯爵令嬢を新しい婚約者にすると言われました。
間違いありませんか、ハッソ侯爵殿?」
国王陛下の左隣二つ目にいるハッソ侯爵のご令嬢は、今でも勉強が嫌いだと豪語する強者である。ハッソ侯爵は汗を一生懸命に拭いている。
「その際、国王陛下とハッソ侯爵殿の謝罪を受け入れ、『ナルベ自治国との中間点にノリーア駅』と『サンプローナ自治都市との中間点にソネス駅』を建設することで合意しましたね」
貴族たちの手が一斉にメモする。ナルベ自治国は大陸の南西、サンプローナ自治都市は大陸の北西にあり、どちらも海に面している。




