#9 講習が終わるまで
「おい、ポーション野郎、ちょっと面貸せよ」
フレデリカの講習を待ちながら掲示板に張り出されている依頼を物色していると、脅し文句を言いながら僕に話しかける男の冒険者が数人。
彼らはフレデリカが一騒動起こした時に不穏な計画を企てていた奴らだ。フレデリカがいない今がチャンスと思って僕に絡んできたんだろう。
だけど僕が彼らと関わる必要性を感じない。
どう見てもフレデリカと一緒にいることが気にくわなくて妬んでいるだけだ。
そんな奴らと関わったところで無駄な時間を過ごすだけ。
時間を有効活用するならお互い自分に見合う依頼を見繕った方がいいぞ。
──と、言えればどんなに楽か。
仮に言った場合は「ポーション職人が調子に乗り上がって」とか「口答えしないで大人しくあの女を寄越せ」とか言われるのが目に見えてる。
早い話、どう受け答えても挑発に捉えられるのだ。
まあ、あのポーション職人が自分たちに楯突こうとしているのだから気に食わないのも当然か。
「わかったよ」
そう答えると僕の前に二人、後ろに二人と逃げ場がないように囲まれた。そんなことしなくても逃げるつもりなんかないのに。了承した上で尻尾巻いて逃げてはフレデリカに見せる顔がないからな。
連れて込まれたのはギルドから少し離れた裏路地だった。
確かにここは本道からも死角になっているから人目につきにくい。何か暴動が起きても目撃者は当事者だけだ。
「で、こんなところに僕を連れてきて何するつもり?」
「とぼけなくてもわかってるんだろ。あの金髪の女を俺たちに寄越せ。もし寄越さないってんなら……」
「暴力でわからせるって?」
「そうだよっ!」
男の一人が強く拳を握り僕に殴りかかろうとする。
最初から彼らは話し合いなんて望んでいない。
冒険者は実力が全て。特にこういう輩はその思想を強く抱いている者が多い。
弱者と見られている僕なんかには一番手っ取り早い。数回痛め付ければ思うようになると考えているだろう。
それにしても随分と遅いパンチだな。ついさっきフレデリカの速さを見ているから余計に比較してしまう。
回避するのに余裕がありすぎて何かあるのではないかと考えちゃうな。
でも他の奴らは退路を塞いでいるだけで加勢する様子はないようだ。
そうだよな。僕相手に多人数でかかる必要はないもんな。
まあ、その考えもすぐに覆る。
欠伸が出るような遅いパンチをひらりと躱す。
「──なっ!」
躱されたなどありえないと表情が物語っている。
男は舌打ちをすると同時に振り下ろした腕を今度は横いっぱいに薙ぎ払う。
だがそれも遅いから身を反らすだけで十分躱せてしまう。
「どうしたの、ご自慢のパンチはお前らが見下しているポーション野郎に避けられているよ。結局は口先だけだったのか?」
おっと、日頃馬鹿にされているせいか鬱憤を晴らすかのようについつい挑発してしまった。
男は今にも怒りが爆発しそう。その気持ち、僕も自分が馬鹿にされている時は同じ気持ちだったんだぞ。馬鹿にされるのがどんなものか身に染みただろ。
「お前ら! ポーション野郎を完膚なきまでに叩き潰すぞ!」
あらら、数の暴力に変更したか。武器まで抜いて完全に殺る気満々だ。
ここは人目につきにくい裏路地、ギルドではない。つまりこっちも容赦しなくて済む。
鞄から常備している『パワフルポーション』を一飲み。人間相手には加減が難しいがちょうどいい実験台がいる。
「テメェ、今何飲みやがった!」
「一言で言えば特別なポーションだけど。お前らが武器を使うように、ポーション職人はポーションを使う。別に変なところはないだろ?」
「気を付けろ……お前ら。ポーション野郎は何かしてくる」
察しがいいな。でも、だからどうしたって感じだ。
攻めてこないならこちらから攻める。
地面を蹴りだすと、それに反応した一人の男が槍を構えて突きだした。
線ではなく点での攻撃は避けやすい。そして横薙ぎする前に捕まえれば次の行動を封じ込めれる。
少し右へ身体を反らし槍の柄を握る。そういえば鉄製のものは握り潰せるか試したことなかったな。
グッと力を込めると柄に僕の指がめり込むように凹んだ。『パワフルポーション』の効力があってもそれなりに力は必要だな。
槍使いについては目の前の出来事に顔が青ざめている。
邪魔だからそのまま腹に軽くパンチ。すると建物の壁に激突して泡を吹き出した。死んでないよね……。
「どういうことだ……ポーション野郎がこんな強いわけねえ……。──ッ! あのポーションか! あれがポーション野郎の強さの秘密か」
正解。でもわかったところで対応できるとはならないだろ?
そこからは一方的だった。
残る三人は一斉に攻撃を仕掛けるが僕の『パワフルポーション』の効力には敵わず武器も壊され戦意が喪失した。
ただ一人、この計画のリーダー格であろう男は諦めていないようだけど。
「まだやるの? 他の人は降参みたいだけど」
「こんなポーション野郎に俺が負けるわけ……そうだ!」
多分無駄に終わるであろう策が思い付いたようだ。
「今回のことをギルドに報告してやる。ポーション野郎が勝手に恨んで背後から一方的に殴ってきたってなぁ! これでも俺はギルドで活躍してるから多少の融通も効く。暴行を加えられたから冒険者資格を永久剥奪しろと言えばお前は冒険者を続けられなくなる。お前を慕っているあの女も失望するさ。そこをつけば簡単に……」
ここまで来ると清々しいクズっぷりを誉めてしまいそうだ。
でも、男の思惑は叶わないしオススメしない。そこに気づけていないようだから教えてあげようか。
「お前がギルドに報告しようと構わないさ。好きにするといい。だけどギルド職員は僕にやられたことを信じるか?」
「はぁ!? この姿を見れば信じるに決まってん………」
「背後からの奇襲、しかも無能と見ていたポーション職人にやられたと。信じる人は少ないな。お前はギルドで活躍している冒険者なんだろ、だったら尚更ありえない。それだけの実力者が無能にやられるなんて誰も考えられないからな。あと僕たちがギルドから出るのも何人かには見られてる。見た者は絶対に僕がやられると思うだろうな」
「───ッ!」
「それにだ。「あのポーション職人に路地裏で奇襲をかけられてやられました、あいつの冒険者資格を剥奪してください」。職員に言うの簡単だが普通に考えて恥ずかしいとは思わないか。当然周りも聞いてる。例え裏で報告しても噂は立つよ。「アイツはポーション職人にやられた惨めな冒険者だ」ってね。偉そうに威張り散らしながら冒険者を続けたいなら報告しないのが賢明だよ」
「───くっ!」
何も言い返せないか。
まあ、事実を言ったまで。僕が忠告しなければ辱しめを受けるにはあの男だったのだから感謝くらいしてほしいものだ。
「まあ、報告するもしないもお前次第だ。自分の地位を落としてまで僕をギルドから消すか、お前が我慢してお互い平和に冒険者を続けるか、利口な判断を期待してるよ。じゃあ、そういうことで」
そして僕はギルドに戻った。男たちはついてきてないようだった。
ギルドの中ではフレデリカがキョロキョロと僕を探していた。
「あっ、ポルカ様! 何処に行ってたんですか! 探したんですよ」
「ごめんごめん。ちょっと外で運動してた。ところで講習は終わったの?」
「はい! もうバッチリです!」
見せつけるには冒険者になった時に貰えるギルドカード。これがあれば身分が証明されるから他国への入国も楽になる便利アイテムなのだ。
「なら早速依頼掲示板に行こう。一応良さげな依頼をいくつか見かけたからさ。二人で相談しながら決めよう」
僕たちでも達成できそうな依頼をいくつか見繕い、更にそこから三つまでに絞り込んだ。
これを受付に提示して依頼の受注が完了になる。
僕たち二人で初めての依頼が始まる。
最近ざまぁ要素が少なかったので書いてみました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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