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#5 ダークエルフの少女

※9月21日 一部加筆

 僕は草木を掻き分け、急いで彼女のもとへ駆け寄った。

 間近で見るとかなりの怪我を負っている。皮膚にも紫色の斑点……毒を受けた症状も出ているな。


「大丈夫か?」


「…………うっ…」

 

 そっと上体を起こして声をかけてみたが微かに彼女は返答をした。


 本当に良かった。あと少し彼女を見つけるのが遅ければ手遅れになっていたかもしれない。

 幸いにも彼女を回復させるポーションは山ほどある。こんな時にポーションを使わずにいつ使うという話だ。

 

 まずは懐の鞄からポーションよりも上位のポーション『ハイ・ポーション』を取り出す。今回は使わないと思ったが、万が一の時に備えて作っておいてよかった。


 だが、順序を間違ってはいけない。


 今『ハイ・ポーション』を彼女に使っても毒の効力が続いている以上苦しむことになる。


 だからその前にこの『解毒ポーション』を使う。

 誤って『ポイズンポーション』を浴びてしまった時の対処法に作り出したポーション。毒を作るなら解毒も作るのが当たり前の話だろ。


「体内の毒を打ち消すためのポーションだ。飲めるか?」


 彼女に問いかけるとコクンと首を縦に振り返事をした。

 しかし、自分の手で飲むのは難しそうだ。容器の口と彼女の唇を合わせて飲みやすいようにしてあげる。


 彼女の苦しんでいた表情は徐々に和らいでいく。斑点も徐々に色が薄くなっている。

 効力があるとはわかっていたが彼女には悪いことをした。

 さすがに『ポイズンポーション』を飲む勇気はない。

 それを除いたら毒を受ける機会など無かったから、彼女の身体を利用して実験みたいなことをしてしまったな。


 次は『ハイ・ポーション』を飲ませる。

 直接身体に振りかけても効力はあるのだが、やはり飲んだ方が効力は高い。


 しかし毒が消えたとは言え体力は戻っていないし、なるべく安静にして貰いたいから『解毒ポーション』同様に僕が飲ませてあげた。  


「………! ………痛みが、なくなって……」


 もう大丈夫そうだな。

 ここで『スタミナポーション』も飲ませればより元気になると思うが、疲弊した身体を強制的に活発にさせるのは良くない。今はポーションに頼らない休息が第一だ。


 彼女は目をパチクリとさせて自分の身に何が起きたのかわからない様子だった。まあ、死を覚悟してたのかもしれないのに生きてましたって感覚だろうからな。


「えっと、僕は……」

 

 とりあえず自己紹介でも、と思ったがここで初めて彼女の身体をまじまじと見てしまった。


 腰までありそうな金色の髪。僕を見据える大きな瞳は宝石のアメジストのよう。彼女は端麗な顔立ちだ、何処かのお姫様と言われても納得してしまう。


 だが、その大きく育った二つの豊満な果実が暴力的だ。しかも布一枚でそれを隠している。下の方も褐色の太ももがかなり露出されて色っぽい。彼女の存在自体、男の僕には刺激が強すぎる。


「ひとまずこれを着て……!」


 彼女から目を逸らしつつ鞄からローブを渡した。

 寒くない季節とは言え、女の子を布一枚の薄着にさせるのはさすがに可哀想だし、何より僕が直視できない。こっちが重要だ。

 

「あの………ありがとうございます。……でも、その……お召し物を貸していただけたのに図々しいですが少しキツくて……」


 着替えが終わったらしく振り返ると、そこにはローブが二つの山に押し上げられ悲鳴をあげている彼女の姿があった。

 もともとは凹凸がない男用に作られたローブ、しかも僕はお世辞にも身体が大きいとは言えないから、彼女のような二つの大きな山を有している女性には適さない代物だった。


 これはこれで大変刺激的だが生憎彼女の身体に合う服は持ち合わせていない。

 というか男の僕が女性ものの服を持っているはずないだろう。持っていたらそれは準備が良すぎるではなくただの変態さんだ。

 

「ごめん、今はそれしかないんだ」


「い、いえ、全然大丈夫です。ローブを貸していただけただけでも凄くありがたいです」


 そのローブは今にも君のお山ではち切れそうなんだがな。


「じゃあ改めて。僕はポルカ・ラングレー、一応冒険者をやってる」


「私はフレデリカです。種族はダークエルフで………見ての通り奴隷です……」


 フレデリカはその証明に胸元に刻まれた奴隷痕を見せる。


 なんとなく思っていたがやはり奴隷か。


 奴隷は珍しくない。今いる街にもたまにだが奴隷を売り出している時期がある。最近で言えば二ヶ月前だったか。

 種族に問わず罪を犯した者、借金取りに追われて捕まり奴隷として働かされる者、人間が支配している国や街では亜人なども対象だ。

 

 しかし妙だな。

 こんな表現はしたくないが、奴隷は奴隷商人が()()()()()生きた商品だ。彼女の美貌なら高額で取引されるはず。


 そんな彼女がこんな森の中にいるのは不自然だ。何かあったと考えるのが妥当だろう。

 

「話したくなかったら別にいいけど、フレデリカさえ良ければ話を聞かせてくれないか?」


「……囮として捨てられたんです。私を含めた奴隷三人が隣国に移送される時に。その時は魔物に襲われていて奴隷商人は自分だけは助かろうと慌てて馬車を捨てました。でもその奴隷商人は真っ先に殺されました。仮の主人が死んだことで私たちは自由になれたので魔物からバラバラに逃げたんです。他の二人がどうなったのかはわかりませんが、私は命からがらここまで逃げてこられました。でも途中で魔物の毒針を受けて……」


「それでかなり衰弱していたと」


 フレデリカは俯きながら事の経緯を話してくれた。

 他の二人の奴隷も生き残ってくれていることを祈ろう。そして、殺された奴隷商人は自業自得と言わざるを得ない。


 で、彼女の事象を知った上でこの後どうするか。

 ここまで聞いて「じゃあこれからは奴隷商人なんかに捕まらず自由に生きろよ」と言うのはあまりにも薄情すぎる。


 関わってしまった以上はなんとかしなくてはいけない……か。彼女を森のなかに放っておくわけにもいかないし。


「フレデリカは頑張ってきたんだな。苦労も沢山してきた。そしてこれからも君を苦しめるであろうその奴隷痕、消せるか試してみよっか」


「………えっ?」


 突然何を言い出してるんだという顔だ。僕も同じ立場ならそんな顔をするだろう。

 奴隷痕だが解ける可能性は大いにある。

 奴隷痕は奴隷を縛る呪いのようなもの。ならば呪いを解くポーションもある。まあ僕の知識ではなく『ポーションの秘伝書』に書いてあったことだけど。


 問題は材料が足りなくて一番ランクが低いポーションだということ。奴隷痕にもランクがあったはずだから、高位のものであれば通用しないかもしれない。


 結局は試してみないとわからないのだ。


「これが『ディスペルポーション』。飲めば奴隷痕が消えるかもしれない。でも必ず消えるとは限らないから期待はしないでほしい」


 フレデリカはポーションを受け取ると、少し考えて一気に飲み干した。

 するとフレデリカの胸元に刻まれた奴隷痕はパァァっと光り跡形もなく消えた。紛れもなく成功のようだ。


「……奴隷痕が……消えた………」


 突然フレデリカの瞳から大粒の涙がボロボロと流れ出した。

 女性経験の疎い僕はどうしたらいいかわからない。

 戸惑っている僕にフレデリカは問い掛けた。


「もう……奴隷として生きなくていいんですか……?」


「奴隷痕がないんだから君は奴隷じゃないだろ?」


「もう……一方的に暴力を受けなくてもいいんですか……?」


「ああ。仮にフレデリカにそんなことする奴が僕がぶっ飛ばしてやる」


「もう……男の人からいっぱい胸を触られたりお尻を触られたりも……?」


「ないよ。もし触られたら男の玉でも蹴り飛ばせ。そうすれば男なんて一発でダウンだ」


「じゃあ……」


 次々に出てくる言葉はもうフレデリカには関係のないことだ。僕はそんなことよりも彼女がこれからどうしたいかを聞きたい。


「フレデリカ、奴隷として受けた痛みや屈辱は君の記憶から決して消えないと思う。忘れろと言っても忘れられないよね。でも君はもう自由なんだ。自由になった今、君は何をしたい? 誰も咎めないからさ、僕は奴隷として生きていた事じゃなくて、フレデリカがこれからしたいことを聞きたいかな」


 笑顔と共にこの言葉を送ったが、これを最後にフレデリカは喋らなくなった。代わりに大きな嗚咽と大粒の涙がとまらない。

 

 僕は彼女を泣かせるつもりは微塵もなかった。

 どうしよう、女の子が泣いている時はどう対応すればわからない。とりあえず落ち着くまで胸を貸した方がいいよね。

 僕はフレデリカを抱き寄せ、頭を撫でながら彼女が泣き止むまで一緒にいた。

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