#4 ポーションの力
※9月7日 一部加筆
明くる日。
準備は万端だ。今日は街の外に出て作ったポーションの効果を試すことにする。
魔道鞄には『パワフルポーション』を含めた各ポーションのストックを十本ずつ入れてある。それでも容量はそんなに使っていないからポーションの素材に予備の装備も入っている。
今回は一人だがこれだけ準備しておかなければ問題はないだろう。元々危険な区域にまで足を運ぶつもりもないしな。
目的地は西の森だ。あそこの魔物は大した強さでもないからポーションを使えば僕でも倒せる……と思う。
大丈夫、昨日作った『パワフルポーション』の効果は実証済みなんだ。自信を持っていこう。
それに何事も挑戦しなければ道は開けない。冒険者なら強くなるためには挑戦しなきゃいけない。
一呼吸挟み、『スタミナポーション』と『アクセルポーション』と呼ばれるポーションを一気に飲む。『パワフルポーション』以外は街の外でしか効果を試せなかったため、これが初めての使用になる。
飲んではみたが相変わらず身体に変化は現れない。
だが、効果はすぐにわかった。
地面をグッと踏み込み、蹴り飛ばすとかなりの速度で前進した。後ろを振り返ると街から二十メートル近く離れていた。
ここまでとは……『アクセルポーション』恐るべし。
踏み出す瞬間、街の警備をしている人の声が聞こえた気がするが、これだけの速さなら聞き取れないのも仕方あるまい。
彼らからしたら超加速した化け物でも見て目を丸くしている感じになっているだろうな。
それから三分もしないうちに西の森にたどり着いた。
同時に『アクセルポーション』の効力も切れたことから持続時間は三分程度と言ったところか。それでも西の森は街から十五分ぐらいはかかるからこのポーションの効果は偉大だ。
そして『スタミナポーション』。これもまた凄い。
あんな加速をするのだからその分体力も持っていかれるはず。そう思って飲んだのだが、疲労感が全くない。むしろ、さっきより元気が溢れ出ている感じだ。
これならいける。
確信に至った僕は恐れず森の中に進む。
周りは木々に囲まれていて、そこから時折吹き抜ける風が心地よい。何も出なければ良い休憩スポットになるかもな。
ガサッガサッ
そんな僕の考えもかき消すように奥の茂みから草木が擦れる音が聞こえた。
「……早速か……」
現れたのは『レッドウルフ』という魔物が五体。赤い体毛が特徴的だからそう名付けられた。
それにしても一対五か。
数の時点で圧倒的に負けている。まあ、もともと単独で活動しているのだから文句を言える筋合いではない。
襲いかかってくる前に『パワフルポーション』を飲む。
飲み干すと同時に一匹のレッドウルフが先手を取ってきた。
何故だろう。以前見たときはレッドウルフの動きが速いと思ったのに、今ではゆっくりに見える。
もしかして『アクセルポーション』で移動してる時に景色を見ていたからか? それで速さに慣れたのかも。
突進するレッドウルフに身体をひらりと捻り受け流す。
がら空きとなった横腹に拳を叩き込む。
相手は魔物だ。アプルの時みたいに簡単には潰せない。
しかし僕の本気の拳はレッドウルフの身体を貫いた。
鮮血が滝のように流れる。腕を伝う血液に暖かみを感じる。
相手が魔物でもこれはあまりいい気がしないな。今度からは武器を使って戦おう。素手は武器がなくなった時の最終手段だ。
仲間がやられたことに怒りを覚えたのか残りのレッドウルフも一斉に襲いかかってきた。
次はこれを試そう。
取り出したのは紫色のポーションと黄色のポーション。紫色は『ポイズンポーション』で黄色は『パラライズポーション』で、どちらも状態異常系のポーションだ。
僕は二本のポーションをそのまま投げつける。
レッドウルフはポーションを噛み砕くだの鋭い爪で破壊するだのしたが、それは僕の術中に嵌まっている。
ポーションの中身は散布してレッドウルフたちの皮膚や粘膜にかかる。
二色のポーションを浴びたレッドウルフたちはたちまち動きが鈍くなり、最期は泡を吹きながら抵抗もすることなく死んだ。
動きの鈍化は『パラライズポーション』の痺れによるもの。泡を吹いて死んだのは『ポイズンポーション』の効力だ。
どちらも魔物を倒すことに関しては強力だ。
だが、討伐依頼で『ポイズンポーション』は考えて使おう。
依頼内容には魔物の肉を要求するものもある。『ポイズンポーション』の使いすぎで毒が染み込んだ肉を提出するわけにはいかない。
そんなことよりも、
「一人で……魔物を倒すことができた……」
感動のあまり泣きそうだ。
今まで無能だと罵られてきた僕もやっと本当の意味で冒険者のスタートラインに立てた気がする。
今回のことはゴレアスさんにも報告しなくては。きっと喜ぶはずだ。
でもせっかくだしもう少しだけポーションを試そうか。ここで帰るのは勿体ない。
レッドウルフの死体を解体して素材だけ魔道鞄に収納すると探索を続ける。
そして、僕は見つけてしまった。
この時は彼女が僕の運命の相手になるとは知る由もない。
「……何でこんなところに女の人が……」
褐色の肌に尖った耳。服は薄汚れた布一枚という感じだが、確かダークエルフという種族だった気がする。
──いや、深く観察している場合ではない。
一本の大木に寄りかかっている彼女の身体は傷だらけでボロボロだった。
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