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#2 おネエさんのお店

※9月7日 一部加筆

「…………はぁ……」


 あれからというもの、僕は途方に暮れていた。

 

 依頼も受けずにギルドを出てきてしまったため、取り急ぎでやることはない。

 かと言って、一人で依頼をこなせるとは思えないし、今ギルドに戻って依頼を受けに行くのは得策ではない。何故ならアレスたちがいるから。


 彼らから去ったというのに数分もしないで戻れば、歓迎会の肴にされてしまうのはわかりきっている。

 パーティの縁を切ったのにまだ馬鹿にされるのは癪に障る。いや、彼らのことだから僕が戻らなくとも勝手に馬鹿にしているだろう。

 

 それに屈辱的な思いをしたところで他のパーティが募集をかけているところに入れるとは限らない。

 今なら尚更だ。ほとぼりが冷めるまでギルドには立ち寄らない方がいいかもしれない。


「はぁ……」


 改めて現実と向き合ってみたが、これには溜め息を溢さずにはいられない。


 とりあえずポーションの材料でも買っておくか。備えあれば患いなしとも言うし、ポーションを作ってれば少しは気が紛れるかもしれない。

 僕は行きつけの道具屋を訪れることにした。



 木製の扉を開けると軽やかな鐘が店内に鳴り響く。


「いらっしゃ………あらポルカちゃんじゃなぁい。んもうっ、どうしちゃったの浮かない顔しちゃってぇ、困ったことがあるならおネエさんが相談に乗っちゃうわよん?」


 女性のような話し方をするがどことなく男っぽい声色──完全に男なんだけど。この店の店主であるゴレアス・サイゴルさんだ。


 筋骨隆々な身体にブーメランのようなパンツ一枚。申し訳程度のエプロンを身に付けてる姿ははっきり言って近寄りがたい存在だ。僕も最初はヤバい店に入ってしまったと思ってしまった……。


 でも人は見かけによらぬもの。

 話してみたら優しくて面白い人だ。よくわからない危機感を抱いてのもすぐに消え去った。


「こんにちはゴレアスさん。実は今朝、無能はパーティから抜けろと言われまして……。依頼を受けるにもギルドは今、僕と元パーティのことで話題になっていると思うので戻ろうにも……」


「…………」


 ゴレアスさんの表情から優しさが消えていた。代わりに額にはブチブチと血管が浮き出ている。


 彼(?)は元冒険者だ。たまに依頼を受けにくる姿を見るが、ほとんどが難易度の高い依頼。仕入れが難しい素材等は自分で仕入れに行ってると聞いたことがある。


 今ゴレアスさんから放たれてる威圧のようなものは強者が放つものに近い。僕も気を抜けば押し潰されそうだ。


「……追放ですって……私の可愛いポルカちゃんをよくも……。ポルカちゃん、あなたのいた元パーティ、私が潰してあげましょうか? ギルドにまだいるんでしょ」


「だ、大丈夫ですよ! それよりその圧をやめてください。僕が限界に近いです……」


「あら、ごめんなさい」


 一言謝るとゴレアスさんから放たれる威圧は嘘のように無くなった。表情はいつもの優しい表情に戻ってる。


 ゴレアスさんは一人でもアレスたちを潰せる実力を持っているのだから恐ろしい。アレスたちも僕のおかげで存命できたことに感謝して欲しいくらいだ。


「それより本当にいいの? 田舎のお父さんとお母さんに楽させるために冒険者になったんでしょ。そんな健気な子をパーティから追放する馬鹿者がいるなんて許せないわ!」


 まずい、ゴレアスさんの怒りがぶり返しそうだ。心配してくれたり、僕のために怒ってくれるのはとても嬉しいが抑える方の身にもなってくれ。


「大丈夫ですって。それに成り行きとはいえ、あんな奴らと関わったのが間違いだったんです。僕は僕なりに冒険者をやっていくので」


「……こう言うのは失礼かもしれないけど、別に冒険者じゃなくてもいいんじゃないかしら。ポルカちゃんがポーションを作って私が売り捌けばお金になるからわざわざ外に出て危険を冒さなくてもいいのよ」


 ゴレアスさんの言ってることはわかる。

 治癒魔法が使えないパーティはポーションが必須だ。ゴレアスさんの力を借りてその人たちにポーションを売れば儲けが出る。


 それに生産職が冒険者をするなんて少ない。ゴレアスさんみたいな肉体があれば話は変わってくるかもしれないが。

 仮に生産職が冒険者になったところでパーティでしか活躍できない。単独では戦闘に適した職業と比べると使い物にならないのは自明の理。


 だけど、僕には冒険者を続けたい理由があった。


「昔、故郷が魔物に襲われたことがあったんです。僕の故郷は田舎の方なので冒険者を呼ぶにも呼べない。呼べても駆けつけてくれた時には故郷は滅んでいると思います。

 そんな絶望的な状況で一人の冒険者が駆けつけてくれたんです。その人はたまたま近くにいたらしく魔物はあっという間に倒されました。魔物の素材も復興のために使ってくれと全て譲ってくれました」


 あの人は今何処で何をしているのだろう。あれだけの強さを持っているのであれば各地で名を轟かせてるかも。


「僕はその人に憧れを抱いたんでしょうね。この人みたいな冒険者になりたいって思ったんです。まあ、今はパーティから追放されているザマなんですけどね」


「だからポルカちゃんは冒険者は諦めきれないわけね」


「そういうことになります」


「いいじゃない、そういう単純な理由、私は好きよ。その人にもう一度会えるといいわね。あっ、そうだ、ちょっと待っててねぇん」


 店の奥に行って再び戻ってくるとゴレアスさんは一冊の本を持っていた。


「これポルカちゃんにあげるわ。少し前だけどダンジョンに行った時に拾ったものなんだけど、私じゃ宝の持ち腐れないのよ。でもポルカちゃんなら絶対に役に立つものだから」


「そんな、悪いですよ。ゴレアスさんが行ったダンジョンってことは手強い魔物がいるダンジョンですよね。僕なんかが受け取っていい代物じゃ……しかもタダなんて……」


「んもうっ、いいのいいの。世話好きのおネエさんからのプレゼントよ。男なら文句を言わずさっさと貰いなさい」


 お姉さんの意味が違うように聞こえたが、ゴレアスさんがそう言うと無理矢理受け取らされた。


 店の奥に眠っていたのか本には多少ホコリが被っている。それに結構分厚い。五センチぐらいはある。中身は読めなくはないが所々廃れているな。

 埃を払って表表紙に書かれているタイトルを見てみる。


「タイトルは……【ポーションの秘伝書】?」 


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