#1 追放
新作を書きました。
※9月7日 登場キャラクターの家名など一部加筆。
分厚い雲が空を覆い、今にも雨が振りそうな憂鬱な朝。その日を境に僕の冒険者人生が大きく変わった。
「ポルカ、お前はもうこのパーティに必要ないわ」
冒険者ギルドにてパーティリーダーのアレス・ティオンから告げられた言葉だった。
僕は最初何を言われたのかわからなかった。
いや、頭では理解出来ていなくてもいつかこんな日が来るのではないかと予感していた。
アレスは今一番実力を上げている冒険者。
つい先日も初級戦士職【ソードマン】から中級戦士職の【グラディエーター】へとクラスアップしたばかり。
彼の成長速度は周りからも期待されている。【グラディエーター】の更に上位、上級戦士職の【ソードマスター】になるのもそう遠くない話だとか煽てられている。
「そうそう。最初はルーキー同士仲良くパーティを組んでたけど、実際に戦闘に出ればあなた、ろくに戦うことも出来ないじゃない。冒険者なめてるの?」
蔑む目で僕を見るのは彼女は魔法使いのメディア・アルケー。中級魔法職【黒魔術師】であり、魔法で敵を討ち滅ぼすのが得意な女性だ。
正直な話、僕はこの人を好いていない。
自分が気に入らないことがあれば暴言を吐き、何かあれば僕のせいにする。魔法を間違えて僕に向けたこともあった。
にもかかわらず、彼女は謝りもせずニヤニヤと楽しんでいるのが当たり前のこと。
さっきの言葉だってそうだ。
僕は決して冒険者をなめているわけではない。
予め魔物を策敵をしていたのは誰だ。
依頼に出て野営の準備をしたのは誰だ。
毎晩アレスたちに料理を作ってやったのは誰だ。
睡眠時間を削ってまで毎晩周囲を警戒していたのは誰だ。
魔物を討伐してギルドまで運んできたのは誰だ。
全部僕だろ。パーティを組んだ冒険者が分担してやることを全て僕に押し付けていたじゃないか。
でも、反論できる立場でもない。
僕は初級生産職の【ポーション職人】。
出来るのはポーションを作って彼らの傷を治すことぐらい。
生産職が冒険者をやるなんて無謀だ、と思う人間は沢山いる。メディアの言葉もあながち間違っていない。
それでも僕は冒険者という仕事をやらなきゃならなかった。
僕の生まれ故郷はお世辞にも裕福とは言えない。
せめて父さんと母さんに楽をして貰いたいという一心でここまで来たのに今ではパーティを追放されそうになっている。
僕はグッと下唇を噛み、溢れ出る気持ちを抑えてアレスたちと話し合った。
「どうしてもダメか? 荷物持ちでも何でもするからさ。頼むよ、今までやってきた仲だろ?」
我ながら情けないことを言っている。
冒険者で稼ごうと言っている自分が、今は下働きを自ら進んでやると言っているのだ。こんなことを言う自分に腹が立つ。
でも、こうするしかない。
僕の職業では他に入れて貰えるパーティを見つけるのは難しい。この話だって周りに聞かれている。僕のことを哀れな冒険者と卑下する目で見る者が多いだろう。
「ほら、ポーションだって作れるしさ。アレスの傷だって、メディアの魔力切れだって、全部僕のポーションで治したじゃないか」
「──ポルカ、残念だがその必要はない」
今まで話に参加してこなかった男、グリッド・オスカーが口を開いた。
彼は中級タンク職【ガードナー】。魔物から注意を引き付け、仲間を庇うことに徹する職業。当然、一番ダメージを負うリスクがある。
彼も僕のポーションに何度も世話になっているはずなのに何故?
「新しくメンバーを募ったんだよ。ほら、こっち」
アレスが手招きしたのは金色の髪が綺麗な僕と同じ歳と思われる少女だった。
「新メンバーのエレン・クリミア、職業は【回復師】だ。この前偶然見つけてな。冒険者になったばかりでパーティも見つけれてないから誘ったんだ」
「はじめまして、これからいなくなるポルカさん。ポルカさんの代わりに加入したエレン・クリミアです。ポルカさんのことは皆さんからよく聞いてますよ。何もできない無能だとか、ふふっ。これからは私が皆さんを治療しますので、ポルカさんはお得意のポーションを売って生計を立てたらどうですか?」
馬鹿にされた僕を見て大爆笑するアレス。
まったく笑いが堪えきれないメディア。
表情には出さないが内心では笑っているであろうグリッド。
何より、僕のことを何も知らないエレンにここまで言われたのに腹が立つ。
「……エレンが新メンバーになったとして、僕の代わりが務まるのか?」
「何勘違いしてるんだ。お前とエレンじゃ根本から違う。魔法とポーションじゃ治癒力が段違いだ。上のパーティに行けば行くほど医療師が必要になってくる。治癒魔法も使えず効力の低いポーションしか作れないお前が対等に渡り合えると思うな」
「──ッ! じゃあ、野営や荷物持ち、料理とか、俺の仕事だったことがこんな女の子に出来るのかよ」
「ポルカさん、冒険者なのにそんなことしてたんですか? まるでただの雑用係、ふふふ」
「違うわよ、ポルカは本当に無能な雑用係」
「ハッハッハ、違いねぇ。それになぁ、野営は時間制にすればいいし、荷物も各々分担すればいいだろ。料理だってエレンが得意だって言うし手伝えることがあれば手伝うさ」
何だよそれ……俺とは全然違うじゃないか。
俺の時はそんなこと考えもしなかったくせに……。
あれか? エレンが女の子だからか?
アレスはエレンにデレデレして特別扱い。メディアは同姓が加入して気分が上がってる。グリッドも新メンバーの加入に喜んでいる。
どうしてそうやって笑い合うことが出来るんだ。
みんな、俺にそんな顔をしたの最初だけじゃないか。それ以降は一切しなかったじゃないか。
なんで、なんで、なんで……
──そうか、僕はコイツらと違って根が腐っていないんだ。
同族は同族を引き寄せる。
コイツらは自分より劣っている人間を見て哀れみ、馬鹿にして嗤い、優れた職業であることを自慢して思い上がっているクズ共だ。
僕はコイツらと関わった時点で間違っていた。
こんな奴らと相性が合わなかったのは人間性の違い。
もう、コイツらには付き合いきれない。
「……わかったよ。僕はこのパーティから抜ける……」
「ああ、そうしてくれ。これからエレンの歓迎会を開くからな、指を加えて見られても困るんだよ。そうだ、装備と金に関してはお前にくれてやる。それ持って田舎にでも帰るんだなぁ!」
よく言うよ……装備なんて良い装備は似合わないとか言って僕の資金を取っていくし、そのせいで金も裏で貯めていたものしかない。
僕は席を立ち、ギルドの入り口まで行った。振り返るとアレスたちはエレンの歓迎会と称して朝から酒を飲んでいる。
僕はあんな奴らみたいにはならない。
「………クズはクズ同士、仲良く馴れ合ってろ……」
そう言い残し、僕──ポルカ・ラングレーはギルドから立ち去った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本日はあと3話ほど投稿します。
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