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やるせなき脱力神

やるせなき脱力神番外編 お使いイベント

作者: 伊達サクット

 ウィーナがロシーボに任務を命じる。

「今回の任務は、今度入籍することになったチンスコウさんとマンスコウさんの婚姻届を王都市役所の住民課に提出することだ。ロシーボ隊に市役所までの護衛に当たってもらいたい」

「了解しました」

「頼むぞ。この任務は『神』を殺し得る技術を保有しているお前の隊にしかできない任務だ」

「ハッ! お任せ下さい!」

 ロシーボは颯爽とウィーナの執務室を後にした。


 王都市役所は王都のほぼど真ん中にあるが、市役所は強力な電磁バリアに常時守られており、バリアに触れるだけで冥界人は一瞬にして消滅する。入るにはまずバリアを解除しなければならない。

 バリアは王都周辺を囲むように配置された、北、南、西、東それぞれ四ヶ所にある結界を破らないとならない。結界はそれぞれ四柱の『市役所守護神』に守られている。

 ロシーボ隊は、まず北の結界をやぶるべく、王都の遥か北にあるビビヒマ地方の『竜哭の谷』へ向かった。



「行けーっ!」

 ロシーボの指示のもと、北の守護神・始祖神竜ヴァルガゴスに対してロシーボと彼の部下達が一斉に攻勢を加える。

 まずロシーボが全身に着こむ強化型バトルスーツの手首装甲の射出口からワイヤー状のアンカーを射出し、ヴァルガゴスの長い首に巻き付ける。

 同時に、平従者コアエンがギミックアームの右腕を射出、ワイヤーが伸びヴァルガゴスの右手に巻き付ける。

 同じく平従者キンプーセが左腕のギミックアームを射出、ワイヤーをヴァルガゴスの左手に巻き付ける。

 そしてヴァルガゴスの背後に立つ平従者ドライヤが右腕のギミックアームを射出し、ワイヤーをヴァルガゴスの左足に巻き付ける。

 最後に同じく背後に立つ平従者センタッキーが構えた拘束索発射銃からワイヤーを発射し、ヴァルガゴスの右足に巻き付ける。

 首根っこと四肢を拘束されたヴァルガゴスだが、まるで意に介す様子を見せない。

「やれっ!」

 構わずロシーボは四人の部下に命令すると、五人は一斉にワイヤーから高圧電流を放射した。ヴァルガゴスの全身が凄まじく明滅する電流に包まれる。

 電撃を浴び続けるヴァルガゴスが、大地を揺るがし天を割くような恐ろしい咆哮を上げる。

 空気が震え、ロシーボの耳が一瞬何も聞こえなくなったかのように麻痺した。

「ひるむなーっ! このまま電流を浴びせ続けろ!」

 ロシーボが部下達に大声で指示した。

「ヒャーハハハ! 釣れた釣れた! 今日は大物が釣れたぞーっ! 大漁だーっ! 今日の晩飯は始祖神竜のステーキじゃーっ!」

 トカゲの顔を持つリザードマン系種族のキンプーセがハイテンションで叫ぶ。

「撃て! 撃てーっ! 一斉射撃ーっ!」

 ロシーボが腰のラックから魔法銃を取り出しながら声を張り上げる。

 それに応じて、コアエン、キンプーセ、ドライヤは空いている方の手に魔法銃を構える。センタッキーは両手で持っていたワイヤー銃を左手のみで持ち、右手に魔法銃を持つ。

 彼らはワルキュリア・カンパニー入社試験の際、組織が要求する合格水準の戦闘力を満たしていなかったが、人材不足故に合格させた。

 そして、ロシーボ隊に配属させ魔法銃を支給することで彼らの戦闘力不足を補っていたのだ。

 五人は一斉に構えた魔法銃からレーザーを発射する。電撃に加えてレーザーがヴァルガゴスを打ちのめす。

「まだ倒せないんですか? 早くして下さい」

「そうよ。早くしないと役所が閉まっちゃうわ」

 ロシーボのすぐ両脇にはタキシード姿の新郎チンスコウとウェディングドレス姿の新婦マンスコウがいて、ロシーボに文句を言っていた。

 ヴァルガゴスは再び咆哮を上げると、背中を起こして二本足で立ち上がった。

「うわああああああっ!」

 ロシーボとコアエンとキンプーセが敵の巨体にいとも簡単に引っ張られ、ワイヤーを巻きつけたまま宙にぶら下がる。

「ああああっ! うわああああああっ! ロシーボ殿ーっ!」

 コアエンが恐怖のあまり絶叫する。

「うっほほほほーいっ! 引いてる引いてる! デカいぞこれはーっ!」

 激しく振られ宙を舞いながらキンプーセが絶叫する。

「ひ、ひるむなーっ! 絶対に放すなーっ!」

 ロシーボも電流を浴びせながら絶叫する。左手の魔法銃は体が激しく振られる中で滑り落としてしまった。

「ギャアー!」

「ギャアー!」

 足を拘束しているドライヤとセンタッキーは激しく地面を引きずられていた。これでは馬に市中を引き回される罪人のようである。

「ギャアー!」

 センタッキーはたまらず左手の銃を放した。

「ギャアー!」

 ギミックアームを敵の足に巻きつけているドライヤはそのまま引きずられ続ける。

「何やってるんですか早く倒して下さい!」

 チンスコウが苛立った様子で苦言を呈した。

 ロシーボのヘルメットに内臓された人工知能のオート解析機能がアラームを発する。暴れるヴァルガゴスの体内に、異常なエネルギー反応を検知したのだ。

 ビッグバン反応である。宇宙の、全ての始まり。始祖神竜の中で新たなる宇宙が生まれようとしているのだ。世界の原初となる超エネルギーを感知したヘルメットは処理能力の限界を越え、ショートして爆発した。

「や、やばい! 離脱しろ! 早くーっ!」

 ロシーボが即刻発射口からワイヤーを分離させ、背中のバーニアで飛翔しながら部下達に命じる。

「ロシーボ殿、巻いたワイヤーが外れません! 助けて下さい!」

 ヴァルガゴスの右手にぶら下がるコアエンが絶叫する。

「アヒャーッ! アババババーッ!」

 ヴァルガゴスの左手にぶら下がるキンプーセも絶叫。何とか義手のワイヤーを切断しようとナイフを取り出したが、一瞬で滑り落とす。

「大変だ! ビッグバンだ! 早くーっ!」

 ロシーボが地面に着陸し、チンスコウとマンスコウ、両者の手をつかむ。

「みんな逃げろーっ! 離脱だ離脱! 距離を取れーっ!」

 脚部のバーニアを最大出力で噴射、ホバー移動で全力疾走。

「うわーっ! 脱臼するーっ!」

「キャーッ!」

 ロシーボのホバー移動に引きずられた新郎新婦も絶叫する。

「ギャアー! ギャアー! ギャアー! ギィヤアァァァァーッ!」

 ドライヤも足にぐるぐる巻きつけたワイヤーを外すことができず岩に叩きつけられ、地面を引きずられる。センタッキーはようやく、ふらふらと立ち上がったところだ。

「ロシーボ殿、助けて下さい! 助けて下さああああい!」

 センタッキーが、傷ついてろくに動かない足を引きずりながら叫ぶ。

「みんな逃げろ! 逃げろーっ!」

 後ろを振り向かずにロシーボが部下達へ呼びかける。

 ヴァルガゴスの全身が白熱し、巨大な光球となり、それは膨張して周囲の世界全てを真っ白に塗り潰し、飲み込んでいく。

 その光の奔流に、コアエン、キンプーセ、ドライヤ、センタッキーの四人が飲み込まれ、一瞬にして消滅した。

「わああああああっ!」

 疾走するロシーボに膨張する光が押し寄せる。そして、離脱する三人のすぐ後ろまで差し迫ったところで、爆発は止んだ。

 ヴァルガゴスはビッグバンを引き起こして自爆し、ヴァルガゴスがいた場所を中心に周囲一帯はクレーターとなっていた。

 竜哭の谷そのものが消滅していた。

 呆然自失の様相で周囲の光景を眺める三人。

 しかし、この大爆発のおかげで、市役所を守る結界も消滅していた。残りは三つ。



「ウウオオオッ! 我が主はだれぞ!? 思い出せぬっ! 我が使命は何ぞ!? 思い出せぬ! ヌオオオオオッ! 貴様らを、貴様らを殺すことが我が使命なのか!? ウオオオオッ!」

 王都の遥か東に広がる、終わりなき『永劫の砂漠』。東の結界があるピラミッドの守護神である獣神スフィンクスは、二週間という気の遠くなるような永き時を経て、己が使命を忘れていた。

 ロシーボは新郎新婦と平従者のジーア、バーサ、ラータ、リーブを引き連れて、スフィンクスと対峙していた。

「クイズに正解すれば通してくれるんじゃないの?」

「分からぬ! 何が何だか分からぬ! 取りあえず貴様らは殺す!」

 スフィンクスが吠えると、彼の全身にオーラが巻き起こり、そして炎に包まれる。

「うわあああっ! 退却だーっ!」

 ロシーボはすぐさま部下達に命じ、チンスコウとマンスコウの手を引っ張り、その場から逃走を始めた。

「死ぬううううえっ!」

 スフィンクスは問答無用で口から凄まじい業火を吐いてきた。スフィンクスの謎かけに正解すると先へ進めるという前情報とは全く違っていた。

「断熱バリア展開!」

 咄嗟にロシーボが自分の周囲にバリアを展開した。チンスコウとマンスコウもその中に包まれる。

「ギャーッ!」

 あっという間にジーア、バーサ、ラータ、リーブが炎に飲まれ、一瞬で消し炭になった。

「あわわわわ……」

 ロシーボがバリアを展開したままその場で腰を抜かしてへたり込む。

「ヌオオオオオッ! 燃える! 燃えるーっ! 馬鹿なああああっ!」

 自ら炎に包まれたスフィンクスは全身火だるまになり暴れ始め、ピラミッドに衝突した。

 轟音を立てて巨大なピラミッドが崩壊する。

「ウウオオオッ!」

 燃え上がったスフィンクスが大爆発した。ピラミッドは真っ黒な瓦礫の山になっていた。しかし、それによって結界も破壊された。



 王都の遥か南『死者の空洞』。あらゆる時代、あらゆる世界の死者の魂を圧縮処理する闇の深淵。

 その遥か底に結界はあった。

 しかし、死者の空洞に近づくには守護神の冥魔皇帝ワシントーンを倒さねばならない。

 冥魔皇帝ワシントーンは南の結界の守護神だが、冥王アメリカーンにより封印されていた。彼を倒すには封印を解かなければならない。なので、ロシーボは彼の封印を解いた。

「フハハハハ! 我はこの冥界の真の支配者ワシントーンなり! 我が封印を解いてくれて感謝するぞ! これから五百兆のアンデッド兵を率いて王都を攻め滅ぼしてくれるわ! 待っていろアメリカーン! 今こそ積年の恨み晴らしてくれようぞ!」

 前の二回の反省があるので、ロシーボは十分距離を取り、ドローンの遠隔操作でワシントーンの封印を解いていた。

 死者の空洞から遠く離れたここからでも、ワシントーンの大声が轟いていた。

 ロシーボが高性能の双眼鏡で確認すると、確かに五百兆のアンデッド兵が押し寄せていた。

「ひえええ……。五百兆って冥界の総人口より多いじゃないですか。我々じゃとても無理ですよ」

 平従者のロスも双眼鏡を覗き込みながらロシーボに言う。

「ウィーナ様が冥王様から仕入れてきた情報によると、アイツはブロッコリーが弱点で食うと死ぬらしい」

 ロシーボが言うと、チンスコウがまた不平を言い始めた。

「ブロッコリーで死ぬわけないでしょう」

「やってみなければ分かりません」

 ロシーボは再びドローンを操縦し、搭載カメラを写すモニターに目を向ける。

 とりあえず五百兆の軍隊は無視し、巨大な威容を誇るワシントーンにドローンを接近させた。

 モニターには輪郭がぼやけ、カクカクした動きのワシントーンの顔が映る。

「画質悪いっすね」

 部下の一人であるベガスが言う。

「一目漠然、二目瞭然。もっとズームさせよう」

 そう言ってロシーボはカメラをゆっくりと寄せる。

「大丈夫ですかね?」

 部下の一人であるシスコが心配そうに言う。ロシーボは「やるっきゃない」と答えた。

「我こそ冥界の真の支配者じゃあ! この冥界を破壊と殺戮で満たすのだ! この冥界は闇と絶望こそが相応しい! 何が『冥界人』だ! 全てを殺し尽くしこの冥界を死者だけの世とするのじゃあ! フフフフフ、ハーッハッハッハッハア!」

 大口を開けて笑っているワシントーンの顔が明瞭に映し出された。

「よし! 今だ!」

 ロシーボは、ドローンのハッチを開き、内部に格納しているブロッコリーをワシントーンの口に放り込んだ。

「ぬおわああああああっ! まっずううううっ!」

 途端にワシントーンは大爆発を起こした。ワシントーンの死に伴い、五百兆のアンデッド軍も闇の底へと還っていく。ロシーボはそのまま死者の空洞へドローンを飛ばし、闇の底にあった結界を遠隔で破壊した。

「終わった……。何とか今回は全員生き残ったな」

 ロシーボは笑顔を浮かべ、ロス、シスコ、ベガスや新郎新婦を見回した。

「ところでロシーボ殿、確か今回の目的って冥界を救うってことでいいんでしたっけ?」

 ベガスが言う。

「いや、違うよ。市役所に婚姻届け出しに行くの」

「あ、そうでした……」



 王都の遥か西の『大迷宮エトセトラ』に最後の結界がある。守護神は機神兵超究極完全体・機甲掃討兵ガルガイザーだ。

 チンスコウとマンスコウは疲れたと言い、ロシーボ達に同行しなかった。

 迷宮自体は、ロシーボのヘルメット内臓のナビゲートシステムがあるため問題なかったが、途中で遭遇するモンスター達が規格外に強力であり、ロスとシスコとベガスは道中で殺された。

 一人になったロシーボが一番奥まで辿り着くと、守護神の姿は無かった。

 結界の前には書き置きが一枚置かれており「給料安いんで辞めます。 ガルガイザー」と書かれていた。

 ロシーボは最後の結界を自らの手で破壊した。



 ロシーボとチンスコウとマンスコウはついに市役所まで辿り着いた。

 ロシーボは事ここに至り、もう部下を同行させるのはやめることにした。シュドーケンがついていくと申し出たが、それも断った。

 市役所内部は一階から最上階まで、全てのフロアが一歩歩くごとに大ダメージを受けるバリア床やトゲの床で覆われており、突破するにはダメージ床無効化の魔法やアイテムを使うか、回復魔法を唱えまくってゴリ押しで進むしかない。

「今日はどのようなご用件でいらっしゃいましたか?」

 受付のおばさんが親切な様子で尋ねてきた。

「婚姻届出しにきました」

 チンスコウが答えると、受付のおばさんは「住民課は三階になります」と教えてくれた。

 ロシーボは新郎新婦をバリアフィールドに包んでダメージ床を進んでいく。

 更には左右に往復するリフトを飛び越え、奈落に落ちないようアスレチックエリアを進む。二階へ続く階段へは幻惑の魔法が施されており、永遠に階段が続く。

 ロシーボはバトルスーツの機能でアンチマジックフィールドを展開し、幻惑の魔法を打ち消した。

 次々と襲いかかるガーディアンを銃で撃ち抜きながら(戦うのはロシーボだけだが)三人は進んでいく。

「あと十分で役所が閉まる時間よ!」

 マンスコウが焦り、ウェディングドレスの裾を持ち上げて走る。閉所時間になると内部にいる客に転移魔法がかけられ強制的に市役所の門の前に戻されてしまう。

 そうなるとまた四ヶ所の守護神を倒して電磁バリアを解除し直さねばならない。あれだけ苦労したのだから、その手間は絶対に避けたい。

 三階の階段には特に仕掛けはなかったが、運悪く前を杖をついた足の悪いお爺さんが歩いており、進むのに時間がかかる。

 右を追いぬこうとすると、お爺さんは右斜めになり、左から追い抜こうとすると左斜めに進んでいく。

 たまらず小刻みに踏みするロシーボ。もしかしてわざとやっているのではないかと老人を疑いたくなる。追い越せるタイミングになったのが丁度階段を昇りきり廊下が開けたところだったのが余計に腹が立った。

 すぐさま住民課のカウンターに行くが、番号札を渡される。

「57番でお呼びしますのでお待ち下さい」

 閉所時間が迫っているが、椅子に座って待つ客が他にも大勢いた。たとえ番号札を渡されていても、閉所時間になれば、その瞬間強制的に市役所の外にワープして、そこで終了である。

「53番でお待ちの方」

 カウンターで声がする。杖をついたお婆さんがゆっくりと立ち上がり、カウンターへ向かっていく。

「53番かあ……やばいな」

 ロシーボが声を漏らす。

「あと三人、アンタが遅いからこうなるんだよ。これで駄目だったらどう責任取るつもり?」

 チンスコウが顔しかめて、語調強く言う。

「申し訳ありません」

 ロシーボは謝ることしかできない。

 

 結局、時間ギリギリでチンスコウとマンスコウの番まで回ってきて、何とか婚姻届を提出できた。



 翌週――。


「今回の任務は、今度離婚することになったチンスコウさんとマンスコウさんの離婚届を王都市役所の住民課に提出することだ。ロシーボ隊に市役所までの護衛に当たってもらいたい」

「げっ!!」


<終>

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