桜色
霞紗夜
陰キャの女子。色野有彩とは友達。
色野有彩
明るくて優しい。紗夜と友達。山野莉緒のことが気になっている。
山野莉緒
男の人。あとはよくわからない。
今年の春はいつも以上に桜がきれいに思えた。花びら一つ一つがキラキラと輝いて見えた。私は心を弾ませながら学校に向かった。
「おはよう、紗夜。」
「あっ、おはよう、有彩。」
有彩は私とは正反対な明るい子。私はというと、クラスでも目立たない影の薄い子で、存在を知らない子もいるくらい。どうして有彩が私みたいな陰キャに声をかけてくれたのかは分からない。学校ではあまり話さないけれど、有彩はまあ、仲のいい友達だと思っている。
「ところでさ、紗夜は好きなことかいるの?」
「いないかな。クラスの子あんまり知らないし。」
私は好きな人もいなければ、特技もない。明るくもないし、人気でもない。そんな中身の空っぽな私を好きになってくれる人なんていないだろう。
「私ね、同じクラスの山野君のことちょっと気になっているんだ。」
「誰?」
「知らないの?クラスの人知らなさすぎでしょ。結構、っていうかめちゃ有名なのに。」
「ごめん。」
私はクラスメイトとかに興味なんて言うものは向けたことがない。学校というところは学問を学ぶ場所。ただそのためだけに存在するところ。だから私は、友達など言うものは有彩が初めてだった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。授業が始まる。次の授業は体育。種目はバトミントン。きっとペアを組めだのなんだの言うだろう。私はいつも通り壁打ちでいい。
「ねえねえ、紗夜。私とペア組まない?」
「えっ、い、いいけど・・・。」
有彩が学校で話しかけてくるなんて珍しい。うまくできるかなんてわからない。今まで人と一緒に何かをしたことなんてあまりなかったから。いつも一人でやっていた。それが当たり前だった。存在が薄い。それが当たり前だった。誰も私に声をかけない。それが当たり前だった。けれど、今。この瞬間は違う。今はこの色野有彩が私、霞紗夜に声をかけ、バトミントンという一つのものを一緒にやった。私の人生で初めてペアを組む時にペアを組んだ。
放課後
今日は知らない人に掃除当番をなすりつけられた。掃除は特に嫌いではなかったため、別にいいのだけど。私が一人で掃除をしていると、誰かが私に声をかけてきた。
「一人?」
振り返るとそこには男の人がいた。
「えっと、はい。」
「大変そうだね。俺も手伝うよ。」
「結構です。」
私が即答したことに相手は少し不満に思ったのだろう。顔に出てた。
「いや、遠慮しなくてもいいよ。」
「いえ、一人の方が効率がいいので。」
私がそんなことを言ったため、相手は何も言えなかった。私は沈黙の中掃除をしていた。
だって、仕方ないじゃない。私はほかの人と何かするなんて慣れてないもの。緊張しながらやっていたらいつもの倍時間がかかることくらい誰にだって分かる。誰か。助けて。
私がそろそろ限界になった時。有彩の声がした。
「紗夜~。どこ~?」
私と男の人がその声に気を取られる。有彩は男の人の存在に気づき、こちらに向かってくる。
「莉緒君。紗夜知らない?」
「え、っと・・・」
言葉が出てこない。今、この状況を見たら、有彩は勘違いする可能性がある。
「どうしたの?」
有彩と目が合う。
「えっと、霞さんが一人で大変そうだったから、手伝おうと思って声かけたんだけど、断られちゃってね。」
このリア充。罪を私に擦り付けてくるなんて最低。確かに私は断った。けれど、あそこで受け入れていたら、私の心臓が持たない。
私が涙目になっていることに気づいたと思われる有彩は一回私に微笑み、男の人に話しかけた。
「なら、一緒に帰ろうよ。」
「えっ、でも」
「しつこいと嫌われちゃうよ?紗夜はいらないと思ったから断ったんだよ。それは、莉緒君じゃなくても、きっと同じだったと思うの。だから、ね?帰ろ。」
有彩には感心してばかりだ。私を助けつつ、私が悪くないように立ててくれている。そして、莉緒さんって人も傷つかないようにしている。やっぱり、有彩はすごいな。
有彩がうまいことどこかにやってくれて、変える前に私にウインクしていった。
「ただいま。」
私が帰りの挨拶をしたら、お母さんが走って出てきた。
「お、お帰り。」
今日は機嫌がいいな。
「お母さん、どうしたの?」
「ふふ、今日ね、お隣に引っ越ししてきた人がいるのよ。その人とよく合ってね。」
つまり話すのが楽しかっただけか。なんて単純なんだろう。
「紗夜も挨拶してらっしゃい。」
「分かった。」
挨拶だけして、すぐ帰ろ。
山野さんか。なんか、聞いたことある名前だな。どこで聞いた名前だっけ。
ピーンポーン
チャイムを鳴らす。
「はーい。少し待っててね。」
奥さんらしき人が慌てて出てくる。
「どちら様かな?」
「えっと、私お隣の霞紗夜って言います。」
「あら、静香ちゃんの娘さんね!」
とてもうれしそうにお隣さんは言う。
ってか、名前で、しかもいい年した大人に「ちゃん」って。
「は、はい。」
「その制服もしかして、海野学園?」
「はい。今年入学しました。」
「そうなの!私の息子もね、海野学園なの。しかもあなたと同じ学年なの。」
「そうなんですか。」
クラスメイトの名前もろくに覚えていないから、絶対知らない人。
「りーくん。挨拶しなさーい。」
同じ学校の人の前でそのあだ名で呼ぶのは絶対やめた方がいい。
「母さん!何回も言ってるけど、僕の名前は莉緒だ。そのあだ名そろ、そろ・・・。」
彼は最後まで言葉を言わなかった。いや、言えなかった。だって、山野さんの息子は今日の人だったのだから。
「えっ、」
「おま、どうして・・・。」
二人の動きが止まる。
「し、失礼しました。では。」
私は頭を下げて、走って家に帰った。
すっかり夜になっていて、真っ暗で、街灯がないと何も見えないくらい暗かった。空には雲がたくさん浮かんでいて、星は見えなかった。