ACT.3 先輩は俺を犯罪者にしたいのですか?
今回から後書きに次回予告を入れていきたいと思います。
サ○エさん的なノリで。
(次回予告を当てにするべからず)
「…こっち見んなよ」
反射的にそう言って、俺は即座にダンボールの蓋を閉めた。
あらぬものを見てしまった気がする。
やっぱり開けるんじゃなかったんだ。
俺はパンドラの箱でも開けてしまった!
何たることだ!人生最悪の失態!
…いや、もしかしたら。万が一にもだ。
見間違いだった、かもしれない。
いや、だって俺今日すんげぇ疲れてるし。幻覚見たっておかしくないし!
そうだ。きっとそうだ。
幾らあの先輩だって、ダンボールにあんなものを入れるわけが無い。
後輩の部屋を独断で引越しを行ったのだって、こんなのに比べたらミジンコだ。
きっと、先輩がいつかみたいにどっかの骨董品店で見っけてきた変てこな家具なんだよ。
全く、相変わらず買い物癖が悪い人だなぁ。
………。
よし、もう一回トライ。
一呼吸おいて、一気にダンボールの蓋を開ける。
「……だからこっち見んなって」
やはり、錯覚なんかじゃなかった。
幻覚なんかじゃなかった。
ダンボールの中にはパッと見、黒いもじゃもじゃした物があった。
しかし、それが物ではないことに気づかざるを得ない。
だって、
黒いもじゃもじゃした物の間から二つのくりっとした目がこっちを見ているんだから。
ついでに、白い二本の腕と足も覗いている。ようは体育座りの格好だ。
人だ。
明らかに人だ。
人がダンボールの中からやたら大きな目が俺を見つめている。
呆然とする俺を見つめるそいつは何かを言おうとしたのか、口を僅かに動かした。
俺は光の速さでダンボールの蓋を閉めた。
オーケー、オーケー。
ちょっと待ってくれ。
これ以上の混乱はノーサンキューだぜ。
ハハ、ダンボールで人って送れるもんなんだな!
おいちゃんビックリだ。
俺はその場にへたり込み失笑していたら、ポケットの携帯が鳴った。電話だ。
力なくそれを取り出し、開くと「翠川由希」の文字が液晶に表示されていた。
ようやく最強で、最凶で、最狂な黒幕の登場だった。
『よぉ、吃驚した?』
電話の向こう側から流れるその声をキッカケに、俺の何かが盛大に吹っ飛んだ。
「吃驚した?じゃないっすよ!!
何なんすかコレ!?超絶ドッキリですか!?
いや、違いますよね!先輩はいつも大真面目ですもんね!
今度は何ですか!?大真面目に人身売買ですか!?
何で荷物に混じって人がフツーにいるん――--
『これから貴方にバイトの説明をするわ』
無視された!遮られた!
…ん?バイト?
『内容はそこにいるうーちゃんの保護者役を務める事。
貴方は常に彼女の傍から離れるな。絶対に。離れたら殺す。
例外として大学、バイト中は離れてもOK。ただし、うーちゃんはその間外出禁止。
仕事に掛かる費用はすべて依頼者が負担するみたいだからどんどん使っちゃいなさい。
以上、説明終了。質問は無いわね。切るわ』
「待たんかい!!」
すると、電話の向こうであからさまに不機嫌そうな声が聞こえてきた。
『……敬語無しとは、良い度胸ね』
しまった。痛恨のミス!
『だから“彼女いない歴=年齢”なのよ』
「限りなく関係ない!…てか、知られてる!?」
俺と腹の虫との会話が盗聴された!?
『へぇ、図星だったんだ』
「…誘導尋問ですかコレは!!」
『まぁいいわ。何か質問あるんでしょう?』
「……まぁ、色々あり過ぎなんですけど、そのうーちゃんってもしかして、」
『ダンボール娘』
あー、ですよねぇ。
まさかそんなファンシーな呼び名があるとは。
苦笑していると、後ろでゴソッと音がした。
振り返って驚いた。
巨大なダンボールは倒れ、細かな発泡スチロールが散乱する中、
ダンボール娘はその黒く長い髪を垂らしながら、ダンボールから這い出てきた。
白い肌の手足に、黒髪からこちらを気だるく睨みつけてくる目。
その姿は見紛うことなき貞○の姿!
思わず携帯を落としそうになる。
「せ、先輩。聞いていいですか?」
『どうしたー?』
「あの方って生きてますよね?」
『あったりまえじゃないの。何かあったぁ?』
「いや、何かあったって訳じゃないんですけど…」
ホントに何なんだよ、あいつは。何かのそのそ這って行ってるし。
…つか、何処行く!?
「ちょっ、待たんかダンボール娘!」
慌ててダンボール娘に駆け寄り、肩を掴むとギロリと睨まれた。
洒落になんないくらい怖いから止めなさい。
すると、小さくだがダンボール娘の口が動いた。
「ダンボール娘、違う」
初めて聞いたその声は、この怖い外見に似合わず、高くて澄んだ声だった。
ちょっと以外で、正直驚いた。
しかし、呼び名を否定されてしまった。
では何と呼んだらいいのか。
「えーっと…じゃあ、うーちゃん?」
「うーちゃん、違う」
これも否定されてしまった。
こうなりゃ本人に聞くしかあるまいな。
「じゃあ、何て呼んだらよろしいですか?」
俺の問いにダンボール娘はぷいっとそっぽを向いてしまった。
ようは無視された。
俺は君のことを何て呼んだらいいんですか!?
『ちょっと!聞いてんの!?』
耳から少し離していた携帯電話からくぐもった先輩の声が聞こえてきた。
「あ、はい。どうしました?」
『どうしたじゃないよ。いきなり会話途切れやがって』
「すいません、色々と…」
『とにかくバイト紹介してあげたんだから感謝しなさい』
「はい、大変感謝しております」
『敬いなさい畏怖しなさい崇め奉りなさい』
「…それ噛まないで言えるって凄いですね」
『意外と言えるものよ』
「そんなもんですか」
『そんなもんよ。言ってみなさい』
「うひゃまいなさ―」
『駄目ね』
駄目でした。
自分でも予想外な所を噛みました。
『それはそうと、何かあったら私の携帯か、さっきの黒服の男に貰った電話番号に連絡しなさい』
「了解しました」
『連絡したら良い事起こるわよ』
起こるわけがねぇ。
『じゃ、またね』
そう言って先輩は電話を切った。
一息吐いて、さてダンボール娘はどこかと後ろを振り向くと、彼女は窓辺にいた。
じっと身じろぎもせず、ただ窓の外を見つめていた。
「何見てんの?」
ダンボール娘に近づいてそう声をかけるとまた睨まれた。
俺、嫌われるようなことしたかな。
ダンボール娘が気に入らなかったとかか?まぁ…ありえる。
「あの、何て呼んだらいいですか?」
「…………」
「じゃせめて姓名教えて下さい。ホント呼び方に困るんで」
「…はしば」
「ん?」
「羽柴雨雀」
あー、なるほど。だからうーちゃんですか。
「じゃ、羽柴さんでいいっすか?」
羽柴さんは無言だったが否定しなかったので、これは多分了承したということなんだろう。
しかし、今後羽柴さんとこの部屋で過すことになったのだが。
何となく犯罪臭がするのは俺だけだろうか。
to be continued...
次回予告!
篠井吉光です。
次回は羽柴さんの秘密が明かされる!?
…こともなく。
俺と羽柴さんとの間に進展が!?
…あるはずもなく。
先輩がデレる!?
…何てありえないわけで。
とりあえず、フツーの日常が繰り広げられるでしょうね、多分。