9 スキルと魔法具を調べるワン。
俺は、正直に話した解放感からか、ぐっすりと眠っていた。
そんな俺に気をつかったのか、黒姫と白姫は朝方早く起きて、狩に出掛けたようだ。
二人が帰ってきても寝ていたので、食事で起こされるまでは、気づかなかった。
「旦那様 起きて」
「ご主人様起きるワン」
「……今まで通りにクルルって呼んで欲しいけど」
「婚約者だから」
「婚約者だワン」
俺は、昨日二人に結婚について話してあった。
今、こんな状態だし東の魔法協会の件もある。
すべて片付いたら、結婚しようってね……だから婚約者って事みたいだ。
「う〜ん。結婚するまではクルルで頼む」
「わかった、旦那様」
「ハイですワン。ご主人様」
「…………」
まあいいや。クルルって呼んでもらえるように努力しよう。
黒姫と白姫が、狩ってきた獲物と採取してきた果物を食べる。
「これ美味しいな。なんの肉?」
「双頭鷲の肉」
「だワン」
肉は柔らかく、とても美味かった。まだ剥ぎ取ってない素材も含め、残りが外にあるとの事で、見に行った。
「これ、2人で狩ったの?」
「そうだ」
「そうワン」
俺の目の前には、3メートルはある双頭の鷲が3羽も転がっていた。
翼を広げたら、端から端までで10メートル以上はありそうだ。
白姫が、聖獣の姿に戻ったので、空中戦で仕留めたそうだ。見かけ倒しで以外と弱いと言うが。俺にはそうは思えないが……。
食事の後は、三人で剥ぎ取りをして素材をリュックにしまった。
リュックは、パンパンになったが暫くは食事に困らない量はあった。
食べ切れなければ、売ればいい。双頭鷲の素材は高額で取引されてるらしい。
……やっぱ弱く無いじゃん。
食事も済んだところで、俺は、二人に魔法具とスキルについて調べたいので、協力してもらう。
「旦那様のスキルから」
「それがいいワン」
…………。
「何か言うワン」
「何かって」
「私には、鑑定の魔法が無い。それに人が持っている能力を調べるには、そうとう上級の魔法のはず」
「ご主人様が、何か話してくれれば分かる事もあるかもワン」
そういえば、取扱説明書がどうとか、頭に浮かんだのを思い出した。どうやったら、見られるんだろう。頭を抱えていると。
「取扱説明書オンだワン」
「白姫?」
「真神様が、言ってるワン」
俺は、心の中で呟く。取扱説明書オン。
おっ! 頭の中に画像が浮かんできた。
なになに、八百万の加護 取扱説明書。
このスキルをセットできた、あなた、おめでとうございます。八百万の加護は、偉大なる四大神が協力して作成された、スーパーレアスキル。
伝説のスキルです。
このスキルは、取り外せません。
このスキルは、永久継続スキルです。
セットされた時から、発動し続けます。
八百万の加護は、その名の通り数多く存在する神々から、守ってもらえたり、力を授かったり、その他諸々の加護を受ける事ができます。
この世界に神は、森羅万象のごとく存在します。
小さな花の神から四大神のように、姿形は違えど全ての神から護られるでしょう。
但し、神は気まぐれで、正義の見方ではありません。善悪の判断もありません。
不在にしてる場合もあります。絶対無敵のスーパースキルでは無いことは、肝に命じて下さい。
※わがままな神ですが、上下関係には忠実です。厳しい身分制度がありますので、上位の神の加護を別で持つと効果的です。
※所属する神によっては、上位の加護の効果が出ない場合もあります。
さあ、八百万の加護を持つ者よ。神の加護を見方につけ、気ままに暮らすもよし、冒険に出るもよし、世界征服もお薦めです。
では。さようなら。
「……以上だ」
「すごいが……よくわからない」
「すごいワン」
とにかく、色々な神様が助けてくれるスキルらしい。
色々な神様は、ありがたいけど俺はあまり、神様の名前を知らないな〜。
「真神様から伝言ワン。食べかけリンゴの神様に話を聞けってワン」
「食べかけリンゴの神様?」
さすが、八百万。森羅万象だ。食べかけのリンゴにも神様がいらっしゃる。
「旦那様、交信してみたら?」
「ワン」
「うっうん……あの〜? 食べかけリンゴの神様〜。いらっしゃいませんか?」
シュウワワワー、なんだ? なんだ? あたりが霧で覆われる。
「呼んだ?」
目の前には、眼鏡をかけてジャケットを羽織った、ジーパン姿の男性が表れた。えっと、どうみても俺のいた世界の、あの方では?
「食べかけリンゴの神様でしょうか?」
「そうだよ、僕がS・ジョンブー・ズだよ」
「あのう……別の異世界でパソコン関係の会社を起業されてましたか?」
「この世界の住人が、よく知ってるね〜。そんな事もあったさ」
「…………」
「ところで? 僕に何か用事があるのでは?」
「あっ。すみません、実は八百万の加護ってスキルを手にいれたんですが、他の大勢の神様の、名前や詳細を知らないので、困ってまして」
「オーケーオーケー、ノープロブレムです」
なんか、インチキ外国人みたいになってきてるけど……。
「クルルさん。あなたが腕にはめている魔法具が、あるじゃないですか〜」
たしか、この腕時計食べかけリンゴのマークが入ってたな……。
腕にはめたまま、まだ使ってもいなかった。
「それは、僕が作った最高傑作! 食べかけリンゴウオッチで〜す。それがあれば、神様辞典全世界バージョン、世界的広辞苑、世界的翻訳機能、写真保管機能、通常ライフキット、その他、プリインストールで鑑定士マスター、通信マスターが入ってま〜す。電源を入れて下さい。毎日MPが10かかりますからね、注意してくださ〜い」
そういうと、彼は研究があるのでと帰って行った。
いつでも、食べかけリンゴウオッチで会えるからと……。
「使ってみるかな」
「はい、旦那様」
「ワン。ご主人様」
さっそく電源を入れてみた、液晶画面に食べかけリンゴの絵が浮かび上がる。
充電中……
充電完了。
「おおっ! 起動したぞ」
「時計」
「これで、時間が分かるワン」
液晶画面には、日付と時間が表示されている。
なんか、機能を使ってみようかと思い画面を触ってみた。
メニュー画面に変わった。色々と項目が出てるので、魔法の項目に移動してプリインストールされている。鑑定士マスターを使ってみる。
鑑定士マスターの項目を押すと、さらにメニューが出てきた。
【S級鑑定】
【S級DL】
【S級IS】
「黒姫……S級鑑定ってどんな、魔法か知ってる?」
「S級は……魔法の最上位」
「下位、上位の魔法を越えた魔法だワン」
黒姫先生が、壇上へ立つ。
魔法には下位級、中位級、上位級、最上位級が存在する。
ざっくり言うと、各等級により魔法の能力が変わる。
例えばだが、鑑定だが……下位級は、名前程度。中位級は、名前や詳細の少し。
上位級で、名前、詳細、弱点や秘密項目の少し。最上位級で、全ての解読。
こんな感じになる。これは品物でも動植物でも同じだ。
黒姫が、使う魔法のファイアで言うと、下位級で火の玉一発程度。
中位級で火の玉の連射。上位級で火の玉を敵全体に一発程度。最上位級で敵全体に火の玉の連射。
こんなとこかな。黒姫は下位級のファイアを取得している。
S級の魔法を使うには、S級魔法をダウンロードした魔法具と必要MPが足りていれば、誰でも使える。但しS級の魔法は、売ってないらしい……。
本来、S級とは伝説級の魔物が持っているとか、伝説級の迷宮に隠されてるとかで、話だけのレベルで、見た人はほとんどいないそうだ。MPも100以上の使用量が必用なので、使える人も限られ
るし……。ほぼいないと言っても、間違いじゃ無い。
この魔法具は伝説級だからね……うん。
それに、俺ってMPは999あるしね。大丈夫だろう。
さて何を鑑定しようかな?……。黒姫と目があった。
「旦那様、嫌です」
「まぁそう言わずに……いいではないか」
「ご主人……いやらしいワン」
完全拒否だ。強引に実行するのは、男としてどうだろうか。仕方ないので、双頭鷲の肉で試してみる。
ウオッチを肉に向けて、メニューから鑑定士マスターを選び……。
時計を触っても操作できるけど、頭で思っても操作できるようだ。
今、気がついたぜ。では……。
「〈鑑定〉」
【名称 双頭鷲の胸肉
素材レベルB
双頭鷲の胸の肉。柔らかくて美味。色々な料理に使える為人気があるが、空中からの攻撃が協力な為、狩り辛い。ハンターでも上級者でパーティーを組まないと討伐できない。
その為、市場に中々出回らない。
買取り、販売共に時価】
「こんな感じだね」
「旦那様、かっこいい」
「かっこいいワン」
八百万の加護は、色々試してみないと分からないし。
他の魔法具もいっぺんにだと、覚えきれないので、少しづつ調べる事にした。
「あっ、やってみたい機能があった。黒姫、リュックの、荷物を全部床に並べて」
「はい、旦那様」
俺は並べられた素材や装備品、薬、備品、下着……などをに、ウオッチを向けて写真保管機能を試した。ひとかたまりにされた、品々を写す。
カシャッ。シャッター音が切られた。
「成功だ」
「消えた」
「ワフ?」
ウオッチのメニューで写真保管ファイルの項目を押すと、さっき写した品物の写真が出てきた。しかもまとめて写したのに、品物ごとに分類されて写っている。
俺は、試しにダガーウルフの毛皮の写真を触り、個数を念じた。
「出た!」
「毛皮」
「すごいワン」
床には、ダガーウルフの毛皮が1枚だけある。
これは便利だ。もうリュックがパンパンとか気にしなくていい。
手ぶらで狩にも行ける。さすが食べかけリンゴの時計だ。
「旦那様、これはいったい?」
「ご主人様いったい? ワン」
「このウオッチの機能 写真保管だよ」
黒姫と白姫は、目を丸くしている。
「こんな魔法聞いたことない」
「ないワン」
どうやら、この世界には素材を保管しておく魔法や、アイテムは無いらしい。
マジックバッグとかアイテムボックスっていう、お約束の物はこの世界で聞いたことが無いと、二人が答えた。
「旦那様、 秘めておく」
「ご主人様、 内緒がいいワン」
「えっ? 便利じゃん」
二人は、そろって俺を見る。しかもジト目だ。
「使うなとは、言いません」
「内緒で使うワン。少しは手荷物見せとくワン」
「旦那様は、少しこの世界の常識も勉強する」
2人にクドクドと説明されてしまった……。尻に敷かれてる?
いやいや!これは心配されているんだ。
この世界で、通常存在しない物や魔法などを他人に見せれば、大騒ぎになる。
これは、俺がいた世界でも同じだ。
「俺がいた世界で、魔法を使ったら……大騒ぎの後は、捕まって、研究されて……か」
「こっちの世界も同じです。旦那様の常識は、ここでは非常識ってことも」
「みんなが怖がる。寂しいワン」
そうだね。ありがとうね。
そろそろ、出発しようと三人で片付けを始めた。といっても、ウオッチで三人の品物を保管した、残りの双頭鷲は剥ぎ取らず保管しておいた。 黒姫は装備の鞄を小さめの物にに変える。俺は……手
ぶらだ。東村で適当な鞄を買うつもりだ。
「白姫、サボってないの」
白姫が、ベッドのしたに、潜りこんで、尻尾をバタバタと振っている。
可愛いな〜。おもわず白姫のお尻をモフモフしてしまった。
ん? 白姫は何かくわえていた。花びら? 赤い花びらだ、俺は手に取ってみる。
ザーザーザー。
「くっ、 な……んだ? 罠か?」
頭の中へ流れ込んでくる映像……この風景は……。
――ベッドに横になる、男の子、俺がいる……クルルか。横にいる子は誰だろう? クルルの手を握りながら、祈りを捧げる女の子が見える――
頭の中の映像に、バリバリっとノイズが走り、次の映像が浮かぶ。
――また同じベッドでの光景だが……寝ている俺の体をタオルで、拭いてくれてる少女――
また、ノイズが入った……。
――今度は、女性が手を握っている。そこへ、兵隊みたいなのが入ってきて、女性は連れていかれてしまった。花の髪飾りが落ちて、兵隊が踏んで壊れた、ひとひらがベッドの下に――
ここで、映像が終わった……女の子も、少女も、女性も同一人物だった。同じ花の髪飾だったから、すぐに分かったけど、あの女性は誰なのだろう?
「旦那様、旦那様、どうした?」
黒姫が、俺を揺する……俺が花びらを触ってから、動かなくなったのを心配したようだ。
「あっ、ああ大丈夫だよ。ごめん、ごめん」
そう言って、俺は赤い花びらをウオッチで保管した。
その後もう少し小屋を調べたが、とくに変わったことはなかったので、改めて出発した。
白姫の背中の上でも、さっきの映像が気になったけど。どうしても心当たりがなかった。
自分が、この異世界に来て知り合った女性は……テラスとリリーノと黒姫、白姫だけだしな、あの女性は誰とも似ていなかったし。
クルル本人の知り合いってことかな……? 悩んでも仕方がない。
今すぐどうこうなる訳でもないか。
東村までは、後少しだ。
「旦那様、とと様はは様に」
「お嫁に下さいって言うワン」
「…………。」




