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67 幸せ……

「マスター。行ってきます」

「うん。無理はしないでねって……言うか……本当に行くの?」

「ん? なんだ今さらだな婿殿」


 オリヒメへの質問に割って入って来たのは信長だった。

 この修行については、だいぶ前に決定した事項であり、オリヒメからのたっての希望である。しかも地上に住む人間として神様からお願いされた案件である。こんな名誉な話はないのだし、二人とも随分と待たされていたこともあって、またも腰を折ろうとしているクルルにちょっとだけ、イラッときた信長だった。


「信長様には申訳ないのですけど……オリヒメは十分に強い子ですから」

「あのう……マスター。ごめんなさい……心配してくれてるんですよね?」

「当たり前だろ! 可愛い嫁さんが、蝦夷での武者修行だなんて心配するよ。しかも蝦夷は広大な面積の未開の土地なんだよ。いくらミーコの加護で有真国には魔物がでないって言ってもさ、何が起こ

るか分からないんだよ」

「それなら大丈夫です。信長様と一緒ですし、何かあればマスターとはテレパシーで連絡が取れますから」

「……はあ。やれやれ、オリヒメは頑固だね」

「私は、もう二度とあのような思いをクルル様にさせたくありません。強くなりたいんです!」


 オリヒメがクルルを見つめる。メラメラと燃える闘志が伝わってくる。


「分かったよ。とにかく……定期的な連絡はしてね」


 そう伝えると、クルルは信長の目も気にせずにオリヒメを両手で包み込むと軽くキスをした。


「はぅ。あうう……マスター。あたち幸せです」

「おいおい、俺の目の前で……ったくよう。黒姫と白姫の父親の前でするかね?」

「あっ。すみません」


 はっとしたクルルが、頭をポリポリしながら照れ笑いした。


「信長様、宜しくお願い致します」

「おう! 行ってくるぞ」

「マスター。行ってくきます」


 二人はそう言って深い森の中へと消えていった。


(二人とも無理しないでね)


 しばらく立ったまま森を見つめていたクルルの元に、スクナビコナが現れる。


 ニコニコとしながら指定席の右肩に座ると「行きましたか……」と耳元で呟いた。

「では、参りましようか。これから暫くは、私が護衛を致しますねクルル様」


 クルルの右の頬に軽くキスをするスクナビコナ。護衛という大義名分があるイチャコラも目的の一つなのだ。


 ◆◇◆◇


 ここは、有真国にある樹海の中に建てられた塔。

 クルルが、きらびやかな装飾の部屋でスヤスヤと眠る小さな命を見ながら顔をニヤケさせていた。

 高天ヶ原から始まった出産ラッシュ。それにはもちろんクルルツマーズも含まれていた。

 ミーコの一声で樹海の中に王都を作ろうって話が出たのだが、有真国は信長に貴族として任せる尾張を窓口としての街を計画しているので、樹海の中に都を作っても利用者はクルルの関係者に限定さ

れるから意味がなかったのだ。で、クルルの住居として建てられたのが……なぜか塔だった。


 まるでヨコハマにある有名なタワーを思わせるそれは、ミーコが編成した有真国における最高の職人? 職女神が、建てたのだ。

高さ296.33メートルの70階建、延床面積は約40万㎡におよぶ!

 これをあっさりと建てた……しかも尾張の作業と平行しながらだ。すでに尾張には、城が一つ建てられているし……普通に考えれば軌跡だが作ったのは女神達だから……いいのだろう。クルルは、忙しく赤ん坊の世話をする可愛いツマーズを見ながら


幸せを噛み締めていた。

(落ち着いたら、他国を巡らないとな。すでに魔法神の喜びによる生まれながらの洗礼は上手く機能をしているし、魔法協会へは解散を促す手紙を荒人神のクルルとして出してある。後は視察をしに行

くだけだ。他国の王にも手紙を出しなおしたし。これから忙しくなるな)


 すこし浮かない顔をしていたのだろうか……ミーコがそっとクルルの背中から腕を回してきた。


「ユウ。なにか悩み事かや?」

「ううん……違うよ。ただ……結局さ色々やっていくのに俺の正体というかさ……」

「荒人神であり、妾の主神であることを公表しなければ……ならなかった……そんなところかのう」

「ああ、まあ、当然だよね。どこの馬の骨とも分からん奴が、有真国の王を名乗り色々言ってもね」

「どうせ、いつかは分かることじゃ」

「そうだけどさ。おかげで東の国を影ながら救った救世主って……発表されてしまうし」

「くっくく。それはあれじゃな、ミライラがユウと早く結婚したかったのじゃな、退位してアメリアに王位を譲ってもじゃ、結婚相手がのう……ただのクルルでは国民も貴族も納得せんじゃろ。なら…

…」

「アメリア様の相手が救世主で荒人神のクルル様なら……大満足ですからね」

「……なんじゃ、スクナビコナか。せっかく妾が言うとこじゃったのに」

「ふふふ。ごめんなさいねミーコ様」

「いつもありがとうねスクナビコナ。赤ん坊が沢山いるから手伝いも大変でしょ」

「とんでもないです。すべてクルル様の子供なんですよ、お世話できて嬉しいですよ……でも落ち着いたら……私にも授けて下さいね」

「こほん、こほん! スクナビコナ……妾の前でイチャイチャするな」

「あら、クルルツマーズの間には上下関係はないですよ」

「……上下関係ではない。妾も、したくなるからじゃ」

「では、ご一緒に……」


 そんなイチャコラな時間だった。


 ◇◆◇◆


 オリヒメは、まだ信長と修行中だ。

 他国巡りには、連れて行かないと……絶対に泣くだろうし、赤ん坊達の事もある。

 しばらくはのんびりと過ごすことにしたクルルは、最近は少し早めに床に入る。


「この世界に来て……幸せではあるけど……俺がいた世界では、今はどうなってるのかな? まあ考えても仕方ないね」


 そう言うとクルルは、深い眠りに落ちて行った。


「ユ……ユウ……分かる? ……ユウマ」

「ん……うう……な……なんだ?」

「ユウマ、ユウマ! 目が覚めたのね」

「……えっ!? かっ、母さん?」

 ※※※

「母さんって? 誰の母さんだワン」

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