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6 クルルVSスラント

白姫に乗せてもらい、東の魔法協会を目指す俺。

今日の昼12:00までに……大聖堂で総帥宣言をしなければならない。正確な時間は分からないが、あと1時間はあるはずだ。白姫にも、俺の思いが伝わっているみたいで、かなりの速度で飛行してくれている。


「間に合う」

「くぅ〜ん」


 俺は黒姫の頭と、白姫のお腹を撫でる。


「大丈夫だよ。信じてる。それに、間に合わなくても二人のせいじゃないよ」


 俺1人なら、今頃ダガーウルフに殺されていた。もし生きていたとしても、滅びの森を抜けるなんて、できなかっただろう。


「お姉さんの頭を撫でるな」


 ああそうだった。俺は、姿は5歳児だったんだ。大人の女性に失礼な態度だったな。そろそろ着いた時の事も考えないとな……東の魔法協会を見たことも無いし、その中にある大聖堂なんて場所も分からない。迷子になっている時間などありはしないのだから。


「黒姫、大聖堂って分かる?」

「問題ない」


 それを聞いて安心した。これで大聖堂には、たどり着けそうだ。

リリーノの話だと、後継者である俺が来ようが、来まいが関係なく式典は進むらしい……来なければ12:00の時点で、副総帥のスラントが、総帥宣言をして式典は終了だ……後日人事の発表とか、総帥着任の祝いがあるくらいって言っていたな。

 遠くの方で、町らしき景色が見えてきた。地上の景色も草原から、石でできた道や、ポツポツと民家や畑が見える。この世界で初めての暮らしのある風景だった。


「もう少し低く飛べるか?」

「白姫、低くで」


 白姫に低く飛んでもらったのは、時間が知りたかったからだ、時計台とか何か時刻の分かる物が見たい。

 だが、この辺にそんな建物は無いみたいだ。時間なんか分からなくてもいいか、行けばいいんだよな。


 そうは言ってもだ、分かるなら知っておきたい。

 あきらめかけた時だった、大きな男の声が聞こえた。


「かあちゃん、飯にしよう。あと5分で昼だしよ〜」


 来た! ナイスだぜ、おっちゃん。


「黒ヒ」

「あと3分で着く」


 名前を言う俺を遮る黒姫、クールビュチィーだぜ。俺は心の中で秒読みを開始した、おっちゃんの後5分を信じてだ。1,2,3,4,5……12,13……。 多少の誤差はあるだろう。でも間に合うって考えるほうが前向きだよな。 98,99,100……。

白姫もがんばってくれている。地上の景色は、さっきとうって変っている。街になっている! かなり大きな街だ、目の前に大きな建物と、その横にドーム型の建物が見える。

 どっちもデカい! ドーム型の建物の前には、人だかりが見える。

「あれが大聖堂。着いた」


 たしかに目の前には、大聖堂がある。しかしだ、着陸して大聖堂の中に入る時間が無い。あの人ゴミをかき分けて入るのは不可能だ……192,193,194……おっちゃんタイマーの誤差を考えると、いよいよまずいな。


「白姫、特攻で」

「バウバウ」


 白姫が一度高く上昇したかと思ったら、急降下を始めた。キュイーン、ウインドウォールの障壁があっても息が苦しくなる。尻が、尻が浮く。まずい落ちそうだ……。


「クルル、しっかりつかまる」

「おっおう」

「もう少し下で」


 はっ、これはワザとじゃないぞ。またしても黒姫マウンテンに登頂してしまった、この両手。

 今に伝説の両手として……数多くのクライマーから絶賛されるだ

ろうな。


「白姫、尻尾で屋根を」


 屋根を? ……白姫さんは、屋根を破壊しましたとさ。ドカーン、

ガシャンガシャン……ゴゴゴゴゴ……。さすが白姫の尻尾だ、屋根

の一部が崩壊し、みごとな大穴をあけた。

 大聖堂にいた者たちは、大パニックだ。聖獣なんて見たことが無い者もいるだろう、魔物が攻めてきて、大神殿を破壊した構図ってとこだな。ゆいいつの救いは、破壊した屋根の下には、座席が無く、巨大なホールみたいになっていた、魔法協会員は周りの席に座っていた為に、人的被害は無いようだった。


 神の降臨を目的としていたのだろう、競技場に近い設計だったのが、よかったみたいだ。

 白姫が大聖堂のど真ん中に着陸する。屋根の残骸で酷い事になっているが、魔法で直せるんだろ? きっと?

 大聖堂は、さっきのパニックから一転して、静まりかえった。魔物が攻めてきて、大聖堂の中に降りたのだ、この後の展開に固唾をのむ。俺は白姫から降りると、奥の方に見える檀上めがけて走り出した。

 檀上の上には、机が置いてあり、壁にはいかにもな武器が飾ってあった。宣言する場所であろう。


「止まれ、止まらぬか!」


 俺の前に、槍を持った衛兵のような男たちが、走ってくる。20人はいるだろうか、俺はあっと言う間に男たちに捕えられた。俺の容姿が子供でも容赦は無い。大聖堂に攻めてきた魔物使いとでも思われたのであろう。


 黒姫と白姫も……大勢の衛兵に槍を向けられている。まさに、一

触即発の状況だ。


「きさまらー! このような事をして、ただですむと思うなよ」


 キンキン声が響く。赤いローブを纏った男が、他の者を従えて飛んでくる。男は俺の前に降りると、真っ赤な顔で掴みかかる。屋根の修理がどうだとか、ホコリでローブが汚れただとか、切れまくりだ。


「きさま、私を次期総帥のスラント様としっての攻撃かー」


 こいつが……スラントか!!


「次期って言った? あんた副総帥だろ。次期総帥は後継者が継ぐ

んだろ」


 スラントと周りの者達が一斉に笑い出した。


「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃー」


 汚い笑い方だ……こいつが副総帥で大丈夫なのか?


「この者達を牢獄へぶち込んでおけ」


 衛兵は一斉に、黒姫達へ襲いかかった。


「ワォーン」


 白姫が吠えた。


一瞬、体を回転して、尻尾を振りまわす……衛兵の槍の頭の部分だけが、ポロポロと落ちる。

 ザワザワザワ……会場が騒がしくなってきた。数人の衛兵が、恐

れをなして逃げ始める。


「にっ逃げろー」


 慌てふためきながら、逃げ始めた衛兵達に、火の玉が襲い掛かる。

スラントの取り巻きの魔法使い達だ。

 あいつ、味方を攻撃しやがった。


「逃げる事は許さんぞ、死ぬまで戦うのだ。平民どもよ」


 衛兵は、恐怖に引きつりながらも、渋々従っている……このまま

じゃ。死人が出る。行くっきゃないな。


「俺の名は、クルルシアン。クルルシアン・トェル・フリード。総帥の後継者だ」


 ザワザワ……ザワザワ……。


 俺は、衛兵を睨み付けた。5歳児の体でも、次期総帥だ。首を絞めていた手を外し、俺を降ろす。


「きさまー!! 何をしておるのだ。早く捕まえて叩き込め」


 俺の宣言が効いてるだのろうか? 衛兵たちは、どうすればいい

か迷っている感じだ。


「今何時だぁー?」


 俺は渾身の力を込めて怒鳴った……。


――しまった余計な事を言ったかも。もし12:00過ぎていたら


どうしよう。あいつ絶対に、時間切れは認めないとか言うタイプだぞ。しかしここはもう、引けないのだ――


「どうした! 何時なんだ?」


 ビックっとした衛兵が答える。


「11時58分であります」

 このドタバタが終わったら教えに行こう。おっちゃんの家へダメって言われても行くぞ。


 おっちゃんの時計10分進んでるぞってね……。


 俺は拳を振り上げた。何となくだよ……体小さいからね。目立た

ないとって思ったんだ。


「ここに宣言する。東の魔法神の信託に従って、クルルシアン・トェル・フリードは、亡き総帥リリアーノに代わり。総帥の地位に就く事を!」


 ドォーと会場から喚起の声がする。会場は大興奮だ。だが、観客の殆どが、事の次第を理解はしていない。結婚式に恋人を奪いに来た……そんなシチュエーションのサプライズぐらいにしか思ってないのだ。

 そんな中、火の玉が数発会場内で爆発した。またたくまに会場を沈黙が襲う。

 さすがに、みんなが、おかしいな? と思い始める。だが観客席

にまで、話している声は、なかなか聞こえない……大声とか発狂し

た声しか拾えなかったのだ……。


「俺は、認めんぞ。きさま本物のクルルシアンなのか、本物ならすでに成人しておろう。どうみても5歳ぐらいの、きさまが本物の訳がないわ!」


 真っ赤な顔は、血管が切れそうだ。会場からも賛同する声が聞こえ始めた。スラントは、魔法使いの1人を呼んで指示を出す。魔法使いが俺の前に来た。


「殺しわせぬ。本物だった時困るからな……。〈鑑定〉」


 魔法使いが呪文を唱えた。俺のホッペが熱くなってきた。


「ふむ。クルルシアン・トェル・フリード。男、23歳、MP999」


 魔法使いは俺のホッペを読み取った直後、固まってしまう。何かブツブツと言っている。


「なんだ、分かったなら教えろー」

「はい。クルルシアン様 本人です。嘘ではありません。スラント様もご存知の通り、この魔法で知った内容を偽ると、二度とこの魔法が使用できなくなります。ウィールスに侵されますから……。クルルシアン・トェル・フリード様 男性 23歳 マジっマジっクポポインとが、きゅうきゅうきゅう」

「あーん、きさま、なめてるのか、ふざけるな!!」

「も、申し訳ございません。マジックポイントは九百九十九であります」


「きゅうきゅうきゅう……」


 スラントの顔は真っ赤なままだ。何かブツブツ言っている。

  スラントは、クルルシアンの名前に聞き覚えがあった。たしか、MPが999の子供が東の魔法協会にいて、洗礼を受けずに幽閉されたと……昔に聞いたことがあったのだ……東の魔法神は不在。祝福持ちの、総帥リリーノは死んだ。クルルシアンは魔法が使えないのではないか……?そんな疑問がわいてきた。


「まだだ、宣言は分かった。その後の魔法を見せよ。嫌とは言わせんぞ。宣言者は、会場にいる会員達に、新総帥の魔法を見せるしきたりだ。はやく始めてもらえるかな?」


 まいったな。俺は頭をかきながら思った。聞いてないぞ……。チ

ラチラと黒姫を見る。黒姫は心配そうだ。でも大丈夫だ黒ちゃん、おっと黒姫さん。

 フフフフ。焦ることは無い。なぜなら俺は魔法使い。MP999の大物だ。魔法なんて楽勝だぜ、さっき覚えたのがあるだろ。ホーリーシャワーだ。黒姫の方を再度見ながら、目で合図する。ホーリーシャワーを決めますよってね……。


なんだろ黒姫が慌てだしたぞ。なんで顔をブンブン振ってるんだ…

…?

 はぁ〜ん、さては、総帥がホーリーシャワーってどうなのって事か? 問題ないぞ黒姫、ホーリーシャワーをお披露目した後で、言ってやるよ。戦う派手な魔法ばかりが、大事なのかってね。総帥の深い言葉にみんな感激の拍手って作戦さ。俺は、スラントや衛兵達に下がるよう命じた。黒姫は顔が青い。心配するなよ、可愛いな黒姫は。


「見せてやる。新総帥の魔法を!」


 俺は両手を広げた。それと同時に白姫に乗った黒姫が、会場の奥へ飛んだ。何しに行ったんだ? 特等席は、ここなのにな。


「ホーリーシャワー!」


 両手から、勢いよく水が出る。噴水のように。水芸で食べていけるかもしれないな。

 スラントも、取り巻きも、衛兵も、会場中が静まり返った。

 俺は得意げだ、新総帥のシャワーに声も出ないのか。


「クスクス」

「クックックッ」

「ぶひゃひゃひゃ〜。なんだそれは、ひゃーひゃっひゃっひゃ。笑いすぎで腹が痛いわ」

 

スラントの不気味な笑いが響いた。スラントハは疑問を確信へ変えた……。

 ドワーっと大歓声ならぬ、大爆笑が始まった。何がおきてるのか、全くわからない……普段は、魔物に使う魔法だから、水芸みたいなのが初めてだったのかな?お笑い協会の総帥も兼任しようかな。

 俺は、大爆笑の中、得意げにシャワーを出しまくった。

 腹をかかえ、涙目のスラントが、手をあげる。会場の笑いが、少しづつ消えていく。


「魔法を見せろといったのだがな。もちろん冗談なのだろう。さすがに新総帥になる方は、ユニークな方であるな。では、改めて魔法をお願いします。ホーリーシャワーは誰でも使える言霊の様なもの。魔法でないのは、みんな知っていますよ。誰でも使えるのだから」


 スラントの丁寧なしゃべりに、怒りは無かった。むしろ、化けの皮が剥がれましたねと言わんばかりだ。顔に余裕すら伺える。俺はと言えば、虫の息だ。まさかの展開だ、顔が熱い。逃げ出したい。

黒姫は知ってて……だから顔をブンブンふってたのか……ごめんよ。

 終わったな。燃え尽きたぜ。もっと勉強してから来るべきだった。

リリーノごめん。黒姫、白姫、おっちゃん。ごめんなさい……テラ

スもごめんね


――言っとかないと後でヤバそうだ――


「こやつは処刑せよ。女と魔物もだ、いやっ。女は生け捕りにしろムヒヒ匕」


 スラントが勝ち誇った顔で命令を出す。黒姫と白姫は檀上の付近にいるようで、追加の衛兵と、魔法使いが向かっていた。俺は……失敗したのか……。

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