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56 突入せよ、スラントスター城

 バタン、食堂のドアが開くと会議に参加していた者達がゾロゾロ

と退室する。

「では、明日の朝九時に庭に集合で宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しく頼みます」

 やや緊張した面持ちのガルムと信長である、それぞれは挨拶を済

ませると解散していく。

 ガルムはフレイを伴って出兵の準備をするべく地下へと向かう。

 信長は家臣達に指示を出した後に、千と娘二人での親子水入らず

を堪能すべく用意された部屋へと移動した。

 食堂では、侍女と執事長のニールが片づけに忙しく動いている。

 クルルは、一度ユウマ国へ帰還することにした明日の朝までに転

移で戻ってくればいいのだし、スラントや王都、他の領地での動き

も気になるのである、初芽からの情報を確認したかったのだ。

 オリヒメと転移で戻ると樹海の中にあるログハウスには、ミーコ

を筆頭にクルルツマーズが待っていた。

「ユウ、おかえり〜。どうだった?」

「ただいまミーコ、それに皆もご苦労様です」

『おかえりなさーい』

「初芽は戻ってるかな?」

「たしか戻ってきてから、ルルと水浴びに行っているよ」

「じゃあ、少し待ってからだね。それとスラント討伐に向かう人選

なんだけどね」


 クルルは、少し困ったような顔で、クルルツマーズ達を見た。

 今、ここにいる妻達は全て女神である、黒姫と白姫はフリード邸

にいるし、初芽とルルは水浴び中でオリヒメはクルルの右肩に座っ

ている。

「皆の気持ちはありがたいけど……」

「うん、分かってるよユウマ」

 女神を代表してなのか、クルルへの妻アピールなのかテラスが理

解をしめした。

 クルルの妻である女神達は、もちろんスラント討伐への参加を表

明しているのだが、神が人の争いごとに直接介入するのは問題では

ないかという意見から、クルルの守護紳であるオリヒメを除いて、

お留守番をしてもらうつもりだったのだ。

「ユウ、その考えで問題はないが……スラントを後ろで操っている、

そんな怪しさもある。念の為に天使達を護衛や通信役として連れて

いってほしい」

「天使? それって、頭に輪っかがあって、翼が生えているあの天

使かい?」

「フフフ、たしかにそれも天使だけどね、天使って神の使いだから

ね。常にそんな姿ばかりじゃないよ、とりあえず明日の出発の時に

は会えるように手配しておくよ」

「分かったありがとうね」

「ウフフ、ユウの妻なんだから。あ・た・り・ま・え」

 そう言ってクルルに抱きつくと、スッと唇を奪うミーコ……。

「ちょっと、抜け駆けはズルいわよ」

「霊峰富士の神でも、今は同じクルル様の妻ですからね。その唇は

皆の物ですよ」

 スクナビコナが、どさくさに紛れてクルルの左肩に座ると唇を重

ねる。

(はぁ……なんか女神って皆、独占欲が強いのかな……)

 そんな乙女バトルが開催されそうな樹海のログハウスの扉が開い

た「ただいま〜」入って来たのは、初芽とルルだった。

「助かった、じゃないや、初芽、ルルご苦労様でした。さっそく今

の状況を教えてくれるかな」

 女神様達を無視して、情報の整理を始めるクルルであった。

 初芽からの話を整理すると、スラントへの不満が溜り国民も元貴

族も暴動寸前まで話が動き始めているようだ、更にはスラントの魔

法部隊も貴族になれると思い仕えてきたが、嘘だったことで忠誠心

が下がっている。

 途中から参加していた兵士に至っては、何も貰えずに解雇されて

しまい、元々住んでいた領内にも帰れずに盗賊の様な危ない集団が

形成されつつあるとのことだ。

「あいつもバカだな〜。一気に沢山の贅沢を手に入れようとするか

らこうなったのが分からないのかな?」

「あるじは、スラントを庇うの?」

「いや、そうじゃないけどね。王様には相応しくないってことを再

認識したのさ」

「あるじ……」

「分かってるよ。今回は徹底的にやるよ」

「ルルも手伝うよ」


「うん、でも竜の姿になるのはダメだよ」

「……スラントが、ルルを悪い竜扱いする可能性?」

「そう、スラントを倒しても、また次の恐怖に怯えるのが人間さ。

俺も今回は表立っては登場しないつもりだよ。あくまでも国を救う

のは国民の思いと、昔から貴族が交わしてきた王との約束だよ。貴

族は国のピンチに身を挺して戦う義務があるからね。俺は人目につ

かない場所でスラントを討つよ……玉座の間なら国民はいないだろ

う」

 そんなクルルの決意に答えるかのように、月明かりが部屋の窓を

通して入ってきたのだった。

 ◇◆◇◆

 翌朝。

 フリード邸の庭に集まった戦士達。

 ガルム男爵、信長と千に家臣達とその部下達だ、かるく五百人は

いるが、スラントが王都に攻め込んだときは五万の大軍だったのだ

から多いとは言えないが、こっちの方は少数精鋭だ。

 細かな作戦は、昨日の会議で決まっている。

 ガルム、信長、千、正宗と部下で城内に潜入し、家康と部下達で

王都の兵を倒すのだ。

 信玄、謙信と部下達がフリード領の警護に回り、秀吉がクエスト

で募集したハンター達と王都を目指しながら、逃げてくるスラント

軍の兵士や落ちぶれて盗賊に身を落とした奴等を取り締まるのだ。

 全てを同時に上手くやらないと、最終的に国民が苦しむだけだし、

スラント討伐後にミライラを女王として東の国が復活する為には必

要なことだ。

「準備が整ったら、隣の人と手を繋いで下さい。最後の人は誰です

か?」

「あたちだワン」

「……なんで白姫なのさ、ダメだよ」

「なんでだワン?」

「昨日、説明したじゃん。家康さんと部下の者達で王都を担当する

って」

「そうだったワン、あたちは城内に潜入組だったワンね」

 テヘへと笑いながら、白姫が先頭の方へと移動してくるその背中

には、白兎、白蛇、白梟が乗っていた。

 聖獣白姫の愉快な仲間達かな? その程度の感覚でクルルは気に

もしなかった。

 白姫の天然おバカ行動を修正して、準備が整った一同が手と手を

繋いで長い列になる。

 総勢で二百人規模の列である、クルルは先頭で黒姫の手を握ると

「<転移の王>王都、城門付近」と唱えた。

 ピカピカ――――バビョーン。

「殿、無事に帰ってきてほしいでござる」

 そう呟いた秀吉の肩を謙信と信玄の二人がポンポンと叩き笑顔を

見せた。

「大丈夫だ、我々も与えられた使命を全うするぞ」

 三人も行動を開始するのであった。

 ◇◆◇◆

「はい、到着。ここで家康さんと部下の方々は降りてください」


「パパ、電車みたいですね」

「車掌さんだワン」

「コラコラ、俺がいた世界の話はしちゃダメっていったじゃんか」

「キューン、ゴメンワン」

「パパ、ごめんなさい」

 そんな会話を交わしているうちに、家康が部下を引き連れて王都

奪還へと行動を開始した。

「クルル殿、信長様、行ってまいりますぞ」

 クルルと信長が、頷くと家康は準備していた旗を掲げた……馬印

である。

 さらに、全員の背中には旗指物をさしてあり全ての旗には『フリ

ード領 ガルム男爵! スラント討伐軍』と書いてある。

 これにより、誰がスラント王を倒しに来たのかを宣伝することで

王都の人々に周知してもらう作戦なのだ。

 家康が行動を開始したのを確認したクルルが「<転移の王>城内

玉座の間」を唱える、ちまちまと行動する気は毛頭ないのだ、ここ

からは一気にケリをつけに行く。

 ピカピカ――――バビョーン。

 突如現れた五十名程の部隊に、玉座でふんぞり返っていたスラン

トがずっこけた。

「な、何者だ! ここをスラント王の玉座の間と知っての狼藉か?」

(時代劇みたいだな……スラント、それって死亡フラグだぞ)

「何を考えてるの旦那様?」

「ん? 考えてるように見えたかな、それより少しの間まかせても


いいかな?」

「問題ない。ミライラ達を頼みます旦那様」

「さすが、黒姫だね。行ってくるよ」

 さらにクルルは信長にもミライラとアメリアの救出を伝えると牢

屋に向けて転移した。

「お前が、スラントか。俺の名は信長だ、フリード領主ガルム男爵

の命で反乱軍首謀者を討伐にきた」

「スラント、降伏しろ! 今なら法の裁きを受ける機会を与えるこ

とができる」

 ガルムが、慈悲の心でスラントに問いかけた。

「はぁ? 誰が誰に物を言ってんだゴラァァァァァ」

 スラントが立ち上がり挨拶とばかりに魔法を放ってきた、火の玉

数発が信長とガルムに向けて飛んでくる、すかさず黒姫が立ち塞が

り魔法で応酬する。

「グレートマジックミサイル・ザ・フローズンフェニックス、出力

は弱め」

 そう唱えた黒姫の魔法具から、氷を纏ったフェニックスを模した

一発が発射された。

 出力を弱めで押さえているらしいが、それでこの大きさか? そ

んな一発である。

「な、なんだとおおおおおお」


 スラントの数発の火の玉を蹴散らしなおもスラント目がけてフェ

ニックスが向かっていく。

 ドドドドドド―ン、辺りが霧につつまれた。

 スラントの玉座の後ろに控えていた、魔法部隊数十人が放った火

の玉がギリギリのところで消滅させたのだ。

「ハァハァ、なんだお前の魔法は……古の伝説級魔法じゃねーかよ、

ん? あの時の小娘か?」

「旦那様を陥れた罪を償ってもらう」

「ふん、こしゃくな物言いを……俺の作った魔法部隊の真の恐怖を

味わいな」

 パチン! スラントが指を鳴らすと、玉座の間の上部のカーテン

が開かれ周りを囲んだ魔法使い達が現れた。

「おい、魔法部隊全員で攻撃しろ」

『はっ、<ヘルファイア>』

 玉座の間を囲む魔法使い達の魔法具から、ファイアよりも上位の

魔法が放たれた。

 その数は数百以上である。

「とと様、ガルム様を」

「わかっている、黒姫達で防げるか?」

「やってみる、ルル速度を落として」

「はい、黒ママ。<スーパースロー>」

 ルルが魔法具のスキルを使うと、向かってくるヘルファイアの速

度が低下したが、だからといって触れても言い訳ではない。

618

「白姫、スキルで耐性をあげて打ち払える?」

「<3776>なら耐えられると思うワン、でも数が多くて厳しい

ワン」

「……間に合わない……あるじ」

 数百発のヘルファイアが、黒姫達に襲いかかる――――ドオオオ

オオオン。

 とてつもない轟音に驚き、皆が耳を塞ぎしゃがみこんだ。

「熱いワン、痛いワン、熱いワン……あれ? 平気だワン」

 のたうち回る白姫の頭を撫でるクルルがそこに立っていた。

「旦那様」

「ご主人様」

「……あるじ」

「パパ」

「マスター、ギリギリでしたね」

「ああ、でもさすがだねマホミの加護がなければ危なかったな」

「旦那様、これはいったい」

「森羅万象の加護からマホミの<絶対的魔力障壁>を使ったから、

この空間はバリアの中ってことになる。魔法攻撃は絶対に当たらな

いよ」

「さすがだな、婿殿」

 信長がガルムの頭を庇いながら、ニヤッと笑った。


 ※※※

「旦那様、ばりあ? 以前も言ってた」

「バリアだワン、バーって防ぐリアなんだワンよ」

「…………」

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