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55 めんどくさい父親

「このおバカ白姫」

「なんだワン? バカじゃないワン、黒姫の言い方は酷いワン」

「あれほど急降下は禁止といっておいたのに……」

「扉を壊したのは、ゴメンだワン……だって着陸する時に目にゴミ

が入ったワン」

 玄関先でスッタモンダと喧嘩を始める二人……。

 そんな二人に信長が声をかけると、懐かしく聞き覚えのある父の

声に反応する黒姫と白姫。

「とと様、あっ! はは様もいる」

「とと様ワン、はは様ワン」

 喧嘩をやめて二人が走ってくる、信長は久しびりの娘との対面に

涙腺を緩めながら両手を差し出す……そんな信長の横をすり抜けて

二人は千に飛びついた。

「はは様、お元気でしたか?」

「はは様ワン、はは様ワン」

 そんな光景を見ながらあっけにとられていた兵士達が、ハッと我

に返ると気がつかれもしなかった事も含めて腹が立ったのだろう、

づかづかと二人に近づくき大声で怒鳴り散らした。

「なんだおめーらは?」

「あんた達こそ誰だワン?」


「聞いてびびるなよ! スラント王直属の魔法使いだ。妙な真似を

するなら殺すか……ら……な、グフッ」

 一瞬だった……黒姫が話途中の魔法使いの男の背後に回り込むと、

手刀を降り下ろしたのだ。

 あまりの早業に、動きを目で追えたのは信長と千ぐらいであった。

 それと同時に、白姫が残りの兵士二名を両足で踏んづけていた。

 手をパンパンとはたいている黒姫の横でニールが気絶した三人を

ロープでグルグル巻きにすると、装備品を全て剥ぎとった。

 もちろん、魔法具も奪い取ってある。

「黒姫、白姫……腕を上げたな」

「ふふふ、もう私では敵わないかしら……信長様もウカウカしてい

られませんね」

「まだまだ、負けわせんよ。娘に負けるなんてことになったら、そ

れこそ婿でももらって引退だな」

 信長が冗談まじりで腕を叩いている、そんな信長に娘二人が顔を

赤くして少し照れていた。

「とと様は、引退だワンね」

「……?」

「とと様、はは様、私も白姫も結婚しました」

「しましたワン」

「なに? なんだってええええ!?」

 床に両手を付いて倒れこんだ信長は、そのまま固まってしまった。

 ◇◆◇◆


「ガルム様、旦那様から手紙を預かってきました」

 黒姫が、クルルからの手紙を渡す……先程の玄関から皆で話がで

きる食堂へと場所を移したのだが、信長だけは固まって動かないの

でそのままだ。

 ガルムは、受け取った手紙を真剣な面持ちで目を通している、文

面に何が書いてあるのかを皆が固唾を飲んで見守っていた。

「……ふう……やはりこうなりますか……だが、これこそが東の国

を救う……」

「あなた、クルルの手紙には何が書かれていたのですか?」

 もう我慢できない……そんな顔のフレイが、ガルムに聞いてくる。

「クルル君からの、依頼なんだけどね。簡単に説明すると、この手

紙を読む頃には王都でスラントへの不満がピークを迎えているから、

スラント討伐隊を伴って進軍してくれとのことだ。討伐隊は、フリ

ード領からの特別クエストとしてハンターを雇えば大丈夫と書いて

あるんだが……ところで、信長様は? まだ玄関かな?」

 ガルムの問いかけに、千が「そうです……」と答え、呼んできま

すと食堂を出ていった。

 しばらくすると、顔色が悪いままの信長が、千に尻を叩かれなが

ら足を引きずるように入ってくる。

 ガルムも、そんな信長に同情しつつも今後のことを相談しなけれ

ばと声をかけようとしたタイミングに、良かったのか……悪かった

のか――――ピカッピカッと白い閃光がほとばしり、クルルが現れ

たのだ。

「旦那様」


「ご主人様」

「……婿殿か」

 ギロッと目を光らせて、クルルを睨む信長が腰から刀を抜く――

――――――キンキンキンキン! 金属同士が激しくぶつかる音が、

食堂に響く。

 信長の剣技を全てはじいてるのは、オリヒメのオリハルコンソー

ド達だ。

 そんなクルルに、信長が叫んだ。

「婿殿……いや、クルルよ、娘二人を嫁に出した覚えはないが」

「あなた! あれだけクルル様と結婚したら安泰だとか、孫の顔は

未だなのかとか言ってたくせに」

「う、うるさあああああい。黒姫も白姫も、嫁にはやらん、やらん

ったらやらん」

「…………」

 千が、溜息を吐くとクルルと信長に割って入ってきた。

「クルル様、ごめんなさいね」

「俺も報告してなかったし、すみません」

「いいえ、あなたと旅に出した時から分かっていたことです」

「……いやだよ、いやだよ、黒、白、ぐすん……パパの可愛い娘達」

 信長が千の肩に手を置くと、下がれとばかりに力をいれた。

「クルルよ、勝負だ。俺に勝てば結婚を認めよう」

「とと様」

「とと様ワン」

「……分かりました。信長様も一人の父親なんですね」


 信長は、刀を上段へ構えると円を描くように、ゆっくりと刀身を

動かし始めた。

「天魔六流、刀、奥義……丸い太陽」

 信長が回転させる刀からメラメラと炎が燃え盛る……まるで太陽

の様だ。

「オリヒメ、これは男と男の勝負だからね。手を出してはダメだよ」

「……うう、はい、マスター」

 クルルは、何かをブツブツと呟くと背中に装備してある魔法具≪

草薙の刀≫を抜いた。

 一度だけ、成長をしてからは体に変化のないクルルは、今だに十

二、十三歳ぐらいの身長しかなく、刀は引きずって歩いていたのだ

が邪魔なので背中に装備することにしたのだった。

≪エクスカリバー≫は白姫に貸したままなので、今クルルが装備し

てる魔法具は、食べかけリンゴウォッチと草薙の刀だけである。

 ちなみに、ヴィヴィアンとの関係が微妙な間柄になっているが、

魔法具は使えるみたいなので特に気にしないことにしている。

 さて、前置きが長くなったが信長とクルルの乙女二人をかけた戦

いが始まったのだ。

 ジリジリ……お互いが間合いを詰めると先に仕掛けたのは―――

―――――カキーン。

 信長だ! しかしクルルは冷静にその攻撃をはじいた。

 刀をグルグル回しながら、太陽が迫ってくるような信長の剣技。

 クルルは、向かってくる信長と距離を取りながら二、三回、縦と

横に刀を振ってみるが円を描く信長の刀に隙はなく、はじかれてし

まう。


 接近されれば、回転する刀に削られてしまうし、攻撃すれば刀が

回転してできた盾にはじかれる……無敵の丸い太陽だ。

「どうした、このまま距離を取って逃げたままか? それなら」

 ニヤリと笑った信長は、クルルを壁へと追い込んでいく。

 二人の男が、やんちゃに武器を振り回しても大丈夫なくらいの広

い食堂なのか? その疑問は早めに解消しておこう。

 すでに二人は、走り回りながら玄関を抜けて、庭へと戦場を移し

てあるので安心してほしい。

「誰に言ってるワン?」

「ん? 白姫どした」

「なんでもないワン」

 完全に庭の隅っこへとクルルを追い詰めた信長が、さらなる高速

回転で接近してきた。

 ――――――――――ドゴッ……ドサッ「ごふっ」……。

 地面に倒れたのは、信長だった。

「……まさかな、あれだけの高速回転する刀を躱して……俺の懐に

潜りこむとはな」

 そうクルルは、信長が刀を高速で回して盾にしていたのをくぐり

抜けたのだ、刀の回転は一秒間に五十回転……それだけ回せる信長

も達人だか、躱したクルルは神様レベルだ。

 ……まあ、半分は神様なんだが。

「ふふ、ふはははは、あーはっはははははああ、さすが婿殿だ。負

けた負けたああ」


 クルルが起こそうとして、差しのべた右手を握りながら、清々し

い……そんな顔で信長が笑っていた。

「黒姫と白姫を頼むぞ」

「はい」

 そんな二人を見ながら千は、やれやれとやっている。

「父親って、めんどくさい生物ですこと」

 そうは言っているが、笑顔で黒姫と白姫の頭を撫でている。

「あなた、満足しましたか? では、ガルム様からの相談と義理の

息子からの頼みを聞いて下さいましね」

「わかってるよ」

 信長は、千を伴って食堂へと向かうのだった。

 千の肩を借りながら歩く信長を見送ると、クルルが「ふぃぃ」と

息を漏らしてしゃがみこんだ。

 心配した黒姫と白姫が駆け寄ってくる。

「旦那様、大丈夫?」

「ご主人様、大丈夫かワン?」

 そんな愛くるしい二人の妻に、優しく微笑むと癒しの二人膝枕に

頭を乗せた。

「流石……信長様だな、八百万の加護からスキルを使っていなけれ

ば、俺のボロ負けだったよ」


「本当に危ない時は、私が動くつもりでしたが……マスターのあの

動きは神でした」

 オリヒメがクルルの胸元から、ヒョッコリと顔を出した。

「とと様、強かったね」

「うん、強かったワン」

「俺が使った加護のスキルは、戦いに関する神々から数種類と時間

に関する神々から数種類だ……戦いに特化した体に時を操り、やっ

とだったよ。二人のお父さんは、つえええよ」

「えへへ」

「えへへワン」

「そんな、お父さんには頑張ってもらいますかな」

 一息ついたクルルもまた、黒姫と白姫に肩を借りながら食堂へ歩

いて行くのだった。

 ※※※

「フフフ、めんどくさい信長様」

「はは様」

「なんか、うれしそうだワンね」

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