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54 暴君スラント王

クルルが、ミライラとアメリアと話をしてから数日が経過した。

 一度は高天原へ戻ったクルルだったが、地上とは時間の進み方が

違う空間の為ミーコに結界を張ってもらっていたが、さすがにずっ

とだとかなりの負担になるので、約束のダンス大会を急ぎ開催した

ら自国に帰ることにしたのだった。

「旦那様、こんな時にダンスなんて……賛成できない」

「たしかに、そうかもしれないけどね……いつまでもここにいる訳

にもいかないしね、約束だから」

 クルルが黒姫にウインクすると、納得いかない表情のまま黒姫は、

軽く溜息を吐いた。

(これも荒人神になったことでの弊害なのかもしれない……感情を

大きく出す人としての部分と、ビジネスライクのような淡々とした

感じな部分と二人の旦那様がいる……でも私はどんな事があっても

最後まで必ず傍にいる、絶対に!)

 そう心に誓う黒姫だった。

 ◇◆◇◆

 クルル達が、高天原でダンス大会をしているのと同じころ……。

 ここは、旧ブランガラン城……現在はスラントスター城の玉座の

間である。

 高級感漂う大きな椅子にふんぞり返っているのは、スラント王だ。


 目の前に、元親衛隊帳のゴルドス筆頭上級大臣が片膝をついて頭

を下げている。

「ゴルドスよ、各領主が集まるまで、後どの程度の日数がかかる?」

「はっ、すでに半数以上がここスラントスターへ到着しております、

全員集まるのは明日の夜かと」

「よし、明後日の十時だ。ここに全員を集めろ、ブヒャヒャヒャ、

貴族を丸ごと交代させてくれるわ」

「しかし、スラント王……このたび活躍した魔法部隊をそのまま城

と王都の警護につかせて、西や北の貴族を新たに迎えて配置すると

いうのは……いささか問題が生じるのではないでしょうか? 特に

魔法部隊には、東の国をスラント王が納めることになったあかつき

には、貴族の位を与え現領主と交代させる話になっておりましたが

……本当に、こんな対応でよろしいのでしょうか?」

「かまわん、文句のある奴は殺せ!」

「……しかし……この度の戦いで兵士として志願し戦ってきた者に

も恩賞も与えずに解雇するのも、問題かと」

「ゴルドスよ、王に意見するのか」

「あっ、いえ、けっしてそのような……」

「国は我が手中に収まった……この国をどうしようと俺の自由だ」

「……ですが、明後日に発表する税率の件もそうですが、まだ国民

は闇の被害から立ち直っておりません、このままでは飢えや争いが

絶えない国となってしまいます」

「ブヒャヒャヒャヒャ、そんなのは俺には関係ない、ギリギリで生

かしておけばいいのだ、しょせん金を貢ぐだけの存在よ、あいつら

には人間らしい生活など必要ない、全ては王であるスラントの為に

生きればいいのだからな、ブヒャヒャあああ、それより俺の好みそ

うな女を数人部屋へ連れてこい、今日はもう休むことにする」

「まだ、昼前ですぞ、いや、なんでもありません、すぐに用意致し

ます」


 ギロリと睨むスラントの眼差しに、まるでカエルのごとく震える

だけのゴルドスであった。

 ◇◆◇◆

 ザワザワと騒がしい……それもそのはずだ、スラントスター城の

玉座の間には、東の国の貴族である領主達が一同に会しているのだ

から。

 その中には、フリード領主であるガルム男爵の姿もあった。

 皆は急な呼び出しにも関わらず、王の為に急ぎ馳せ参じた……訳

ではなく、魔法使いと兵士によってなかば脅迫まがいな状況で強引

に連れて来られたのでる。

 実際、領主の中にはスラントが王になったことすら知らなかった

者もいるのだ、それほどに今回のスラントによる革命は、寝耳に水

と言ってもいいほどの早業だった。

(戦術参謀としての能力は非常に高いのに……心がダメすぎる……)

 大勢の貴族を前にして、今から重大発表を行うゴルドスは、溜息

をつきながらもスラント王が現れるのを待っていた。

 予定の時間をすぎてから一時間程度たったころだった、スラント

がやっと玉座の間に現れる。

 その身なりはどぎついと言ってしまってもいいであろう、それほ

どに派手な恰好で貴族達の前に姿を見せたのであった。

 スラントが玉座にふんぞり返ったのを確認してから、ゴルドスが

溜め息を一つ吐いた後に口を開いた。

「本日、お集まりの領主の皆様これよりスラント王より、お言葉が」

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 そこまで言った時だった、一人の貴族がふんんぞり返っているス

ラントに文句を言ってきたのだ。

「そこにいる横柄な態度を取っている者が王と聞いたのだが、私は

認めた覚えはないのだが」

 でっぷりと太った男は、けして強そうにはみえなかったが煌びや

かな洋服を身に纏り髭をはやした、いかにも貴族ですといった感じ

であった、男はギラギラとした目でスラントを睨んでいる。

 だが、スラントはそのままに姿勢を全く崩さずに右手に持ってい

た杖を真っ直ぐ男に向けた。

 ――――ドゴオオオオオンと爆音がうなり、高熱が広がった。

 プスプスと煙を立ち上らせながら黒焦げになったのは、文句を言

った男だけではなかった。

 周りにいた数人の貴族も巻き込んで焼失させてしまったのだ。

『ぎゃあああああ』

『助けてくれええええ』

 悲鳴と共に周囲にいた貴族が我先にと逃げ惑う、そんな中スラン

トの下卑た笑いが玉座の間に反響していた。

「ブヒャヒャヒャヒャあああ、誰に物を言っている、認めてもらう

必要などないのだ。俺がこの国スラントスターの王なのだからな、

文句がある奴はここで死ねばいい」

 そのスラントの吐いた言葉に、残っていた貴族たちは恐怖のあま

り皆が口を閉ざしたのであった。

 しばらく静寂につつまれたのだが、それを打ち壊すかのようにゴ

ルドスから貴族への今後の方針が伝えられた。


「それでは、スラント王からのお言葉を伝える。まず領主であり貴

族の任を解き、新しい領主の補佐として町民として暮らすこと。次

に納税の率を現在の五パーセントから三十パーセントに引き上げる、

今後は補佐約として領民などが反乱をおこさぬように責務をまっと

うせよ……新しい領主については、スラント王より貴族の位を授け

る儀式が終わり次第の配属となるであろう、それまでは各自が今ま

で住んでいた屋敷を出て行く為の準備期間とする、尚、これから町

民として生きていく者に骨董品などの財産は不要である、最低限の

生活用品以外は全て王へ献上すること、お前らが領へ戻る際に確認

者を数名ともなってもらう、今後は確認者の判断に従って荷物の整

理をするように……以上、おっともう一つ言い忘れていた、年齢が

二十歳以下の娘がいる者は、王へ献上すること……以上だ」

『ふざけるなあああああああ』

 玉座の間は貴族達の怒号が響き渡る空間と化してしまった。

 怒りに我を忘れた数名が、スラントめがけて走ってくる……が、

玉座の裏から現れた魔法部隊によってあっというまに足元を氷漬け

にされてしまい動けなくさせられてしまい、騒ぎを聞きつけてあら

われた兵士達によってタコ殴りにされてしまったのだ、立ったまま

意識を失っている。

 その後は悲鳴が聞こえる事もあったが、魔法部隊により鎮圧され

てしまい町民へと身分をおとした元貴族達は王都への滞在も許され

ずに各々が確認者を引き連れて帰っていったのだった。

 ◇◆◇◆

 そんな城内での騒ぎがあってから数日は経過している……。

 フリード領主の住まう屋敷では、フレイと娘のコロンが主の帰り

を待ちわびていた。


 その傍らには、信長と千の姿もあった。

 風の噂でスラントが王になったと聞いたのと、ガルムが城へ呼ば

れたのが同じぐらいという辺境ならではのタイムラグがあったので、

嘘か本当かも分からないままに魔法使いがやってきて領主であるガ

ルムを連れて行ってしまったのだ。

 東の村との交流を正式に結んだ際に、不測の事態があった場合に

は信長が領主代理として務めることを取り決めていたこともあり、

フリードの屋敷に滞在しているのであった。

 闇は消えはしたが、被害の爪痕はかなり大きく現在も東の村とフ

リード領では協力体制を維持している、全てが元に戻るまでには、

早くても三年以上はかかると言われている状況で、スラントに構っ

ている余裕などありはしないのだ。

 それだけに、今回のガルムが城に呼ばれた件は残る者の不安を一

気に煽る事になったのだ。

「フレイ様、少しお休みになったほうが……」

 窓辺に立ちすくんだままのフレイに、千が声をかけるが軽く微笑

むだけでその場を離れようとはしなかった。

 そんな重苦しい雰囲気の中、敷地の庭に大きな籠が降りてくる、

スラントの魔法部隊から派遣された確認者がガルムを連れて戻って

きたのだった。

 庭に着陸した籠の中には、ガルムと二名の兵士が座っていた、飛

行の魔法で運んできた魔法使いは疲労からか着陸が完了すると庭に

座りこんでしまった。

 兵士がガルムの背中に剣をちらつかせて玄関へと歩いてくる、フ

レイは窓からその光景を確認すると慌てて走り出した。

「あなた……あなたあああああ」


 その声を聞いた、信長達も急ぎフレイについて玄関へと走った。

 ガチャ、玄関の大きな扉が開くと兵士に背中を押されながらガル

ムが入ってきて笑顔を見せた。

「やあ、フレイただいま。コロンもいい子にしてたかな?」

「あなた」

「パパ」

 感動の親子の再開である、三人が仲良く抱き合おうとした時だ。

「おい、そんな暇はねーぞ」

「まずは、俺達に食事だ」

「はあ、はあ、食事と休憩する場所を用意しろ」

 ドカドカと入ってくる兵士と魔法使いに、若干キレ気味で信長が

答えた。

「なんだお前らは、何者かも分からんやつらにそこまで言われる覚

えはねーぞ」

「なんだゴラあああ、我々はスラント王直属の魔法部隊の兵だぞ」

「ああ、ん? だからなんだよ」

「きっ、きさまあああ」

「お待ち下さい、こちらの方々はスラント王の命で当家の財産を確

認にきたのですよ」

「……それは、真なのか? ガルム殿」

 信長の言葉に、ただ頷くだけのガルムだった。

(背中に剣を突きつけられてりゃ、そうなるわな……さて、どうす

るかな。ガルム殿と話をしたいのだがな)


「……確認者の方々に、お食事を準備してくださいな」

「はい、奥様」

 とっさのフレイの指示に執事長のニールが、了解しましたと頭を

下げると兵達を食堂へ案内する。

 少し気が緩んだのか、口元をニヤつかせながらも兵士は、ガルム

への剣を下ろさずに食堂へ一緒に移動しようとした時だった。

 ドカーンと大きな音がしたかと思うと、玄関の大きな扉が室内へ

と倒れてきた……。

 ドスーン、土埃が舞い上がり外の光が、室内にいくつかの線とな

って入ってた先に四つ足の生き物と犬耳を持つ女性が現れた! 太

陽の光が逆光となり黒いシルエットが浮かび上がる。

 ※※※

「正義の味方登場ワンか?」

「……はぁ」

「黒姫どうしたワン? お腹でも痛いワンか?」

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