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53 地下牢での友情

 ガチャガチャ、キィ、錆びて動きの悪くなった扉の開く音がする。

 ドカッ。

 蹴り飛ばされて牢に入って来たのは初芽だった。

「おとなしくしていろよ」

「…………」

 初芽を牢屋に連れてきた兵士が、その場を去ると牢の奥にいたミ

ライラとアメリアが、初芽に近づいてきた。

 二人ともに申し訳なさそうな顔をして、初芽の体を心配していた。

「初芽さん、でしたね」

「……はい」

「せっかく助けにきて頂いたのに……ごめんなさいね」

 ミライラは、腫れたままの顔で初芽に謝罪する。

「勝手にやったことです、気にしないで、それに二人には……ある

じへの恩もあります」

 それを聞いた、アメリアがクルルのその後を聞いてきたが、初芽

がその話を遮ると先に治療をしたいのでとミライラに向かって治癒

魔法を唱えた。

 初芽の唱えた治癒魔法は上位魔法の<アメール>である、一回で

ミライラの傷が全回復した。

 念の為にアメリアにも同じ魔法を唱えると、母の回復に喜んだア

メリアが初芽に抱き着ついて感謝の言葉を伝えたとたんに、今まで

我慢していたのであろう、ヒックヒックと声を漏らしながら涙をな

がした、初芽がアメリアの頭を優しく撫でると「もう大丈夫」と耳

元で囁いた。

 よほど安心したのだろう、アメリアのお腹がグウとなると三人は

フフフと笑いあった。

 アメリアは、恥ずかしかったのだろう、顔を赤くしている。

 初芽が、腰にぶら下げている巾着袋から非常食として用意してあ

る乾燥させた芋と竹筒の水筒を二人に渡した。

 たいした量ではなかったが、久しぶりの水分と食べ物を嬉しそう

に食べている二人を見て初芽はホッとして呟いた。

「……あるじの思った通りになったよ」

 そんな満足げの初芽にアメリアが、少し躊躇しながらも聞いてき

た内容は、捕まったあとのことだった。

 下品な笑いで初芽を部屋に連れてくるように命じたスラントが、

なにもせずに初芽を牢に入れるなど考えられなかったのだ、初芽が

酷いことをされていたとしたら、そう思うとアメリアにとっては心

が痛い……そんな気持ちで一杯だったのだ。

 初芽もアメリアの心配する気持ちに気づいたのだろう、全く問題

ないよと微笑んだ。

「あるじから、加護の力を借りたの」

 唐突に話す初芽に、二人は最初意味が分からなかった。

 あるじから借りた加護の力……? 初芽が城内に潜入する前に、

クルルが念の為にと初芽に加護を譲渡したのだ、譲渡といっても一

時的に貸すといったほうがいいかもしれないが、クルルのペンダン

トに込められている八百万の加護からクルルが選んだのは、女神ア

テナの加護の一つである<イージスの盾>だ。これを初芽の為に使

っておいたのだ、これによって初芽に触れることもできなかったス

ラントは、激怒したことにより投獄されたという訳だった。

 さすがは軍神アテナの加護、イージスの盾といったところだろう。

「……で、スラントは触れるたびにオーラのような膜にはじかれて、

ビリビリって……」

「では? あなたはスラントからは何もされていないのですか」

「うん」

「本当に?」

「うん」

 アメリアが、初芽に抱きつくと涙で濡れた頬をグリグリとこすり

つけ、安堵の表情で小さく微笑んだ。

 助けに来たのはクルル達の意思であり、アメリアやミライラから

の依頼ではないにしろ初芽にもしものことがあれば、しかも女性と

しての屈辱を味わうなんてことになったらと思うと、心配でたまら

なかったのだ。

 牢屋の中という暗い場所でやっと笑顔をが少し戻ってきた二人と

それを見つめる初芽……の懐から我慢できないと飛び出した小さな

女神が目の前に現れた。

「初芽ちゃんがすぐに呼んでくれないから、出てくるタイミングを

逃しちゃいました」

「……ごめん」

 目の前に現れたのはオリヒメだった、彼女はクルルが荒人神にな

ったことで自由に行動ができるようになっていたのだ。ただ、あく

までクルルの体から距離をおいても大丈夫になったというだけで、

本人に守護紳としても立場も気持ちも変わっていない、クルルが何

度もお願いしてやっと了解してくれたのでここにいるのだ。

「お久しぶりです、ミライラさん、アメリアさん」

『オリヒメ様』

 慌てて座礼をする二人にオリヒメも慌てて普通にして下さいと話

す。

「二人とも無事でよかったです、細かい話は懐の中で隠れながら聞

きました……マスターに頼まれて、もし二人を連れてこれない状況

なら護衛するように頼まれてますから安心して下さい」

「……うん」

「それじゃあ、一度マスターにも来てもらいますね」

 二人にクルルを呼ぶことを説明したオリヒメは、ブツブツと呟い

た。

 ――――パッ! 光の球体が突如現れる。

「お待たせ、色々あったみたいだけど大丈夫かな?」

「アメリア、無事か?」

 クルルが確認するよりも早く、黒姫がアメリアのそばへ駆け寄り、

大事はないかと心配していた。

「アメリア、スラントからは何もされていないか? 体は大丈夫か

?」

「ありがとう黒姫、私は大丈夫よ。少し殴られたりはしたけれど母

上様も私も初芽さんの癒し魔法で回復してもらえたわ……本当にあ

りがとう」

「取り込み中ごめんね」


 クルルが黒姫に話かけると、あっ、そんな顔で黒姫がクルルに謝

っていた。

 心配しての行動に文句もないクルルは、気にもしないで続けた。

「感動の再開を邪魔して申訳ない。俺の事は覚えているかな?」

 二人は、もちろんとばかりに頷いた。

「監視の兵士が来ると面倒だから、これからのことを話たいんだけ

どいいかな?」

 コクコクと頷く四人。

(初芽とオリヒメには、事前に伝えてあったのに……愛くるしいな

〜)

「まず、二人がいなくなると、スラントが国を破壊する恐れがある

ってことだけど……可能性は十分にあると思う、あの性格だからね。

そこで俺はオリヒメに二人の護衛をお願いしたんだ」

 オリヒメが頷く。

「ありがとうオリヒメ。今、強行して二人を連れてここをでるのは

俺の転移の力をつかえば可能だし、スラントを倒すのも俺の妻達が

いれば簡単なんだけど……問題は倒した後なんだよね」

「今のスラントを倒すのは、国民の怒りを買う可能性がある……そ

れが私とアメリアならなおの事……そういうことでしょうか?」

「その通りだよミライラ女王、今のあなたはテラスが隠れて闇をも

たらした存在として犯罪者扱いだ、そんな状況でスラントを倒して

も国民が納得しないだろうね、第二、第三のスラントが現れるだけ

だと思うんだ」

「では、どうしろいうのですか? このままではスラントによって

国民がひどい目にあいますわ」

「うん、そうだろうね……」

 アメリアは悔しさのあまり唇をかみしめている。

「あいつは必ずボロをだしてくる……しかも近いうちにだ、それを

待ってから叩く」

「それでは、国民が辛い思いをする可能性があるということになり

ますわ」

「うん、そうだろうね」

「そうだろうねって……あなたはふざけているのですか、クルルシ

アン」

「俺は真面目に話してるよ、いいかい良く聞くんだ。国民だって間

違えた選択をしたんだから、それなりの痛みを伴うべきだと俺は思

うよ、一度は君たちの事を嘘つきや悪魔呼ばわりをしたんだからね」

「ですが……」

 アメリアは項垂れてしまったが、その肩を抱きながらミライラが

クルルに激しい決意の眼差しを向けた。

「分かりました、私はあなたを信じますわ」

「母上様、そんな、それで宜しいのですか?」

「私だってこの結論は辛いです……ですが、スラントがこのまま王

として君臨する姿を想像すると……国民が痛みをともなう、そんな

次元の話では済まない……そんな気がしてなりません……」

「スラントに歯向かうなどをしなければ、大量に虐殺をするなどは

無いでしょうね、あいつは国民は金を持ってくる道具として考えて

いるでしょうから、金の生る木を切ってしまうことはしないでしょ

う」

「今は様子を見るしかないのですわね」

「辛いでしょうけど……ミライラ女王が、この国を救う為には今は

我慢して下さい、俺が全力でサポートします……それに必ず近いう

ちに動きがありますよ、それまではここで待っていて下さい」

 それだけ言うとクルルは、オリヒメの腰に食べかけリンゴウオッ

チをはめると三十分後に戻ってくると言い残してこの場を去った。

チャンピオンベルトのようになってしまったが、時計のサイズが変

えられないので仕方がなかった。

「では、色々と思うことはあるでしょうが……シャワーを浴びてス

ッキリしましょうね」

 オリヒメがクルルから借りた時計は、すでにサブ登録を済ませて

ある。

 黒姫が牢屋から通路を見張り、誰もこない事を確認すると、オリ

ヒメが時計からシャワーの様にお湯を放水した。

「温かい……ですわね……ありがとう……久しぶりに汗が流せます

わ」

 時計には、二人が数ヶ月は暮らしていけるように大量の食糧や水、

着替え、薬、シャワーなどに利用する湯などが保管されていたのだ。

 久しぶりに汚れを落とし、清潔な服に着替えることができた二人

だった。

「このジャージは、私が黒姫に貸したものですわね」

「返しにきた……あの時はありがとう」


「黒姫、初芽、オリヒメ様……ありがとうござます」

「ふふふ、気にしないでください。きっと白姫ならこんな時に、友

達だワン気にするなワンって言うのかな……皆、助けに行きたいっ

て言ってたんですよ」

「オリヒメ様……」

「……私達は友達……あっ、えっと、ミライラ様は友達の母上様」

「ふふふ、ありがとう初芽ちゃん」

 微笑ましい光景の中、再度転移で現れたクルルは、ミライラ、ア

メリア、そしてオリヒメを残して牢屋から高天原へと転移するので

あった。

 クルルが転移する瞬間にアメリアとミライラへ手渡した物があっ

た、二人はそれを両手の中で大切そうに握りしめると、テラスへと

祈りを捧げたのであった。

 二人が受け取った物とは、アマテラスが特別に信頼している者に

のみ授ける……ペンダントであった。

 ※※※

「よかったワン、初芽……乙女の危機だったワン」

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