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51 スラント進撃

「グヘへヘヘ、全軍に伝えるこれより王都攻略を開始する」

『うおおおおおおおおお』

「きさまら、よく聞くのだ、王都に突入後に魔法部隊によりブラン

ガラン城への奇襲を開始する。一般の兵達は王都の制圧を中心に行

動せよ、尚、逆らう者は殺せ! 商業区や住居区への強奪行為は禁

止とする。王都の全ての財産は、ブライ・ヴィ・ドーン王の物とな

るのだ。よいか、今後の強奪行為はブライ王への反逆とみなし、処

分の対象となる、よいな」

『うおおおおおおおおお』

「腐敗した王国を潰し、新しい風を入れるのだ、反抗する奴は全て

殺せ、我々が正義なのだ、正義に答えよ、さすれば新国王により多

大な恩賞が出るであろう」

『うおおおおーブライ様ー』

『うおおおおースラント総帥ー』

 スラントとブライが飛行部隊の籠に乗り込んだ。

「全軍とつげきいいいいいいー」

『うおおおおおおおお、いくぞおおおおおお』

 合同革命軍が進撃を開始した、スラント達を乗せた飛行部隊と魔

法部隊が先行する。

 残りの部隊は、街を制圧しながら城へと進む作戦なのだが、正直、

街の制圧部隊などスラントにしてみればどうでもいいのだった、城

さえ落としてしまえば王都など何とでもなる、それだの力を東の魔

法軍は持っているのだが、ブライへのカモフラージュとして兵士を


配置する必要もあったのだ。

 全てを東の魔法軍でおこなうと、スラントの企みがバレてしまう

し、王都までを安全に進行するには、盾の代わりになる兵士が必要

だったのだ……魔法部隊温存の為の捨駒である。

「スラントよ、まずは女王を討て! それを確認したらワシが新国

王の宣言をする、お前は混乱に乗じて城を制圧しろ、分かったな」

「はっ! かしこまりました」

 スラントに指示をだしたブライは、これから自分の物になる王国

の景色に酔いながら自慢の髭をさすっていた……その時だった。

 ――――グサッ……ドサッ。

「グフッ……きさまあああああ、血迷ったかスラント」

「ブライ、お前はもう用済みだ、新国王の夢を見ながら死ね、ブヒ

ャヒャヒャ」

 スラントが、懐から取り出した一本の矢をブライの背中に刺した

のだ、血を吹出しながら苦痛の顔を見せるブライに死の宣告をする

と、籠から突き落とした……。

「ぎゃああああああああ」

 ブライは遥か上空より落下した……音までは聞こえなかったが、

グシャグシャになったブライが石畳の上で血だらけになっているの

が小さく確認できた。

 スラントは、わざとらしく籠から身を少し乗り出して叫んだ。

「ブライ様ああああああ」


 籠から手をバタバタさせながら、いかにも落下したブライを掴み

損ねた感じをだしている。

「ブライ様ああああ、必ずやこの革命を成功させてみせますぞ。ブ

ライ様のご命令通りに私スラントが王として、この国と正義を守っ

てみせます」

 わざと大声でスラントが叫ぶと、兵士達からは弔い合戦だと騒ぐ

声が広がっていく。

 まさに一石二鳥とはこのことだ、スラントは士気の上がった兵士

と王への道を手にいれたのだった。

『ブライ様の仇をとり、スラント総帥を王にするのだああああああ

あ』

『うおおおおおおお』

『抵抗する奴は、皆殺しだああああ』

『女はスラント王へ差し出すと、いい金になるぞおおおおおお』

 ブライが殺された悲しみで兵が……なんてこともなく、すぐに次

の有力者への忠誠を誓う連中……。

 おいしい思いができれば、王など誰でもかまわないのだろう。

 王都の制圧は時間の問題だ、あとはスラントの魔法部隊が城を攻

め落とすだけだった。

 城を守る近衛兵と魔法部隊が交戦を開始した、城にも多少は魔法

使いがおり防衛の為に戦っているが、圧倒的に数が違うのだ。

 城の魔法使いが魔法で攻撃しても、スラントの魔法部隊はその十

倍の戦力の魔法で応戦するのだ……あっというまに、城内の殆どが

制圧されてしまったのだった。

「ぶひゃひゃ、女王と姫を探せ! 城内にいる女は全て捕らえて連

れてこい。男は全て殺せ」

 スラントの欲にまみれた命令がとぶ。

 だが、探す間もなくミライラ女王とアメリア姫がスラントの前に

姿を現した。

 アメリアのを初めて見たスラントは、それはそれは下品な目でな

めまわすように観察していた。

「ブヒャヒャ、護衛もつけづに自ら殺されにきましたかな?」

「あなたが、指揮官のスラントですね……」

「おい! クソアマが人の名前を呼び捨てにしてんじゃねーぞ」

「なっ、女王にそのような口のききかたをするなんて、許せません

わ」

「これはこれは、アメリア姫……いや、我が妃、アメリアよ」

「私は、あなたの様な者と結婚した覚えはございませんわ」

「……おい、お前ら状況を考えろよ、今すぐここで殺しても構わん

のだぞ」

 スラントが、二人に睨みをきかせながら付け加える。

「この城ごと街もすべて吹き飛ばしてやろうか、俺様の魔法部隊な

ら一瞬で灰にできるんだぞ」

 項垂れる女王と姫……。

(ブヒャヒャ、もう一息だな)

「お前らが降伏して俺様の女になるなら、この国の民の命は考えて

やってもいいぞ」

「なっ、くっ……なんて卑劣な」


「女王様……落ち着いてください、お怒りは判断を狂わせますわ」

 なにかいい方法はないのか……必死に二人で答えを探す……だが

スラントは時間を与えない!

「ごらーああああ、聞いてんのかあああ、このクソアマどもがああ

ああ、全て殺すって言ってんだよ」

「…………」

「……分かりました、降伏しましょう、ですからどうかこれ以上は

国民を傷つけないで下さい」

「ブヒャヒャヒャヒャああああああ」

 スラントは、傍に控えてい兵に女王と姫を地下の牢屋に閉じ込め

ておくように指示をだし、ゴルドスを呼んだ。

「ゴルドス、女王の降伏を王都中に流すんだ、兵どもは警戒をしな

がら待機を指示しろ」

「はっ」

「城内を完全に制圧するまでに、どれぐらいかかる?」

「女王の降伏を伝え、降伏勧告をしていけば五日もあれば」

「おそい、三日でやれ」

「はっ」

「三日後に女王から国民に降伏を伝えさせ、俺を王へ指名させる…

…ブヒャ、本当ならすぐにでも楽しみたいが、結婚までは我慢して

おこう……ブヒャヒャ、ゴルドスよ」

「はっ」

「玉座に案内しろ」

「はっ」

「玉座にて、今後のお楽しみでも考えるとするか……ブヒャヒャヒ

ャヒャああああああ」


(王になったのだ、これからは好きな時に好きなことを好きなだけ

してやる、ブヒャヒャヒャヒャあああ)

 ゴルドスは、スラントを玉座の間に案内するのだった……移動す

るスラントの顔は緩みっぱなしだった。

 ミライラとアメリアは、下劣極まりない新王のスラントに怒りの

念を抱きながらも、自分たちの不甲斐なさに頭を垂れて涙したまま

兵士に連れられ、地下牢へ閉じ込められたのだった。

(アマテラス様……どうか、ご加護を……お助け下さい)

 だが非情にも、この時のテラスはお隠れの最中で、アメリアの声

は届いていないのだった。

 アメリアの声も届かないままに三日という時間が過ぎると、城内

も王都も全ての制圧が完了した。

 スラントに呼ばれたミライラとアメリアは両手を鎖で縛られ、鉄

球を引きずりながら国民の前で謝罪をするように命令が下ったのだ。

 王都の一番大きな広場に急遽用意された舞台の上に一際目立つ大

きな椅子に座っているスラント……。

 その前に連行された二人に、国民からの罵倒が響き渡る。

 無能な王族の為に、アマテラスオオミカミがお怒りになり東の国

は闇に包まれたのだ。

 それを救うべく現れたのが救世主スラントであり、新王になる男

なのである……そういうビラが大量に撒かれていたのだった。

 スラントによる、情報操作は完璧だった、今やミライラとアメリ

アに情けをかける国民はいないのだ。

『無能な女王は死刑にしろー』

『なにがアマテラスオオミカミ様の巫女だー、この嘘つきアメリア

あああああ』

 大騒ぎの国民に静まるように手で合図を出すと、スラントが立ち

上がり舞台の前に出た。

「落ち着くのです国民よ、すでに悪の権化である女王と巫女を語っ

た嘘つき姫は捕えました」

『うおおおおおお、スラント様ああああ』

『スラント王ばんざーああああい』

「こほん、皆さんお静かに……先に逃亡した王は北の国に潜伏して

いる様ですが、必ずや私が捕えてみせます、私は悪い奴が許せない

のです」

『スラント様ああ、スラント様ああ、正義の勇者スラント王ばんざ

ーい』

「では、この罪深き女王には王位を放棄してもらい、罪を償うべく

地下牢に閉じ込めておきましょう、すぐに処刑したいところですが、

まずはこの国の闇を払い、飢餓から国民を救わなければなりません、

犯罪者の処刑はその後でしょう」

(ブヒャヒャー、殺すかよ、こんないい女をよ)

「おい、はやく言えよ」

 スラントが、ミライラを蹴り倒し低い声で怒鳴った。

「うっうう、私、うう、ミライラ・イーストクラウン・ブランガラ

ンは、王位を放棄しスラント様へお譲りする事を、ううう、ここに

……うう」

「はやく誓いをたてろや、このクソアマが」


 スラントが、ミライラめがけて何度も何度も蹴りを入れる。

 その光景を見ていた人たちがザワつき始めた。

 スラントがそれに気づいたようで、ニコニコとやさしい笑みを見

せている。

「この大罪人は、悪魔に取りつかれているのです。罪は償ってもら

いますが、悪魔には出ていってもらおうと思いましてな、こうして

祓いっているのですよ」

「さすがスラント様だ、東の魔法協会総帥は伊達じゃないねー、悪

魔祓いもできるのですね」

 さくら、として仕込まれた者が、わざと大きな声で言ったとたん。

『うおおおおおお』

『さすがスラント王』

 その声を聞いて完全に心が折れてしまったミライラは、あっさり

と誓いをたてると、うずくまったまま動かなくなってしまった……

アメリアがそんな母に覆いかぶさった。

「ここに誓いはたてられました、私スラントが新しい王として、皆

様と共に歩んで行きたいと思っております」

『王様あああああ』

『こっちむいてえええええ』

『きゃああああ、すてきいいいい』

『ミライラあああ、牢屋で反省しろやああああ』

『アメリアあああ、二度と嘘つくんじゃねーぞ』

『スラント様あああ、この大罪人は死刑をおおおおおお』

 スラントは、国民に手を振ると笑顔を振りまいていたその時だっ

た……。

 パアアアアっと辺り一面に太陽の光が差し込むと、闇が消え暖か

な日差しに包まれたのだ。

 偶然にも、本当に偶然にもスラントが新王になったのと、テラス

のお隠れが終了したのが重なったのだった。

 スラント……この男には何か強運の加護でもあるのだろうか? 

まさにスラントにとっては最高の瞬間がやってきたのだ。

 わざとらしく、天に両手をあげて何度も深呼吸をするスラント、

そしてガクッと膝を落とすと疲労感一杯の顔を向けて叫んだ。

「私の祈りと行動がアマテラス様に通じたのでしょう……きっと」

 きっとの部分は聞こえていないと言ってもいいだろう、天罰が下

らないギリギリの嘘だ。

 それに、テラスは出てたばかりだからきっと気づいていないだろ

う、さすがにスラントもなんで突然に闇が消え、太陽が降り注いだ

のかなんて知らないのだから、ギリギリの芝居をしたのだ。

 だが、効果は抜群だったようだ、ここに集まった人々は奇跡を見

てしまったと勘違いしているのだから……。

 きっと数日もすれば、東の国ではこの噂で持ちきりになるであろ

う。

 スラントは、あえてこれ以上は語らずに、ぐったりした感じを見

せ、兵士に運ばれてこの場を後にしたのだ。

『スラント様あああああ』

『スラント様は、無事なのですかああああ?』

 喜びの歓声と、スラントを心配した悲鳴で騒然としていたが、後

をまかされたゴルドスが、人々に落ち着くように言うと、今後の新

王国についての説明を始めた。


 このタイミングで、ミライラとアメリアも兵士達に地下牢へと連

れて行かれたのだった。

「本日この時をもって、ブランガラン国は消滅した。新しい国名を

スラントスターとする。新国王は、スラント・イーストクラウン・

スラントスターとして、皆の幸せの為に生きると仰せだ」

『うおおおおおおお』

 今後の政策などについては、近いうちに発表があると説明しゴル

ドスも城へと去っていった。

 王都では、新王の就任と新王国のお祝いと闇が消えアマテラスオ

オミカミが戻ったことをお祝いする祭りが催されたのだった。

 闇から解放されたことに喜んだ人々は、これから起こるスラント

の闇に苦しめられることなど知る由もなかったのであった。

 ※※※

「スラント……王様になったワンね」

「あいつの強運って加護なの?」

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