49 テラスを引っ張りだすぞ
「それでは、行ってみようかな。皆で手をつないでくれ」
『はーい』
すごくいい返事のクルルツマーズを確認してからクルルがスキルを
発動させた。
「いくぞ〈転移の王〉俺達を天岩戸の前に転移だ!」
――――シュパーン! 少し息苦しさがあるのは、高速で移動して
いるからなのだろうか?
だが、そんな息苦しさも本当に一瞬だった、まさに瞬間移動だ……。
辿り着いた場所は……川の流れる音がする……辺りを見渡すと何や
らたくさんの人影のようなものが視界に入ってきた。
「ものすごい人数がいるけど……あれって全員、神様かな?」
クルルが川沿いで集まっている神々を見ながらミーコに問いかけた。
「そうみたいだね。しかしこれはほどとはね……東のエリアの神が
全員いるんじゃないの?」
「あっ! マスターあの集団にスクナビコナ様の気配がします」
「うん、それは俺も感じたよ……とにかく行ってみようか」
ミーコとオリヒメがクルルに頷くと、黒姫達もそれに従った。
人だかりというか、神だかり? へ歩いていくと近づいてきたクル
ルに気がついたのか一斉に神々がこちらを向いた。
スクナビコナもそれに気づき、あっ! そんな顔をして駆け寄って
きた。
「クルル様……よかった……あの氷の塊から抜け出せたのですね」
「ああ、心配かけてしまったかな?」
「……私のほうこそ……申し訳ございません、クルル様があんな状
況だっていうのに、お力になれずに」
スクナビコナは、申し訳なさそうに、うなだれていたがしまったが、
クルルが気にしないでと頭を撫でた。
テラスが岩戸に隠れた状況で、色々と忙しかったであろう……クル
ルに構っていられなかったのも当然なのだから。
「それよりも、状況はどうなのテラスは出てきそう?」
「……なにも変わっていません……今、どうしたらテラス様が出て
きて下さるかを話していたのです」
「……そうだったの」
「ですが、なかなかいい案がでてこなくて困っていた所に、クルル
様が現れたのですよ」
スクナビコナは、クルルに会えて少しだけホッとしたのであろう、
少しだけほんの少しだけ微笑んだのだった。
「クルル様なにか名案はございませんか?」
その問いに、うーんと悩むクルルであったがもしかしたらと思うこ
ともあった。
ただ、自分が前の世界にいた時の神話だ……同じ効果があるとも限
らないので少し慎重になっていたが一応、話してみるかと思った矢
先だった。
「スクナビコナ様、こやつはいったい何者ですか? それに……な
ぜ人が高天原に来ているのだ」
「この方はクルルシアン様、テラス様より八百万の加護を授かった
お方です」
「……こいつがクルルシアンですか、アマテラス様をたぶらかし、
天岩戸にお隠れになった元凶ですな」
「失礼な事を言ってはなりまんよ」
スクナビコナが、クルルを見てごめんなさいと謝ってくる、クルル
はもちろんそんな事は気にもしていない。
それどころか、当たっているかもなんて考えてもいた。
「謝らないでよ、こんなのいつもの事だしさ……それに俺……もう
八百万の加護は持ってないんだよ」
「えっ!?」
ニコニコするクルルであったが、ビックリしたスクナビコナは目を
丸くして固まっていた。
そんな二人の会話に先ほど文句を言ってきた神が割り込んできた。
「アマテラス様のお隠れがこれ以上に酷くなる前に、私が成敗しま
しょう」
スクナビコナが止めようとするよりも早く、クルルに対して邪悪な
力を飛ばしてきた。
「……まずいな、スクナビコナやめさせて! 一回や二回なら大丈
夫だけどそれ以上は、責任が持てないよ」
クルルの言っている意味を理解できてないスクナビコナは、戦いを
止めるという意味で行動をおこしていたが、すでに遅かったのだっ
た……三回目の邪悪な力を投げつけた時だった。
上空に巨大な黒い塊が現れたとたん、クルルに攻撃をしていた神に
雷光が落ちたのだった。
ドドドドーン……激しい稲光と爆音が直撃した後には何も残ってい
なかった。
「……あー、遅かったか」
残念そうな顔で焦げた地面を見つめるクルルにスクナビコナがやっ
と気づいたようだ……。
慌ててクルルの前に座ると深々と礼をする……その姿をみた神々が
驚きのあまりザワついた。
スクナビコナに、数人の神が駆け寄ってくるとジッとクルルに視線
を送る。
「ただテラスのお気に入りじゃないのね」
「……そんなレベルの方ではないよ、ツク」
「……この方はいったい……? それにビコちゃんが座礼って……」
スクナビコナの傍で話している三人……ツクヨミ、スサノオ、オオ
クニヌシであった。
クルルも三人の神々しさがハンパないのを感じて大物だとすぐに理
解した。
挨拶をしないと……そんなクルルをミーコが遮る。
「久しいね、っと言ってもかなり前の事だし……あんた達は代替わ
りしてるみたいだからね」
ミーコがなんか神様みたいな雰囲気で話していて、クルルには新鮮
な気分だった。
「ツクヨミ、スサノオ、オオクニヌシで合ってるかな?」
名前を呼ばれた三人はミーコの神様レベルが自分達の何倍も上であ
り遥か上位の存在ということは分かるがいったい誰なのかと怪訝な
顔をしていた。
「オオクニヌシ様、私の予想が間違ってなければ……こちらは、霊
峰富士の神様だと思います」
『うへっー!』
スクナビコナの予想を聞いて驚く三人にミーコがケラケラと笑いな
がら話す。
「しかたないね、私に会ったことがあるのは初代の連中だけだしね、
いくら神でも知らないものは知らないでしょ」
すでに申し訳ございませんと謝罪をしている三人と今だに座礼中の
スクナビコナに普通にするように諭すミーコだった。
(ミーコって……本物の霊峰富士の神なんだなー……当たり前か)
(ミーコ様、さすがです。全ての神の頂点であり神々の母ともいえ
る存在……そしてマスターの妻)
(おねーたん……)
(みなまで言うな……いもうとよ)
(……ミーコ)
(ミーママかっこいい……)
「ユウは私の主神で、一緒にいる者たちは全員がユウでありクルル
しゅじんの妻だからね、もしも不当な扱いをすれば私が絶対に許さないよ」
(なんかまた口調が変わってるぞ)
ミーコを前にして集まっていた神々が、深々と頭を下げている、ミ
ーコも調子に乗って返事は? とか言ってるし。
『ハハーッ、霊峰富士の神様』
天岩戸の前は、一風変わった雰囲気に包まれていた……。
さて、挨拶も終わったしクルルの存在も立場も伝わったところで、
本題に入らなければならない。
クルルは、スクナビコナ達に上手くいくかは分からないと釘を刺し
たうえで、テラスに岩戸を開けさせる方法を提案した。
「この作戦が成功するか分からないけど……岩戸の前でダンス大会
を開催します」
『はいー? ダンス?』
クルルの声を聞いた大勢の神々が一同に目を丸くしている。
「テラスに、天岩戸の前で何かやっている、騒がしいな……と興味
を持ってもらって、岩戸を少しでもいいから開けさせた後に戸を開
けてテラスを引っ張り出すのが、この作戦です」
クルルの話を聞いて神々は皆それぞれに考えているが、これだけの
神様がいるのだからまとまる訳もなく、ただ時間がすぎるばかりだ
った……が、沈黙を破ったのは、オオクニヌシだった。
「やってみる価値はあると思うの……」
「……私も賛成です。オオクニヌシ様」
さすがは、建国コンビだ。
スクナビコナがオオクニヌシに微笑むと、スサノオとツクヨミにも
協力を仰いだ。
「邪魔をする気など、もうとうございませんので。私も賛成ですわ」
「あの霊峰富士の認めた男の提案ですしね。しかし、姉貴にも困っ
たものです」
テラスを姉と言ったスサノオも今は女神だった、テラスとツクヨミ
は分かるとして、スサナオまで女神なんだから……三貴神ですら女
神な天界の片寄った繋がり事情が伺える……。
「アメノタヂカラオとアメノウズメノミコトには頼みがあるの」
ツクヨミが突然に二人の女神を呼ぶと、他の神々がざわついた。
『ツクヨミ様に名前を呼ばれるなんて……羨ましいかぎりですね』
呼ばれた二人に問題があるとかではなく、羨ましいのでざわついて
いる……そんな感じだ。
この世界には、たくさんの神々がいて上位の神から名前を呼ばれる
ことは、至極名誉なことみたいだ。
オリヒメに、そう教えてもらったクルルは自分を取り巻く環境がい
かに特殊なんだと再認識したのだ。
名前を呼ばれるだけで、ものすごい名誉なことなら、いろんな神と
交流を持ち更には神々の母でもあるミーコと結婚までしてしまった
のだから、クルルってどれだけ上位の存在になってしまったのだろ
うか……本人も分からないのであった。
「なぜ私が呼ばれたのかしら?」
アメノウズメノミコトはオオクニヌシに問いかけながらも、視線の
半分はクルルと初芽に注がれていた。
(ウズメのバカチンが、俺に手を振るなー。オオクニヌシに怒られ
るぞ)
視線の半分がクルル達にむけられていて、威厳もなにもあったもん
じゃないオオクニヌシだったが溜息をつきながらも説明し始めた。
「クルル様の作戦を実行するにあたってです。踊りの得意なあなた
にダンス大会の指揮をお願いしたいの」
「私が仕切っていいのですか?」
「はい、こういう事は芸能の神でもあるあなたが一番の適任ですか
らね」
「じゃあ! クルルシアンを中心にしたダンス大会にしてもいいで
すか? もちろんチークもありで」
「……それはクルル様の了解を得ませんとなんとも」
オオクニヌシがチラリと俺を見て、お願いしますとばかりに目を潤
ませている。
国造りの中心人物だった神様だが、今は代替わりしてなのかメガネ
っ子で学級委員が似合いそうな美少女だ。
「しかたがないか」
俺のボヤキともとれる回答に、ウズメが大喜びして他の神々に向か
って叫んだ。
「みなさーん、よく聞いてね。今宵ここでアマテラス様に興味を抱
いてもらうダンス大会が行われます。主役はこちらにいらっしゃる、
霊峰富士のご主神様であるクルルシアンです。なんと今回は特別に
チークを彼と踊れますよ、その時に繋がってもOKでーす」
『うおおおおおおおおおー』
「なんだと!? 俺はそんなこと言ってないぞ」
ウフフと俺にウインクしてきやがったウズメを睨んだが、さっと目
をそらして口笛を吹いてる。
「ミーコ……なんとかしてくれ」
「私は構わないけど」
「……いいのか? 繋がるんだぞ」
「ユウが言いたいことは、何となくわかるけど私は気にしないし、
結婚式の時に誓ったもん、ユウの嫁が増えても文句を言わないって」
ミーコが文句を言わなくても、俺は文句があるぞ。
すぐに撤回をしてもらわないと、嫁の数が八百万になってしまう。
慌てて、ウズメの発言を撤回しようとしたが、すでに集まった神々
は大興奮しており、ザワザワどころではなかったのだった。
『繋がるぞ、繋がるぞ、ワッショイワッショイ』
ダメだ……誰も俺の話を聞いてくれるような状況じゃない……頭を
抱えていたクルルに、ウズメがニコニコして言った。
「ねっねっ、もりあがってきたでしょ! 今夜はオールよオール」
「……おバカ」
天岩戸の前は、神々の歓声でかなり騒がしかった。
こうなったら仕方がないと渋々クルルも覚悟を決めた時だった。
ガラガラ……天岩戸から音がしたけど……クルルが岩戸を確認する
と、ほんの少しだけ戸が開いていた……。
もしや、とクルルがウズメの耳元で囁いた。
ウズメが了解したとウインクして、神々に向かってさっきより大き
な声で叫んだ!
「クルルシアンと繋がりたい女神は、手をあげてくださーい」
『はい、はいはい、はーい』
女神達が、一斉に手をあげながら奇声をあげた。
その光景を見ていたテラスが、怒りながら顔だけ出した!
「ちょっとユウマと繋がるなんて、私が許しませっ、えっ?、きゃ
ああああああ」
アメノタヂカラオが、クレームを入れようと顔だけ出してきたテラ
スを掴むと、岩戸をぐっと押し開けた。
パアアアア……辺り一面を暖かな光が包む。
漆黒の闇とかした世界に、太陽の光が戻ってきたのだった。
「おかえりなさい……でいいのかな? テラス」
「……ユウマ……ユウマー、わたし、わたし、あのね、あの、びぇ
ーん」
ユウマの胸に飛び込み泣き崩れたテラスだった。
※※※
「太陽って暖かいワン」
「……東の総帥として……今回の件はお説教ですね」
「ミーコが怒ってる」




