46 ミーコ先生の神様物語
テラスの件もあるので明日にはここを出発することにしていた。
クルルガールズも今日は、お世話になった神々へ挨拶周りをしに
行っていた、そんな中、クルルはミーコに呼ばれて樹海の奥にある
不思議な空間を訪ねていた。
「クルルさん、いらっしゃい」
「やあ、いったいなんの用かな?」
樹海の中とは思えないほど、明るい場所で綺麗な花が咲き乱れて
いた。
ミーコがお茶を用意してクルルを待っていた、席に着くとさっそ
くお茶をすする。
ホッする柔らかな甘みのる味だった。一口飲むごとにホーっと息
が漏れる……。
そんなクルルを微笑しながら見つめるミーコは、なんだか嬉しそ
うだった。
「どうしたの、なんかいいことでもあった?」
「ウフフ、クルルさんに名前を付けてもらってから島中の神から喜
びと力を感じるの……きっと信仰に近い何かが入ってきたんでしょ
うね……絆とも言えるかしらね」
突然、ミーコがクルルの手を握る……えっ? 少しびっくりして
ドギマギしているクルルにミーコが、しーっと指を口にあてた。
「やっぱり思った通りね」
「ん? なにがだい」
「あなたのスキルを破壊したじゃない、代わりに何かあげようかと
思って少し調べたんだけど……この島の全部の神に呼び名を付けた
からかしらね? 加護が大量に授かっているわよ、きっとこれって
……この島の神々の全部の加護ね。だって神の名前が入りきらない
らしくて、森羅万象の加護って纏めてあるもの」
「それって……また八百万の加護みたいなスキルが付いたってこと
かな?」
「んーん、違うわね……正真正銘のクルルさんが自ら手に入れた加
護だから、誰かに臆することもなくバンバンつかっていきなさいよ」
「……そんなこと言われてもな〜」
「まあいいわ、使えと言って使える物でもないからね、クルルさん
も知っての通り必要に応じて勝手に発動するからね〜」
クルルにしてみれば、強引に付けられたスキルじゃないので気に
しないことにしたのだ。
ここでふと疑問に感じたことがあり、ミーコに聞いてみることに
した。
「そういえば、ミーコはテラスとかゼウスとかって普通に呼び捨て
してるけど……けっこう位の高い神様なのかな?」
その質問に、えっ!? 知らなかったのとビックリした顔のミー
コ……。
それもそのはずだ、クルルとしてのユウマがこの始まりの世界の
神々に疎いのもあるが、他にも理由があったのだ。
「そっかー、この話は誰も知らないんだっけ。五十年前だもんねー」
(……五十万年……?)
驚くクルルの前で、一人で納得してウンウンと頷くミーコ……。
少し待っててと言ってミーコが一度この場を去っていった。
クルルは、一人待たせれることになり最初のうちは、珍しい草花
を見つけてはウォッチの辞典技能で調べたりとしていたが、いつの
間にか眠ってしまった……。
「旦那様……旦那様」
聞きなれた声に目が覚めると、クルルガールズが勢揃いしていた
し、ミーコ以外にもサイコ、ジュリ、フウコ、ヒーまでもが集まっ
てきていた、さらにはミーコが明らかにおかしい姿だった……。
「ミーコさん? その格好は、なんなんだい」
「せ、ん、せ、い……ミーコ先生と呼んでほしいの」
「…………」
先生と呼んでほしかったミーコの姿は、メガネにポニーテール、
そして紺のスーツを着ていたのだ、たしかに教師っぽい服装ではあ
ったが……ロリッ子ミーコがすると、少し危ない気分になってきた
……。
ミーコはクルルの前で、どう? どう? と感想を求めていた。
「かわいいと思うけど、ミーコには少し大人っぽいかもね」
「……私は大人ですけど何か?」
またしても地雷を踏むクルルであった……。
少しブクッと頬を膨らまして怒っていたミーコだったが、何度か
クルルが謝って頭を撫でたからだろうか気を取り直したようだ。
「コホン、ではこれから授業を始めるよ」
いったい、いつの間に作ったのだろうか? ミーコの後ろには横
断幕が準備してあったのだ……。
そこには『ミーコ先生の神様物語』と書いてあった。
クルルはやっと理解した……さっきした質問をミーコが教えよう
としているのだという事に。
「……ミーコさん、そこまでしなくてもいいじゃん」
「あらいいじゃないの、この横断幕どう? 急遽お願いて作っても
らったのよ」
「……誰にさ?」
「ヌノミ、モクミ、オハナちゃん達によ」
「布の神、木の神、花の神かい? だから文字が花びらで出来てい
るのか……ある意味すごい作品だな」
ミーコは、エヘヘとご機嫌な笑顔を振りまいた。
「では、始めますからね。今日はこの世界の住民の方も呼んであり
ます」
「それって、黒姫達でしょ」
「この話は、この世界の住人も知らない……始めての物語なのよ」
クルルの横で、ペンとメモを持って正座しているクルルガールズ
は真剣そのものだった。
改めて咳払いをしてから、ミーコによる物語が始まった。
……そうあれはなどと言いながら神妙な面持ちのミーコだったが、
あっさりとクルルが突っ込んだ。
「ミーコさん、やりたいだけなんでしょ? 普通でいいんだけど」
「ぶぅー、クルルさんの意地悪」
ぷっとふくれ顔になるが、今回はそれだけにして話にもどった…
…。
役五十億年前の事だそうな、この始まりの世界エクスキャリント
にはミーコが生まれる山が海に浮いているだけだったのだ。異世界
の存在もなかったそうだ……。
まさに、始まりの世界でありそこに存在していた山。
「五十億年前って……壮大な歴史だね?」
はっ!? クルルの顔にビックリマークが見えたような……すか
さずミーコが言った。
「クルルさん……勘違いしてるみたいだけど、私が生まれたのは四
十九億年前だからね……そんなに、オバサン扱いしないでちょうだ
いね」
一億の違いを言われても……すでに四十九億歳……すでにオバサ
ンさんですらないのではと思うが……また面倒なことになりそうだ
からと、流すことにした。
ミーコは世界が誕生した一億後に、海に浮いていた小さな山から
生まれたのだ。
霊峰富士と呼ばれるようになったのは、人が言葉を話すようにな
ってからのことだった。
まず、ミーコは生きていく為の信仰を集めようとして異空間に四
十八個の種を植えた、この種はミーコの髪の毛から作られた物で、
ミーコの力を宿していた。
四十八の異世界には必ず霊峰富士があるのは、その為なのだ。た
だしオリジナルとは力がダンチなのだが、それでも自分の世界を発
展させるのには、問題なかった。
ユウマのいた地球は最後に誕生したので今からだと約四十六億年
前だとミーコが言っていた。
話は戻るが、ミーコは信仰をもたらす人の誕生まで土地や生物の
進化を手伝いながら待った……人はミーコが生物を進化させなけれ
ば誕生しなかったかもしれない。
異世界の事はミーコの分身達に任せたが連絡を取り合っていたの
で進化の過程は同じだったかもしれない。
海からは海底火山の噴火により島ができ、島と島がくっついて大
陸になりと変化していく……待ちに待った人が誕生したのが今から
約五十万年前のことだった、喜んだミーコは人を護り繁栄できるよ
うに、ミーコの爪から十二人の神を生んだのだ。
その中には、テラスやゼウスなどの名だたる神がいた……もちろ
んシバの名前もあった。
十二人の神は、異世界も含め各地を飛び回り人の繁栄と信仰の収
集の為にがんばっていく。
ただ、異世界のいくつかには人が誕生しなかった世界もあったの
だが、神々の活躍と人の生存能力により各世界からの信仰の力は膨
大となったいった。
人は長い年月を掛けて進化していったが、世界によって進化の過
程も度合もまちまちだった。
ユウマのいた世界では人間種しかしないのは、そういった経緯も
あったのだ。
そして神と人は五十万年の時を経て現在に至ったのだ……。
ミーコが天を仰ぎながら、深く長い溜息を吐くが四十億年近い年
月の深さは、さぐがにクルル達には分からなかった。
「……ミーコ様……あなたは、全ての神と人の生みの親なのですね」
「クルルさん……突然のように言葉づかいを変えないで……」
「てへっ。じゃあいままで通りにミーコでいいよね……そうだ!
ミーコも俺の事をユウマでもクルルでもいいからさ、呼び捨てにし
てよ」
「……いいの? 一応さ……名前を付けてくれた人だしさ」
「そんなの関係ないじゃん、好きに呼んでほしいな」
「好きだから呼んでほしいだなんて……いきなりの告白……」
その天然バリバリの勘違い回答に、クルルガールズもサイコ、ジ
ュリ、フウコ、ヒ―までもが手をブンブンと振っていた……言って
ない言ってない全員の目がそう訴えていた。
(……おねいちゃん、まずいワンよ……究極にして至高で最大で最
高のライバルだワン)
(旦那様が決めることだけど……どんどん遠くにいってしまうよう
な……)
(あるじ……)
(パパ……いつかは娘から妻にしてほしいです)
(マスター……たとえ霊峰富士の神が相手でも私だって引きません
よ)
クルルに寄せるミーコの眼からハートマークが見えるが、無視し
てクルルが聞く。
「ミーコは、テラスのお母さんなの?」
「……そう言われるとそうかもしれないが、すでに代替わりも重ね
ているようだしね玄孫とかそういった感じかな、それに今の四大神
には会ったことがないので……よく分からないよー」
「そうなんだ……森羅万象の加護を教えてあげた時は、今のテラス
じゃないのかー」
「あれは、数千年前ぐらいに私が作ったのを教えた物だから今ので
はないよ」
「そうなんだ、八百万の加護の本当の使い方を教えてあげないとね」
「アハハハハ、それがいいね。繋がる為のスキルじゃないって言っ
といてよ」
ミーコは、ニコニコと微笑んでクルルの方をパンパン叩いていた。
「そうだ! ユウ、あなたにあげたいものがあるの……手を出して
くれるかな」
「ん? ユウって呼ぶことにしたの……なんか照れくさいなー」
クルルが言われるがままにミーコの前に手を出した……周りの皆
もミーコが何をあげようとしているのか興味津々で見ている。
ぐいっと手を引かれるクルル……少しだけニヤっと笑ったミーコ
……。
それにハッと気が付いたのが三人……。
「旦那様、いやだー」
「マスター、いけません」
「ミーコ様だめですよ」
黒姫、オリヒメ、サイコが叫ぶが時すでに遅しであった……。
クルルとミーコの手と手が結ばれるとクルルの手の中にミーコの
手が入っていき二人の体が輝きだしたのだ。
(ああ、なんだろうこの気持ちは……とても安らぎを感じる何かに
包まれているような……記憶が蘇ってくる、そうこれは……母さん
のお腹の中にいた時の感覚だ……)
(ユウ……分かるかな、あなたと私が繋がっているのが……これが
私からあなたに、あげたいもの……)
二人の輝きがおさまっていく、ユウマとミーコが二人抱き合いな
がら静かに目を開けた。
「いきなりなんだから……そういうとこテラスにそっくりだ、ん?
テラスがミーコに似ているのかな」
「ウフフ、そう言わないで……ユウ、愛してます」
「……ミーコって俺の事、好きだったの?」
「それは酷いなー。あなたがこの島に来たときから気になってたし
……でも名前を付けてくれた時かな、あのとき……一目惚れしたの」
ミーコは、恥ずかしい恥ずかしいと顔を手でパタパタやっていた。
「盛り上がっているとこ悪いんですけど……ミーコ様どういうこと
ですか?」
「だって……好きになちゃったんだもん」
「だもんって……クルル様を伴侶として選んだのですね、気まぐれ
とかじゃないですよね」
「あたりまえです。四十億年近く生きて初めて繋がったのがユウな
んですからね」
「……分かりました」
ミーコとの会話を終えたサイコがクルルに近寄って地面に座った、
それを見たジュリ、フウコ、ヒーも同じようにクルルの前に座ると
頭を深々と下げたのだった。
慌てたクルルが、やめるように言ったが女神達はそのままの体制
で二人にお祝いを述べたのだ。
『ご結婚おめでとうございます』
ひっくり返るクルルとクルルガールズ……繋がるの意味は知って
はいたが、面と向かって言われてビックリしたのだった。
さすがのクルルガールズも、婚約を通りこしてのいきなりの結婚
に怒り出した。
「ご主人様、さすがに結婚はずるいワンよ」
「マスター皆は婚約で我慢してるんですよ」
「あるじ……いくら神でも……ずるい」
「パパ……修羅場なのですか?」
「……旦那様……私だってすぐに結婚したいのに」
婚約者として今までクルルと一緒にいた彼女達は、結婚は同時に
しようねって乙女の約束をしていたようで、さすがに神様でもそこ
は譲れないのだ。結婚後に増えていくのは不本意ながらも仕方がな
いとは思っているようだけど、結婚はダメなのであった……乙女な
のだ。
※※※
「……次話まで、このままなの?」
「だからちゃんと相談してと言ってるワンのに、いつもいつもご主
人様は……」




