45 クルルと真ん中の島の神々
クルルとして、氷の球体から目覚めたユウマの前に黒姫が現れた
……。
「だ……旦那様!?」
何かを感じて目を覚ました黒姫がクルルの様子を見にきていたの
だ。
湖の畔には、球体が無くなっており、もしやと思った黒姫は足早
で置かれていた場所にやってきて状況を確認した……。
黒姫の目の前には、最愛の人が少し照れ笑いをしながら立ってい
たのだ。
あぁぁと泣きながら、黒姫はクルルに飛び込んだ……。
「心配させて、ごめんね」
「旦那様、旦那様、だん……なさま」
ひっくひっくさせながら、大粒の涙がいくつもいくつも頬をつた
い流れていく。
「私……ごめんなさい……旦那様の気持も分からずに……」
「あれは、俺が悪かったんだよ。ごめんね黒姫」
クルルと黒姫は、抱き合いながらお互いにに謝り続けた……黒姫
の泣き声に気がついたのか、初芽とルルが走ってくる。
「あるじー、あるじー」
「パパー、パパー」
二人とも走る速度を落とさずに、そのままの勢いでクルルと黒姫
に飛び付くと、そのまま湖の中に入ってしまった。
バシャバシャと響く湖……びしょびしょになりながら、クルルの
目覚めを喜んでいた。
黒姫、初芽、ルルが交代でクルルと抱き合う、今までの空白を取
り戻すかのごとく……。
あまりにも、バシャバシャやっていたので水を被った小さな少女
が目を覚ました。
「もう……びしょびしょですよ……えっ? マスター」
「やあ、目が覚めたかい?」
クルルと一緒に閉じ込められた後に眠っていたオリヒメが、目を
覚ましたのだ。
ああよかったとばかりに、クルルの回りを飛んでいる。
喜びにひたるオリヒメが何かを感じたのだろう、少しだけ警戒を
したがすぐに黒姫に制止させられたのは、現れたのが湖の神と樹海
の神だったからだ。
二人の女神はニコニコしながら、クルルの前に来て挨拶をしてき
た。
クルルもそれに答えるように、挨拶を返す。
黒姫達が、女神達にお世話になっていることをクルルに話すとク
ルルは、深々と頭を下げてお礼を述べた後は、しばらく会話を楽し
んだ。
ふとした時にクルルが白姫の事を聞いてきた、黒姫が修業に行っ
ていることを伝えると会いにいく話になって、ルルがクルルに自分
が連れていくと竜に戻った。
その美しく立派な臙脂色の竜にクルルは、驚いたのだった。
湖の神が連絡しといてくれるとの事で、さっそくルルの背中に乗
ると皆で風穴に向かった。
「ルル、すごく立派になったね。もう子供扱いできないね」
「ありがとうパパ……あの……謝りたいことがあります」
ルルの声色が下がっていくのが分かった。
「パパに買ってもらった、白いキャミソールを破いてしまいました。
ごめんなさい」
クルルは、驚きを隠せなかった……キャミソールの事ではない。
ルルの話し方がずいぶんと変わっていたからだ……少し前の子供
だったルルはどこにいったのやら、今のルルはとてもしっかりした
女性になっていた。
「竜に戻った時かな? 気にしないでまた買いに行こうね」
「ありがとうございますパパ……はやくパパに、謝りたかったから
……」
クルルは、竜になったルルの広い背中を優しく撫でたのだった。
黒姫に、ウインドウォールを掛けてもらっても息苦しい程の速度
で、あっという間に風穴に到着すると入口には懐かしい白いモフモ
フが待っていた。
「こちゅ……えーん……ごちゅ……ご主人様ー」
以前よりも一回りは大きくなった白姫が、クルルに飛び付くと頬
をペロペロと舐めまわした。
クルルは、優しく頭を撫でながらモフモフを堪能する。
「……あれってチュウだ……白姫ずるいぞ」
「……あるじとチュウ」
「白ママ……どさくさですか? 本能ですか?」
「マスター白姫ちゃんのは、わざとらしいですね」
「ちがうワン……愛だワン」
理解に苦しむ白姫の言葉がきっかけで、久しぶりのクルルガール
ズによる争奪戦が起きようとしていたが、風穴の奥から現れた女神
の気配によって防がれたのだった。
目の前の女神は、ニコッと微笑んでクルルに向けた眼差しには弟
子を見守るような暖かみがあった。
簡単ではあったが、お互いに挨拶を済ませると風穴の神がクルル
へ伝言を伝えた。
「湖の神からクルルさんが、来たらここでパーティーするから待っ
ててと言われてるの」
「えっ? さんざんお世話になったのはこっちなのに……悪いです
よー」
「フフ、白から聞いてきた通りの方ね……大丈夫よ。みんなで騒ぎ
たいだけよ」
いったい何を聞いたのかなと思ったが、折角の神様からのお誘い
だからと待つことにした。
やがて、湖の神が樹海と氷穴の神を連れてやってきた。
それぞれが、食べ物なども持ち寄ってするみたいだったのでクル
ルからも差し入れをした。
久しぶりの、食べかけリンゴウォッチの出番だった。
「……旦那様……出しすぎかと」
「アハハハ、今まで色々と保管してたのを出してみたよ」
クルルは、神様達に奉納する分も含めて出したのだ少しでも感謝
の気持ちを表したかった結果だ。
準備が整うと、楽しく豪華なパーティーが始まった。
クルルガールズは、今日までの間の寂しさや不安を払拭すべく騒
いだのだった。
ワイワイガヤガヤといった音が風穴から漏れると、風にのって島
中に流れたらしく、いつの間にか、たくさんの神々が顔を出してき
たその中に……霊峰富士の神も……いたのだ。
森羅万象……たくさんの神々も流石にシーンとなって霊峰富士の
神へ視線を向けた。
「……ずるいわよ。いつも誘ってくれないんだから」
そんな可愛い第一声になるとは思ってなかったのだ……会場から
は、安堵の声が聞こえた。
「ごめんね、こういう集まり嫌いじゃなかったかしら?」
湖の神が、フォローとは思えないことを話すと霊峰富士が笑いな
がら返す。
「この島の代表だからって、神嫌いじゃありませんよ。いつの間に
かそんなキャラにされたんだわ……」
まったくもうと、腕を組んでいる霊峰富士の神は、とても可愛い
女の子だった。
小学生ぐらいの背丈だろうか、銀色の髪をしなやかになびかせて
少し幼いが整った顔をしている。
「初めまして、この島で皆が大変お世話になってます、私も霊峰の
力に助けらました。ありがとうございます。クルルシアンと申しま
す、よろしくお願いします」
「かたい挨拶は抜きですよー。いいから早くお酒を注いでちょうだ
い」
「霊峰富士の神様って未成年ですよね?」
「クルルさんは、何を言ってるのかな……?」
そのセリフを言った瞬間に、クルルを後ろから羽交い締めにして
口をふさぐ湖の神と樹海の神がいた。
「ぼそぼそ……」
「えっ!? 数千年も……」
霊峰富士の神が、湖の神に睨みをきかせている、アハハハと笑い
ながら先に逃げた樹海の神……。
「まったくもう、失礼しちゃうよね。神にとっての千年なんて大し
たことないのに」
頬をプクーっと膨らませて、プリプリ顔の霊峰富士の神……クル
ルが思わず頬を指でプスッと挿したとたんに、可愛い唇から息が漏
れた。
それを見ていた森羅万象の神々が、跳び上がって驚いた。
あっちこっちでザワザワが止まらない……。
「なななななっなんてことするのよー」
「だって、すごく可愛かったからさ」
「あなたねー私これでも神様だし、けっこう偉いのよ」
「気にしない気にしない」
深い溜め息をついてから、霊峰富士の神がクルルに問いかけた。
「天真爛漫と言うか……あなたが、神々から好かれるのがよく分か
るわ」
「…………」
「あら、まだ気にしてるの? そんなに八百万の加護が気になるな
ら、そのスキルを取り外してあげようか?」
「そんなこと、出来るの!?」
半信半疑といった顔のクルルに、すこしどや顔で話を続ける……。
「か、ん、た、ん、よ! だってそれってテラスやゼウス達が作っ
たやつじゃんか、私がオリジナルを発明したんだから、コピー品な
んてこうよ!」
霊峰富士ね神はそう言うと、クルルの額に手をあてて目を閉じた。
グルングルンと体内の血が逆流していくような、不思議な感覚が
したかと思ったその時だった……パリン……クルルの体の中で何か
が割れたような音がした。
「フゥ……終わったよ」
「本当……?……これであのスキルとは決別したってことなの?」
「もうクルルさんの体にはスキルは備わってないよ、ただし今まで
授かった神々の加護は取れなかったよ。こればかりはスキルと別物
だからね」
「あっありがとう、ありがとう。ミーコ」
「なぬ? ミーコだって」
クルルの前で顔を赤く染めながら照れまくりの、霊峰富士だった。
さらには、森羅万象の神々が今度は椅子から転げ落ちた……。
「えええええー……ミーコ……それって私の呼び名ってこと?」
「そうだよ。だってさー霊峰富士の神だとさ長いじゃん……あっ、
嫌だったかな?」
霊峰富士の神ことミーコが、フルフルと顔を左右に降った。
クルルも、我ながら素敵な呼び名をつけたなと満足顔だった。
「あのさ、もっかい……その……呼んでほしいな」
「ミーコ」
「きゃわわわわーん」
頭から湯気を出して倒れたミーコに、森羅万象の神々が駆け寄っ
て介抱する。
少し心配しながらミーコを見ていたクルルの背中をトントンと誰
かが叩く、ん? 振り返るとクルルガールズが全員整列していた。
しかもじっとりとした目を向けている。
「旦那様……これで分かったでしょ」
「結局、八百万の加護があるとか、ないとか関係ないんだワンね」
「……またライバル……しかも神様」
「パパ……少しは、ママ達に悪いなとか思わないの?」
「マスターが、神々に好かれるの絶対に八百万の加護スキルと無関
係でしたね」
「……そう言うなよ。まるで俺が女好きみたいじゃないか……」
クルルガールズは、全員で溜め息をつくと今後の展開の為の準備
を始めた。
「……ゴニョ」
「そんなー、全員の呼び名をかい?」
クルルが初芽からの話に悲鳴をあげた時には、すでに遅かったよ
うだ……。
神々がモジモジし始めたのだ。はいはい分かってますよとばかり
に会場の机をいくつか並べてカウンターを作ると黒姫と白姫が受付、
初芽とルルが整理誘導、オリヒメがアドバイザーの体制を整えた。
「旦那様……最後までやってあげないとダメですよ」
「はーい、並んで下さい。呼び名をご主人様が神々に授けますワン」
ザワザワ、モジモジ、モジモジしながらもドンドン列が長くなっ
ていく……。
「何人いるんだろ」
「……八百万です。マスター」
ガクッと地面に崩れ落ちたクルルをルルが、いい子いい子してる。
「白ちゃん、師匠である私が一番でいいよね?」
「はっ? なにいってるの、最初に会った私が先でしょ?」
「……ちゃんと並ぶワンよ」
そう言われて列の最後尾をさがすが、すでに目視不可能な長さだ
った……。
――現在呼び名を並んでいる神々に付けております……しばらくお
待ちください――
風穴で呼び名を神々に授け始めてから……十日は過ぎたであろう
か、クルルは最後の一人に呼び名を付けると過酷だった名づけ親と
しての責務から解放されたのだった。
最後につけた呼び名は、オハナコだった。彼女は小さな花の神だ
った。
ちなみに、湖の神はサイコ、樹海の神はジュリ、風穴の神はフウ
コ、氷穴の神はヒーだった。
真ん中の島に住む全ての神に呼び名をつけたクルルであった。
※※※
「旦那様、なぜミーコなの?」
「富士でトミ子でミーコ」
「あんちょこな考えだワン」




